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すがるべき人




「駄目です! 俺はこの城を守るようにグルオン様に仰せつかっています。それを破るわけにはいきません」

「でも……」

「それに、俺はミューザ様に仕えていたこともあるんです。だからあの方のやり口も、よく知っています。この城に、二軍を残したグルオン様の判断は、間違っていません。今捜索隊を出せば、攻め込まれる隙をつくってしまうことになります。それは出来ません」

「そんなぁ」

 夕食時になっても、ペグがいない。密林に遊びにいった日は、食事に遅れることは今までもあったが、夕方の出陣を見送るときまではいたのだ。それで心配になって探してみたのだけど、城内のどこにも姿が見えない。

 まさか、と思って門番に訊いてみれば、軍の跡を追うように、彼女も城を出たという。そんな時間から密林に遊びにいくはずはないのに、どうして門を通しちゃうんだろう、そう言ってみてももう遅い。

「軍を追っていったというのでしたら、伝令を出しましょう。ですが、今出来るのは、それ位です」

「ロウゼンさんの娘なんですよ!」

「この城を手に入れるために、どれだけの犠牲が必要だったと思うんですか。ロウゼン様は、子供一人の命とこの城を引き換えにするような方ではないと、俺は信じています!」

「もういいですっ!」

 マーゴは、サルトのいた詰め所を飛び出した。

 もうっ! サルトさんなんか、全然いい人じゃない。固いのは口じゃなくて、頭なんだわっ!

――剣は、中途半端に使えるよりも、まったく使えないほうがましなんだ――

 グルオンの言葉が、マーゴの不安を掻き立てる。

 剣の稽古の真似事なんかしたから、ペグさん、自分もキシュみたいに戦えるなんて考えているんじゃあ……。でも、お城の兵隊さんは、みんなペグさんのことを知っているんだから、後からついてきてるのを見つけたら、きっと連れて帰ってきてくれるわよね。

 そう自分にいいきかせても、口をへの字に固く結んだペグの顔を思い浮べると、いてもたってもいられなくなる。

 どうしよう。サムジィさんに言っても、どうにもならないだろうし。わたしが一人で追っ掛けても、かえって危ない気がするし……

 いい考えが何も思いつかないまま、ペグがいつも出入りに使っていた左門へと向かう。だが、さっき来たときと同じように固く閉じられている。その前で途方に暮れるマーゴの耳に、かすかに笑い声が聞こえてきた。

 門から塀沿いに少し入ったところに、まだ新しい小屋がある。ラミアルとトリウィが森の民の戦士達から買い付けを行なうために、新しく建てられたものだ。筵をかけたその入り口から、灯りが漏れている。

 そうだ。あの人がいる。マーゴはその建物に、駆け込んだ。

「あの……」

「……? マーゴちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

 何やら荷造りをしながら話していたトリウィが、振り向いた。ペグを迎えるために左門まで来ても、マーゴは決してこの建物には顔を出そうとしなかったから、意外そうだ。

「あの……あの人は……」

「ああ、トワロさんね? 会いたいの?」

 もしかして、やっと親娘の再会? などと言いだすトリウィの脇腹に肘鉄を打ち込んで、ラミアルが訊いた。その真剣な表情に、ラミアルも顔を引き締める。

「え……ええ」

「知ってると思うけど、ここにはいないわよ。この時間なら、治療院で診療してるはず」

 呑んだくれていなければね、という言葉は飲み込んで、急ぐの? と問う。それにマーゴは、首肯いた。

「そう。お城に喚んだほうがいいかしら。コクアさんがもうすぐ迎えにきてくれるから、彼女に頼んで――」

「いえ、場所を教えてもらえたら、わたし、行きます」

「そういうわけには……」

 ロウゼンの二人の娘のうち、ペグのことを知らない者は、城下では誰一人いない。だが、マーゴを見てそれが城主の娘だと知る者もいないだろう。ラミアルにとって、トワロの治療院のある辺りは、密林とあまり変わりない。そんなところへ、マーゴ一人でやるわけにはいかない。

「いいよ。俺が連れてってやるよ。本当に急いでるみたいだし」

 脇腹を押さえて蹲っていたトリウィが、ようやく立直った。

「しばらく会ってないし、出立の挨拶もしたいしさ」

 そう言うと、隅においてあった革鎧を、身につけはじめる。

「何があったの?」

 こんな時間に会いたいなんて、トリウィの言うように親娘の対面をしたいという理由じゃないことは明らかだ。そう思って、ラミアルはマーゴに問うが、首を横に振るだけで答えられない。

 今までずっと会うのを避けてきていたのに、自分の都合で、自分が助けてほしいから会いたいなんて。そんなこと、人に言えない……。どうして、あの人なら助けてくれるって思ったんだろう。

「よし、いこうぜ、マーゴちゃん」

「すぐに戻ってきてよ」

「それよかさあ、コクアさん達が来たら、お前も来いよ。ハスバさんのところで、飯を食おうぜ」

「うーん。わかった。そうする」

「じゃあ、後でな。さあ、いこう」



いつもありがとうございます。

赤天連載開始一周年記念、赤天外伝ですがお約束どおり、十一月中にお送り……できませんでした(泣)

長くなりそうだしね。第四部もぜんぜんプロット立ってないしね。第三部ももうすぐ終わりだしね。

なので、ごめんなさい。第三部の終了後、外伝の連載開始、その後、第四部へ、というスケジュールにします。たぶん。きっと。出来たらいいなぁ。


次回予告。

「あなたは、私の娘だから。あなたはこの大陸すべての人を殺しても助ける価値がある」

トワロの瞳が、闇に染まる。

「でも、その娘は、私にとって何の価値もない」


四幕第九話「罅割ひびわれた心」

12/4更新予定


え? 100話記念じゃなかったのかって?

そんな昔の話、忘れたな(蹴)

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