戦気沸き立つ
「混乱は、望むところじゃねえか。数を頼むしか能がねえ奴らは、どうか知らねえがよ」
ロウゼンではなく、シージが応えた。
「それに奴らは、休みなしで戦ってるんだろう? いま攻めねえで、いつ攻めるんだ」
「混乱を望むのは、奴らの方だ。いま聞いたばかりだろう。避難民達の混乱に乗じて攻め込んできたと。しかも奴らはいつでも退けるんだ。我々が誘き出されたんじゃないという確証がない」
町に火を放ったということは、ミューザは、支配地を広げるために、今回の戦を始めたのではないということだ。ならば、不利だと思えば、いつでも逃げ出すことが出来る。
ミューザが何を考えているのかはわからない。しかし、彼を一度追い込むきっかけとなったロウゼン達を恨んで、狙っていることは十分にありうる。
それに、グルオンが以前仕えていたアデミア王は、ミューザに誘き出された挙げ句に討たれた。彼女はそれを忘れることが出来ない。
「それに、ミューザは一度マーゴを狙ったことがあるからな。用心に越したことはない」
だが、ロウゼンは首を横に振った。
「ずっと戦っていなかったから、このまま進みたいのはわかるけど、ミューザはランデレイルをまわってロイズラインへ抜けるかもしれないんだ。いまは――」
「お前にはわからないか」
そう言われて、グルオンはロウゼンの視線を辿る。その先にあるのは、すでに闇に沈んだ道と、わずかに光の残る、天蓋越しの空。そして――
「!?」
常に天頂にある月に照らされて、力が揺らいでいる。
目で見えるものではない。常に戦いの中に身を置いている者だけが感じる、力。
戦士の体だけに共鳴する、波動。ロウゼンは、これを見ていたのか。
これほど離れて感じるなんて、並みの力ではない。間違いない、ミューザはこの先にいる。そして、戦う力をまだ持っている。
グルオンの肌が粟立ち、骨から震えた。戦いが、まさにそこにある。大きく息を吸い込んだ。
やはり私は戦士なんだ。そこに戦があると思えば、心が震える。人の死が、何よりも忌むべきものだったはずなのに。いまでも、そうであるはずなのに。そこには、人の死があふれているのに。
「確かにな。簡単に退かせてはくれないだろうな」
またこの人と戦えると思っただけで、それ以外のことなど、どうでもよくなってしまう。
「シージ、お前達は、好きに戦ってくれ。だが、疲れているはずだといって、敵をなめるなよ。ミューザの兵は強いぞ」
「知っている。前に一度戦ったからな。だが、俺達は、相手によって戦い方を変えたりしない。狩るだけだ」
シージが走り去ると、ロウゼンも脚を踏みだした。一歩ごとに、大きな背中に力が満ちあふれる。
相対する者を圧倒するその力は、彼の後ろに従う一万を超える戦士達を巻き込んで、密林の木々を轟かせた。ねぐらに収まって静まりかけていた鳥達が、一斉に飛び惑う。
この人が、後ろを振り向かずに戦うこと。それが私のための戦いだ。いまはそれで十分だ。
ロウゼンの後ろをついて走りながら、グルオンも皆と共に吼えた。
いつもありがとうございます。
すいません、切羽詰りまくっておりますので、今日は次回予告だけ。
踏み荒らされた農地の中央に、王はいた。
彼も、彼の兵も、皆なすべきことを知っていた。
そう、法の子たるフェロをのぞいて――
四幕第七話「苛立ち」
ラ〜ンナウェエ〜イ!!