隣城陥落
梢のつくる天蓋から覗く空が、赤から紺へと変わっていく。獣や鳥達の気配は、二万近い軍勢の気配に圧倒されて、道の上まで届かない。その軍勢が、先頭から急に止まった。
「どうした」
軍の中程を走っていたグルオンが訊ねる。
「ロイズリンガから伝令が――」
「なんだ?」
グルオンとロウゼン、そしてすぐ近くを駆けていたシージが顔を見合わせる。独力でミューザ軍を撃退するかして、援軍は不要ということにでもなったのだろうか。だとすれば、すぐにでも引き返したほうがいい。
ミューザの戦略は、一筋縄ではいかない。そのことは、グルオンはよく知っていた。ロイズリンガ方面への侵略は陽動だったのかもしれない。
二人を囲むように立ち並ぶ親衛隊の間を、ロイズリンガの腕輪をつけた兵士が抜けてきた。すでに何度もグルオンとは顔を合わせたことのある戦士だ。ロウゼンの前に膝をつく。よほど急いできたのだろう。鍛えぬかれた城兵らしくなく、口を利くのも容易ではないようだ。それでも、荒い息の間から、言葉を絞りだす。
「ミューザ軍はすでにランデロールを落としました。町に火を放ち、我が方にもそのまま軍を進め――」
跪く使者の指が、道を抉る。
「避難民を盾に攻めてくるため迎撃もままならず、布陣に手間取る間に……」
言葉に詰まった。嫌な予感がグルオンの脳裏を駆ける。
「どうした? まさか」
「は――。すでにわが主は……」
まわりを囲む城兵達が騒めいた。ミューザの軍がロイズリンガの隣のランデロールに攻め入ったと聞いたのは今朝のことだ。伝令の走る速さを考えれば、ミューザは一日たらずで城をふたつ落としたことになる。
「お願いでございます。このようなことを申し上げるのは筋違いと承知しております。しかし、どうか! わが主の仇を!!」
その戦士の悔しさは、グルオンにはよくわかった。統一法に則った、力と力のぶつけあいこそが戦いだというのが、彼ら城兵の常識だ。
それに、ミューザのように法の裏をかいて戦う者に対する怒りや蔑みは、それに敗れた己れを、さらに惨めな気持ちにさせる。
「それより聞かせてくれ。奴らはどのように戦った。戦力は? ミューザはいたのか?」
その気持ちはわかるが、ミューザ相手に何の手立てもなくあたることはしたくない。城をふたつ、立て続けに落としたというのならば、なおさらだ。
「それが……いま申し上げましたように、避難民が殺到したために混乱しておりましたので、ミューザがいたかどうかは……」
「ならば当然、戦力もわからないな」
傍らに立つロウゼンを、グルオンは振り返った。今のやりとりを聞いていたのかいないのか、道の先を見つめている。
「ロウゼン。一度引き返そう。このまま進んでも、混乱に巻き込まれるだけだ」
いつもありがとうございます。
少し早めの更新です。
というのも、突然の寒さのせいか体調を崩しまして、とっとと寝たいんです(泣)
ふう、わしもはあ年じゃけえ、寒いんが堪えるわ。
ゆうことで、次回予告じゃ。
ロウゼンの指す方向に目を向けて、グルオンの身体は粟立った。
月明かりの下、はるか彼方に揺らぐのは――
四幕第六話「戦気沸き立つ」
11/24更新予定。
……あれ、この日ってたしか、ギフト企画の締切日……
ただいま0%。
寝よ。




