アロウナ見聞録・序
序
私は十八の年、カイディア大陸のサビオニアの港町、セイルポートからアロウナ大陸に向けて出航した。偉大な貿易商であり、私の祖先でもあるバスキン‐レイルウェイに憧れての船出だった。
偏月風に恵まれ、アロウナ大陸までの船旅は順調だったものの、内陸へ二週間ほど進んだところで野盗に襲われ、父の遺産を処分してつくったすべての財産を失ってしまった。
そして、常に頭上を動かぬ、月と呼ばれる天体を見上げて、すべての希望を失っていた私を助けてくれたのが、少女の姿をした、銀色の女神だった。
これから語るのは、私がカイディアに帰るために奔走していた二年の間、その手助けをしてくれた小さな女神が、毎日起きる日蝕や月蝕を見上げながら、話してくれた物語の中のひとつである。
降神紀二〇〇四年 ジョイス‐レイルウェイ
付記
アロウナ大陸における文化、慣習は、われわれカイディアの人間からすると、かなり戸惑いを覚えるものである。毎日決まった時間に起きる、日蝕や月蝕と呼ばれる現象や、法術という月からもたらされる不思議な力。しかし、商人として私がもっとも戸惑ったのは、数の数え方である。
われわれは、十の数字を使う十進法を一般的に使っているが、彼らは0から五までの六個の数字を使う六進法を使っている。年齢や人数など、十進法に換算して伝えようかとも思ったが、アロウナに渡ったカイディア人の戸惑いを、少しでも感じてもらえればと思い、そのまま記した。以下、基本的な数字や時間などの換算表である。
十…………6
二十………12
三十………18
百…………36
千…………216
万…………1296
一巡時……およそ四〇分
一日………百巡時
文中で三十歳とあれば、その人は、我々のいう一八歳に相当する。が、いわゆる数え年であるのに加え、暦が完備されていないため、自分の正確な年齢を知る者は少ない。