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ランデレイルへ

いつもお付き合いいただいている皆様へ、お詫びを。

前回、3/31に更新した「螺旋の夢」ですが、コピーミスで抜け落ちた部分がありました。当日中に修正いたしましたが、更新日当日の夕刻までに読んでいただいた方は、よろしければご確認くださいませ。

今後、気をつけます。


では、続きをどうぞ。

「あの人たちはどうだろう」

「えー、人相悪いよ。どう見ても悪者じゃない」

 次の日、トリウィとラミアルは日も明けぬうちから、町のランデレイル側の出口でこの町から出ていく戦士たちを品定めしていた。

「あの人たちは?」

「まださっきの人たちの方がましだよ」

 夕べ考えていたよりは、多くの戦士がランデレイルに向かって歩いていく。やはりこのロイズラインから向かうほうが安全だと、皆考えているのだろうか。しかし、見事なくらい悪人面をした連中ばかりだ。トリウィですらぐずぐずと、選り好みをしている。

 すでに密林の上から太陽が顔を出し、道を行く人々も、農園へと向かう農民がほとんどになってきた。

「やばい。もうランデレイルに向かう人がいなくなっちまう」

「別の方法を考えようよ」

「なに言ってんだよ……わ、わかったよ、次、次に見かけたらその人たちに決めよう」

 二人のやり取りに半ば呆れながら、トワロはそっとため息を漏らす。ふう。あの程度の人たちなら、束になってかかってこられても二人を護ることなどわけないけど。今更それも言い難い。かといって彼らに任せていたのでは、いつ着けることか……。

 ――やっぱりこの子たちはほっといて、一人で行こうかしら。

「あっ、来たっ」

「よしっ、行けっ」

「あたしっ!?」

 尻込みするラミアルをトリウィが押し出す。仕方なく彼女は進み出た。

「あなたは何をやっているんですか」

 そんなトリウィを、思わずトワロがとがめる。ラミアルを守ると言っておきながら、その背中に隠れるような振る舞いをするなんて。

「いいんだよ。交渉事は、あいつの方がはるかにうまいんだから」

 だがトリウィは、そう言って笑う。

「……そうですか」

 なんか、惚気られているみたいで、トワロにはおもしろくない。そしてラミアルはと見れば、女二人に男一人という組合せの戦士たちに向かって、身振り手振りも織り交ぜながら、何やら話している。たまにこちらを見ているのは、トリウィとトワロのことを説明しているのだろう。夫を亡くした可哀相な女としては、なるべく変な説明はしないで欲しいのだけど。そんなことを思っているうちに、ラミアルがこちらをむいて手招きをした。

「こちらコクアさんとゼオブロさんとフェニルさん。一緒に行ってくれるんですって」

 いちばん年配の大柄な女戦士がコクアだろう。ぼさぼさの黒髪の下の目をなぜか赤く腫らしている。

「あんたがトリウィかい。いいかい、頑張るんだよ。負けるんじゃないよ」

 そう言って、ごつい胸に抱き寄せる。その後ろで、残りの二人も、うんうんとうなずいている。

「何を言ったんです?」

 トワロは、ラミアルの肘を引っ張って小さな声で訊ねる。

「ちょっとね。あいつらって、ほんと単純。キシュなんてちょろいわね」

 そう言って、にやりと笑う。トリウィは、まだ背中をばんばんと叩かれている。だが顔を真っ赤にしながらも、なんとか話を合わせているようだ。

 たしかに暴力に訴えられることさえなければ、頭脳に月の力を受けるヒシュにとって、キシュを思い通りに動かすことなど、赤子の手を捻るよりも容易いことかもしれない。ヒシュであることとは無力であること、そう思い込んでいたトワロにとって、ヒシュの力の片鱗を目の当たりにしたことは、今更ながら大きな驚きだった。

「さあ行くよ」

「大丈夫。俺たちが守ってやるからよ」

「そうだよ。頑張りな。今日の夜には、ランデレイルに着くさ」

 コクアら三人は、トリウィを囲んだまま、歩きだした。


 コクアたち三人と同行したのが功を奏したのか、ランデレイルへと至る道程は、したる事件もなく過ぎていった。日蝕からスコールにかけて、途中の駅で休憩した時に、トワロとラミアルが、一緒になった他の男たちにいやらしげな目で見られたくらいで、特に声を掛けてくるものもおらず、襲ってくるものもおらず、夕暮時には無事ランデレイルの城下町に入った。

「それじゃあ、あたしたちは城へ向かうけど、元気でいくんだよ」

「どうも、お世話になりました」

 殊勝らしく、トリウィが頭を下げる。

「いいってことよ」

「じゃあね」

 そう言って、コクアたちは立ち去った。

「いやあ、いい人だったなあ。やっぱり俺の人柄ってやつ?」

「……」

 ラミアルは、脳天気なことを言うトリウィを睨みつけるが、一日中歩き詰めのせいで、憎まれ口を利く元気もない。それに比べれば、トリウィはさすがに体を鍛えているということだろう。

「さあ、ランデレイルに着いたけど、もう日が暮れちゃうしな。城に行っても城主には会えないだろうなあ。トワロさんはどうすんのさ」

――あの子は、この町のどこにいるのだろうか。

「トワロさん?」

――あの男がこの町で死んだからといって、あの子までこの町にいるとは限らないのに。

「トワロさんってば」

――そういえば、わたしはあの子にまだ名前すら付けていない。名前も知らないのに、捜し出せるはずがない。

「ねえって!」

――大体、会ってどうしようと……

「えっ!?」

 トワロは突然我に返り、トリウィに振り向いた。怪訝な顔をした彼が、トワロの白い顔を覗き込む。

「なに、ぼうっとしてるんだよ」

「ごめんなさい。これからどうしようかと……」

「ねえ、とりあえず、どこかで休まない?」

 疲れた声で、ラミアルが提案する。

「そうしようぜ。トワロさんも、それでいいだろ」

 そういうと、トリウィは、まだ人通りの多い通りを、街中に向けて歩き出した。


「……。ねえ、なんか雰囲気悪くない?」

「柄悪いよな」

 とりあえず選んだ店で席に通されたトリウィとラミアルは、額を寄せ合ってぼそぼそと言葉を交わした。

 店構えは上品な感じで、ラミアルもこの店に入ることを反対しなかったのだが、店内の様子は違った。人相の悪い男女が、酒を呑んで騒いでいる。トワロが店に入ったときには、口笛が飛んだ。

「よく考えたら、この町へあれだけまともじゃない人たちが入ってきてるんだから、町全体がこんな雰囲気になってるんじゃないの?」

「やっぱりお前もそう思う?」

 そう言うと、トリウィはちょうど注文を取りにきた給仕に、小声で訊いた。

「ねえ、この町は、ずっとこうなの?」

 そう言って、辺りを目で指す。

「……。ええ、今の城主に変わってから、こうですね。特に暴れたりはしないのですが」

 給仕も顔をしかめながら小声で答える。とりあえずヒシュの商人たちにとっては、ロウゼンの評判はよくないらしい。トリウィの表情が暗くなる。

「あんたがここへ来るって言ったんだからね」

 ラミアルの冷たい物言いに、トリウィは少しむっとした様子で背を伸ばす。

「……いいんだ。俺は王者に会いにきたんじゃなくて、無敵の戦士に会いにきたんだから」

「どうやって?」

「会えるまで、城の周りをぶらつくさ。それより、トワロさんの息子さん……。娘さん?」

 あからさまに話をそらそうとするトリウィの問いに、苦笑しながらトワロは答える。

「娘です」

「どこにいるのさ。会わせてよ」

「ちょっと、トリウィ!」

「なんだよ。いいよね、せっかくここまで一緒にきたんだし」

 トワロはさらに小さく笑う。

「構いませんけど。今どこに住んでいるのかは、知らないんです」

「そうなの? じゃあ、どうやって探すんだよ」

「昔住んでいた屋敷を、とりあえず訪ねてみようかと」

「だったら、飯食ったら行ってみようぜ」

「えーーー!?」

 ラミアルが声を上げる。

「疲れたよ。今日は休もうよ」

「そうして下さい。今日はわたし一人で行きたいんです」

「ほら、トワロさんもこう言ってるんだし」

「ちぇっ。仕方ねえか。まあいいや。でも宿を決めてからでいいだろ」

「ええ」

「おなかすいたー」

「ガキか。お前は!」

 料理が来た。トリウィとラミアルは、たわいもないことを話しながら、箸を進める。二人の会話を笑みを浮かべて聞いているトワロの頬を、涙が伝った。気づかれないようにそれを拭う。夜が更けるにしたがって、店内の客たちにも酒が入り、猥雑な雰囲気が深まっていった。



お付き合いいただき、ありがとうございます。

早速次回予告。


「ここは?」

うるさいくらいの虫の音が、トリウィが近づくにつれて遠ざかる。いや、トリウィにいまだ残る、ダークマンティスの気配を恐れている。

「ここは」跪いたラミアルの指が、月に照らされた地面を撫でた。「彼女が生まれた土地」



五幕第四話「虚ろな月」


4/7更新予定!!

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