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家族と、そうでない人と



「ご心配ですか?」

「ううん。お母さんがいるんだもの。今度もお父さんはきっと大丈夫。……サルトさんこそ、一緒にいきたかったんじゃないんですか?」

「い、いえ。城を守るのは、非常に重要な任務ですから。それより――」

「はい?」

「お母さま、といいますと?」

 マーゴは口を押さえた。いけない。内緒だった。ロウゼンの率いる軍勢の出陣を一緒に見送ったサルトを、上目遣いに見る。

 もともとランデレイルの千人隊長だったサルトは、ロウゼンがランデレイル城主におさまってからは、グルオンの下で城兵達の束ねとして働いている。その時は人材が乏しかったこともあり、グルオンは彼を非常に頼りにしていた。サルトもそれによく応え、ロイズラインに移ってからは、三軍の長である、直衛軍の軍長の地位を与えられた。

 そして、グルオンがロウゼンにある感情を抱いていたのが衆知の事実であったように、サルトのグルオンに対する心酔ぶりは、忠誠の域を越えているというのが、マーゴを含めた、城内の者達の一般的な見解なのである。

「え……と。ロウゼンさんがお父さんだから……」

 ロウゼンとグルオンの結婚が公になれば、盛大な祝典を行なわなければならない。でもそれだけの余裕はこの城にはないから、マーゴが話してしまったサムジィ以外には内密にされている。

 とはいえ、もちろん気づく者はいるし、内密にされている事情をおもんばかって、大声で話されることこそないものの、城内では既成の事実として囁かれている。ただその噂は、サルトの耳だけは避けて流れているようだ。

「グルオンさんが、お母さん……」

「そ……そうですか――」

 サルトの肩が落ちる。

「あ、あの……。兵隊さんがずいぶん減っちゃって、ここが攻められることはないんですか?」

 マーゴは必死に話を逸らした。

「ええ。直衛と後衛の二軍はおりますし、統一法を犯したものを成敗するために兵力を出した城を攻めることは、統一法で禁じられていますから」

 サルトは律儀に、マーゴの問いに答える。彼はマーゴの力を目の当たりにしていたし、キシュとして、力を持つ者に敬意を払うことも知っているから、彼女を子供扱いすることはない。

「じゃあ、サルトさんも、本当に一緒にいけたらよかったのにね」

「ランデレイルの方から、ミューザの別働隊が攻めてくるかもしれないと、グルオン様は……仰せで……」

 サルトの言葉は、溜め息で途切れてしまった。やばい、重傷だ。マーゴは後退りして、ペグを探す。口火を切ったのはロウゼンだとはいえ、グルオンを唆したのはマーゴだからとてもいたたまれない。この場を逃れる言い訳が欲しかったのだが、さっきまで一緒にいたのにもういない。

「じゃ、じゃあ……やっぱりグルオンさんは、サルトさんが頼りなんですね!」

「そうでしょうか」

「だって、サルトさんくらい、グルオンさんのために頑張っている人っていないじゃないですか。ですよね?」

「もちろんです!」

「だから、グルオンさんは大事なお城の守りを、サルトさんに任せたんですよ。それとも、グルオンさんがロウゼンさんと結婚しちゃったら、もうサルトさんは味方じゃないんですか?」

「そんなこと!俺はいつでもグルオン様の味方です!」

「よかった。あの、わたしもサルトさんが守ってくれてたら、とても安心できます」

「ええ、任せてください!」

「あ、それと、ロウゼンさんとグルオンさんが結婚したっていうのは、内緒なんです。サルトさんだから言ったんですから、絶対だれにも言わないでくださいね」

「もちろん。俺は口が固いんです」

 サルトはそう首肯くと、配下の隊長達をつれて、兵舎にむかった。マーゴは、それを見送って、胸を撫で下ろす。

 いい人なんだけどなあ。まあいいや。あの人は、わたしの家族じゃないもの。

 空はまだ青いが、閲兵場に伸びる影はもう長い。ロイズリンガからの使者が来たのは、朝も早いうちだったが、軍議や糧食の準備などで、出陣はスコールが上がってずいぶん経ってからだった。おそらくロイズリンガまで駆け通して、深夜前に到着するのだろう。

 マーゴは軍議に参加しなかったから、それからどこで戦うのかは知らない。わたしの力が思い通りになるんだったら、家族と一緒にいられるのに。

 力、か……。

 グルオンに言いつけられた素振りをするために、マーゴは中庭に向かう。わたしの力は、わたしの力じゃない。わたしの家族は、わたしだけの家族じゃない。それなのに、家族のためにわたしが力を使うなんて、無理なのかな。ううん。わたしの家族は、みんなの家族なんだから、みんなの力をわたしは使えるはずなんだ。



いつもありがとうございます。


やっとこのあたりも寒くなってきました。

冬ですねぇ。

冬は大嫌いです。

せめて物語の中だけでも、クライマックスで熱くいきたいものです。


次回予告。


密林の中を進むロウゼンたちの前に、一人の伝令が駆け込んできた。

すでに、ランでレールの城は……


四幕第五話「隣城陥落」

11/20更新予定


心が寒い……


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