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風に包まれて



「ねえ、最近、静かだと思わない?」

「王が帰ってこられないからな。寂しいのか?」

「ううん。そうじゃないの」

 フォルビィは、小さく頭を振って、笑った。その笑顔を直視することができずに、ロフォラは目を逸らす。

 最後にミューザが城に戻ってきたときから、彼女の表情が変わった。明るくなった。平安に包まれているかのように、微笑みを絶やさない。

 部屋の外へも出るようになった。女達が集まる水場につれていってくれと、ロフォラにせがんだ。毒が混じってはいけないからと、泉から離れた場所に腰を下ろし、女共が不安げに、遠巻きに見つめる中で、嬉しそうに、ただ風を感じていた。

「町がね、少し前まで、すごく賑やかだったのに」

「町って、城下町か? 聞こえるのか?」

「風がね、運んでくれるの」

 心地よさそうに、風に耳を澄ませる。

 まだ明るいこの時間では、光が邪魔をしてはっきりとは伝わってこないけれど、直接体に受けてみれば、風の含んだ気配を感じることが出来る。

「みんな、すごく沈んでるみたい」

 昨日も、その前も、その前の日も、そうだった。ミューザが最後に訪ねてきた日の、次の日からだったろうか。

「それとも、みんなどこかへ行ったのかしら」

 フォルビィと向かい合わせに座っていたロフォラは立ち上がり、こちらをちらちらと盗み見ながら小声で話している下女に手招きをした。首を振り、後退りする女達を睨みつけ、もう一度招く。

 もっとも親しくしている栗色の髪の女が、皆に背を押され、ためらいがちに近寄ってきた。

「なに……かしら?」

 怯えを含んだその声に、ロフォラは顔を顰める。しかしフォルビィは女のいる辺りに顔を向けて、笑いかけた。それを見て少し安心したのか、女はおずおずと笑い返す。

「よかったら、話を聞かせてくれないか。城下はいまどうなっているんだ?」

 安心させるように首肯いて、ロフォラが訊ねる。

「城下って?」

「何か変わったこととか……、お前達は、まだ下りていないのか」

「うん、でも……そうね。城兵が召集されて、みんな出陣していったって。留守番の隊長さんが、ぴりぴりしてた」

「王が出陣されたからだろう?」

「ううん。あのあとのことよ。いつもは守備軍を残していかれるのに、今度はそれも呼び寄せたって――でも、私達も詳しいことは……烏さんに見てきてもらえばいいのに」

 ロフォラは、さらに顔を顰めた。

「あいつは、あれから帰ってきていない。……王についてはどうだ?」

「ごめんなさい。全然わからないの。さっきの隊長さんも、いつもだったら色々噂を聞かせてくれるんだけど、今度は……」

「そうか」

 ろくな情報も聞き出せず、少し落胆してロフォラはフォルビィを見下ろした。だが、彼女の様子は変わらない。

「フォルビィ。心配じゃないのか?」

「……あの人のこと? だって、約束してくれたから」

「約束?」

 必ず無事で帰ってくる。そのようなことをミューザは言っていただろうか。ロフォラは聞いた憶えがない。言うような男でもないだろう。

「ええ、わたしと一緒に死んでくれるって」

「……そうだな。それがお前の使命だ」

 不思議そうに見つめる女達の目の前で、ロフォラはフォルビィの笑顔から、目を逸らした。


いつもありがとうございます。


ちゃぶ台に置いたパソコンの前に、何時間も座っている生活を続けていると、なんか、お尻の○に違和感が(汗)

あわててすわり心地のよさそうなクッションを買ったら、今度はちゃぶ台と高さが合いません(泣)

そんな計画性に乏しい次回予告……


――いい人なんだけどなぁ。まあいいや、あの人は家族じゃないもの。

マーゴのつぶやきは、誰にも届かない……

四幕第四話「家族と、そうではない人と」

11/17更新予定。


辛いものをしばらく控えよう……

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