6stage
Haematophilia Vampire Story
第6話 〜交差〜
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
疾風が荒い息を吐き続ける。あの戦闘を皮切りに、数え切れないほどの人型との交戦を余儀なくされた。
進む先々で待ち構えている彼ら・・・流石に他のヴァンパイアも汗をかいている。午前1時。
「お主・・・強くなるのが早すぎるぞ?」
「はい?そうなんですか?さっきよりは相手が弱くなったんですよ。」
「いいえ、確実にあなたが力を増している・・・。」
「でも疲れます・・・。」
戦闘回数を重ねるごとに、急速に強くなっていく疾風。もはや並みのヴァンパイアを遥かに凌駕している。
初戦の苦戦が嘘のように、今では人型を素手で「「殴り」」殺せるようにまで「「変化」」していた。
外見的な変化は何一つ無い。高速で移動したり、壁を走ることも難なくこなし、戦闘の熟練者のようだ。
その拳は鋼鉄を貫通し、あたったものの表面を破壊し、内側を潰す。腕を思い切り一振りすれば、前方に存在する物質は深く切れ、吐き出す唾は銃弾のように飛んでいく。
「この施設・・・広すぎです・・・はぁ・・・。」
「聞いた話だが、ここ以外では生物兵器を作る施設がないようだ。政治家の資金には限界があるし、いくつも作るとなると人員も足りない。そこで、一つの施設に全てをつぎ込んでしまおうというわけだ。生物兵器のデータや資料はこの施設から一切外部に漏れてない。一つに集中した結果、こんなに広くなったのだな。」
「この施設・・・ぶっ壊せないですかね?」
「どうやって?爆薬も何も無いのよ?」
「いや、俺たちが暴れまわって・・・。」
「あのなぁ兄ちゃん、いくらなんでもそれは無理やで?考えてみいや。もし俺らが暴れまくって建物を壊せたとしようや。この施設にしか情報も設備もあらへんからもう生物兵器は作れへんようになるな。」
「はいはい、言いたいことは分かります。もし建物が壊れて生物兵器が外部に出たら民間人に被害がでる。
それに・・・大袈裟な話だけどマスコミとかに知られたら・・・それこそ校長が望む混乱が起きる。その他にも、・・・・・・・・・いろいろ怖いことが・・・。」
「そう、なるべく表ざたにしないのが・・・例え私たちの責任でなくても人間社会で生きていくためには、私たちにはとっても重要なことなの。」
「話中悪い・・・臭うで!」
「この臭いは・・・・・・あいつらと違う!人間の臭いだ!」
「鼻もさっきより利くようになってきたではないか・・・はっきりと感じるが、今のお主は・・・危険なまでに強力で、底知れぬ力を持っておる。我々全員より確実に強い。」
「そんなこと・・・。」
「行きましょう。時間が無いですわよ」
「ここで働いている人間はみな犯罪者・・・死刑囚クラスだ。気にせず殺せ。」
「俺が殺していいわけないじゃないですか!」
「やらぬなら、大切な友達にも逢えないぞ?いや、そいつらに殺されているかもな。」
「そんなこと・・・。」
「甘ったれてんじゃないわよ!お兄さん、今は時間が無いの。唯でさえ種の存続が危うい私たちを駆り立てたのは、あなたよ?大切な人は失いたくない。それは私もあなたも同じ。だから手を貸したの!あなたにもそれなりの責任って物があるわ。」
「わかりました・・・。」
「さぁ、そろそろ来るぞ。」
いつもの癖でダガーを両手に逆手で抜き取る疾風。
「ん?お主にこれは、もう必要なかろう。素手で充分だ。」
「いや・・・あの・・・なんか安心できないってゆうか、つい癖で・・・・・・。」
「好きにしたらええやん。俺らが本気で止めても、もはや兄ちゃんは止められへんわ。」
「35人来ます・・・全員同じ火薬の臭い・・・。マシンガン何種類かと手榴弾で武装していますね。」
「はははは、もう適わんな・・・一人でやってみろ。」
「え・・・?」
「今のお前は限界を知らない。行け。鉛弾でもヴァンパイアは死ぬが、当たらなければどうということはない。そしてお前は当たらない。」
自分の能力を試してみたい。自分はどこまでできるのか・・・。
疾風は、ある一種の禁じられた欲望を見つけてしまったようだ。
「満月を・・・感じる!」
そう言い残し、ヴァンパイアたちの前から猛スピードで移動した。
角を曲がり人間たちに向かって急激に接近する。ここは建物の中枢なのか、監視カメラが多い。
「来た!一斉掃射ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
部隊の指揮官らしき男が、部下に命令する。
タラララララララララララララララララララララララ!!!!!!
パパパパパパパ・・・パパパパパパパパ・・・・・・
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
キィンキィン!!チュイン・・・・・・パリパリパリパリ!
カランカラン・・・・・・カチン・チュドーーーーーン!!!!
ズダダンズダダンズダダン・・・ガッチン!
35個の銃口が疾風目掛けて猛烈に火を吹く。
「うわ!うわわわわわわ!危ないじゃないですか!当たったらどうするんですか!ってゆうか後ろにあんなにでっかいガス管ありますよ!何個か穴開いてますって!ほらガスの臭い!撃ったら引火しますって!ほら、かなりの勢いで!」
そりゃあ動き止める気で撃ってきているのだから、そんなこと考えてない。
しかし疾風にはなんとなく見えていた。「「回避」」を自然に体が行っている。
壁や天井にも回避しながらなので、なかなか狙いが定められない。今の彼は残像を残すほどに、病的に素早い動きをしている。
さすがに、大量に撃ち出された弾丸を全て避けきれず、右胸と右太ももに一発づつ被弾した。
「いて!弾丸って痛い!」
普通の人間が食らったら、「「痛い」」じゃすまないのだが、それを忘れている。
「やつを休めるな!撃ち続けろ!」
再び嵐のように弾丸が襲ってくる。
「ガス出てるってのにお構いなしかよ、コンチキショー!!!!」
もっと充満してから銃でも撃とうものなら、確実にぶっ飛んでしまう。
「くそ!時間が無い!・・・・・・やるしかない!」
弾丸が大して効果が無いことを悟った疾風は、あえてその嵐の中に飛び込む。
先ほどよりも痛くない。この瞬間でさえ「「変化」」が続いているのだ。
・・・・・・心も変化を始める・・・・・・
「・・・・・・死ね・・・っ!」
自分で呟いた言葉に自分で驚く。こんなことを言う人間じゃなかったはずだと自問自答をする。
その間も、集中砲火の中を普通に歩いていった。
「ダメです!止まりません!」
「黙れ!もっと撃てぇぇぇぇぃ!」
「・・・・・・これで・・・終わりだ!」
疾風の叫び声で時が一瞬止まる。
・・・部隊がいる通路の中央を一陣の風が通り抜けた・・・
再び時が動きだした瞬間には、疾風は部隊の後ろでポケットに手をつっこんで立っていた。
それは刹那の業。一瞬にして喉を前の隊員から切り裂き、決着をつけたのだった。全員、自分が死んだことに気づかずに、立ったままだ。
「弱い・・・いやいや、俺は何を言ってるんだ!」
後ろから声がする。
「さすがだな。」
「褒めてあげなきゃいけないところでしょうけど、先を急ぎましょう。」
「!!!!!!また人間の臭い!!!!!友達のです!!!!!武装してる!?!?!?」
「遠いか?」
「かなり・・・それと、生物兵器の臭いも・・・・・・。」
「急ごう!!!」
・・・・・・もう迷いはしない・・・・・・
旧生物兵器保管庫から新生物兵器保管庫まで歩を進めた一同は、新旧混じった生物兵器に遭遇していた。
「前に人型3体!!近いよ!!」
「悠さん!狩崎さん!後ろ警戒お願い!」
「人型・・・迎撃します・・・。」
「左からでっかい猫!速いよ!」
「まっかせてぇ!」
「悠ちゃん、その大きいの貸して?」
「はい、あと5回撃てるよ!」
「諒子ちゃんは猫迎撃の援護にまわって!」
「はい!」
「食らえぇぇぇぇぇ!」
「当たってぇ!!」
「これ、全部使っていい?」
「気にしないでやっちゃえやっちゃえ!」
「人型2体沈黙しました・・・弾切れです。武器交換するまでもう一体お願いします。」
「私が引き受けるよ!」
「猫沈黙!上からでっかいハエ!」
「速くて当たらない!菜緒ちゃん、ショットガン!」
「よっしゃきたぁ〜!喰らえ喰らえ喰らえぇぇぇぇぇ!!!」
「輝ちゃん、この武器背中の借りるね!」
「了解!あ、手榴弾ある?」
「はい!これ!」
「ハエ全滅ぅ〜!ショットガンの弾も全滅ぅ〜・・・!」
「マシンガン使って!」
「人型沈黙!・・・その後ろからさらに4体!」
「後方から大きいクモ!2メートルはあるよ!」
「グレネード頂戴!私が始末にする!」
「はい!あと1回しか撃てないけど!」
「クソ・・・きりがない!」
「ガトリング砲、装填完了・・・。」
「わ!サル!?ゴリラ?左上の柵の上ぇ!」
「・・・私が対処します。」
「ランチャー弾切れ!補充できる?」 「俺が補充しておく!変わりに前の人型お願い!」
「おらぁ〜〜〜!!!!!!シネシネシネシネェェェ!!!!!!」
「そぉれぶっ飛べ!!」
「散れ!沈め!消えろ!」
「ランチャー装填完了!爆発起こす弾頭入ってるからね!かっ飛ばせ!」
「ゴリラ沈黙・・・右からカエル・・・!!!!」
「カエル?ランチャーでかっ飛ばしてやろうよ!貸して!」
「外すなよぉ〜・・・今だ!!」
「飛んでけぇ!・・・わ、弾けとんだ!」
「そろそろ弾薬切れるよ?」
「みんな!撃ちながらあの扉まで走ってぇ!」
「了解!」
「行け!ゴーゴーゴーゴーゴー!!!!!」
「うわぁ〜!!人型走ってくるよぉ!!」
「これでも喰らえ!・・・よし!足吹っ飛んだ!」
「美夜ちゃん!早く扉に入って!」
「はい・・・。」
ギギギィィ〜〜〜〜〜バタン!ガチン!
大きな鉄の閂をかける。
「はぁ〜・・・。」
「あんなにいるとはビックリ!」
「どうする?私、弾ないよ?」
「私もない。」
「悠も・・・。」
「同じです・・・。」
「今あるのは・・・これだけ?」
「ベレッタ1挺に・・・手榴弾・・・・・・各自、日本刀に西洋刀にダガー・・・槍・・・これでどうしろってんだ・・・?」
「みんな!目の前に人型1体!」
すかさず手榴弾を投げつける輝!みんなでライトで照らしたため、暗闇ながらはっきり視認される。
「・・・死んで!」
ズドーン・・・ドタッ・・・・・・
空中で爆発した手榴弾で首がもぎ取れた。中から、躍動する筋肉と背骨に守られた延髄や神経がはみ出してくる。
体や頭自体は金属で守られているので、さほど変わってない。
「はぁ・・・もう・・・。」
「もうすぐ出口だよ、元気だそう!」
「うん・・・。」
「出られるかな?」
「ココまで来れたのですから・・・絶対に出られます。」
「しっ!・・・誰か来る・・・・・・。」
目の前に4つの人型の影が現れた・・・。
「人型か・・・終わりだな・・・・・・。」
悠が小さく口を開く。
「・・・は・・・やて?」
「は?今なんて言ったの?」
「疾風・・・疾風だよ!」
「悠さん・・・先輩の死を認めたくないのは私も同じですが・・・!!!!!先輩!?!?!?!?」
一同が4つの影にライトを向ける・・・。
みんなビックリして声にもならない。唖然としている。
「そう!俺だよみんな!生きていて良かったぁ〜・・・・・・怪我してない?」
「平丘君!?生きてたの!?」
目を真ん丸にして幽霊でも見たか、という表情の輝。
「せぇんぱぁ〜い・・・死んじゃったと思ってたんですよぉ〜・・・?」
涙目で可愛く訴える菜緒。
「・丘・・・先・輩・・・うして・・・研究員が・・・死ん・・・って・・・・・・。」
あまりの驚きに、言葉も発せない諒子。
「・・・・・・っく!・・・うぅ〜・・・・・・うわあぁぁぁ〜ん!!!先輩!!生きてたよぉ〜〜・・・!!良かったよぉ〜・・・!!」
大声で泣き出す美夜。言葉遣いまで変わってしまっている。
「まぁ、もともとあんたなんか殺しても死ぬような人間じゃなかったしね・・・・・・・・・。死んだって聞いて諦めついたけど、また会えてラッキーな感じかな?」
幼馴染という間柄のせいか、素直になれない悠。しかし、気持ちは十分疾風に伝わった。
「平丘君・・・・・・。」
名前しか呼ばない進介。もはやなにも言うべきことは存在せず・・・伝えるべきことは言葉に存在しない。
ここまで6人がたどり着けたのは、言うまでもなく進介の活躍のおかげだ。
「石森君・・・いろいろ世話かけちまったな!」
「いいや、生きていて何よりだよ・・・。」
「お取り込み中悪いが、我々の仲間も待っているのでね・・・。」
これから雰囲気盛り上がろうかというところでぶち壊される。
その姿を見て悠が問う。
「ヴァンパイア・・・本物?」
「疑うとは失礼な!由緒正しきヴァンパイア一族のヴェラム家の血を引くものぞ!」
「ひゃぁ!ごめんなさいぃ〜・・・。」
「まぁまぁ、相手はかわええお譲ちゃんでんがな。怒らんといてぇや。」
「お・・・大阪弁?」
菜緒が悠と同じように言う。
「ちゃう!俺は広島や!広島弁や!」
「うわぁ!ごめんなさい!」
「あらあら、あなたも怒ってるじゃない?」
「うわぁ〜・・・綺麗な女の人ぉ〜・・・。」
「なにを言うの!私はニューハーフのヴァンパイアよ!」
「ぎゃぁ!・・・・・・不覚・・・・・・でも・・・・・・いいかもぉ〜・・・。」
進介が壊れた。
「この人達、一緒に君たちを探してくれたんだ。本当は他の脱出計画があったんだけど・・・無理言って来てもらった。」
「無理など言っておらぬ。ヴァンパイアは仲間を大切にするものだ。だからお主がヴァンパイアである以上、ヴァンパイア同士ということでな。あの場にいたらどのヴァンパイアもこうしておる。」
「ちょっと待って!平丘先輩、ヴァンパイアだったの!?」
諒子が一同を代表するように訊ねた。
「なんか・・・・・・ご先祖様がヴァンパイア・・・。」
「言われてみれば・・・・・・そう見えなくもないですね。」
「まぁ、時間がないんや。とっとと脱出して車の中で話そうや。」
「車ぁ?どこにあるのぉ〜?」
「建物の外で待機してるはずよ。」
「もともと、今日は脱出計画の日だったからな。」
「ほな、急ぎましょか。」
一同は地図を下に出口へ向かう。
・・・・・・終焉へと近づく・・・しかしそこでは「「疾すぎる終焉」」が少年を捉えていた・・・・・・。