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3stage

Haematophilia Vampire Story

第3話 〜異形〜



 「ほら、降りろ。」


車が止まった先は、学校から程近い工場地帯の一角。何故か周りには隣接する工場がない。


勝ち構えていた門番のような人に小突かれながら全員工場の中へ連れて行かれる。


「ここは・・・?」


輝が独り言のように呟く。男が答える。あたりは真っ暗でよく見えない。


「ただの・・・工場・・・。そう・・・工場だよ。」


「何の工場ですか?」


恐怖混じりに悠が聞く。


「今から・・・見えるよ・・・。」


そう言って、電子制御されている大きな鉄の扉の前に止まる。


3メートル四方はある大きな扉だった。


門番が赤いカードキーと青いカードキーを取り出し、男に手渡すと、扉の左右二手に別れた。


「3、2、1、開錠。」


二人同時にカードリーダーへ差し込み、ロックを外す。


ガシャン!ググググググ・・・・・・ガチン!


大きな音を立てて巨大な扉が開いた。途端にまぶしい光に包まれる。暗闇に馴れていたせいか、一同の目が痛んだ。


始めは何も視認できずにいたが、徐々に目の前の凄惨な光景に気づく。



「うわっ・・・何これ・・・、うぅ〜・・・、うえぇぇぇ〜!」



堪らずに菜緒が嘔吐する。悠や輝は手を口にあてがってなんとかこらえている。


菜緒の両脇に屈んで、美夜と諒子が菜緒の背中を摩りながら辺りを見回していた。


「これは・・・!?」


「なんなのよ・・・。」


「人・・・?」


「は・・・半分しかないのに・・・うぅ!」


ついには輝まで吐き出した。


進介と疾風に至っては、ポカーンと口を開けたまま、アホ面で辺りを見回している。


巨大な工場の中には、白衣を着た研究員らしき人間が200人ほどがおり、せわしなく動いていた。


両面巨大なガラス張りで、培養液に浸けられた人体らしきものが数え切れないほど並んでいる。


巨大な試験管の中で人間が飼われているように見えないこともない。


まるでバイオハザードの生物兵器製造施設のようだった。


培養液の中の人間も尋常ではなかった。体の一部が足りないもの、逆に多いもの、異常に巨大な背丈を持つもの、長い犬歯と永い爪を持つもの・・・様々だ。


「念のため、手錠を施す。」


門番がそう言って、後ろに組んだ腕を施錠する。


「社長のところへ連れて行け。」


研究員にそう命じて、男と門番はどこかへ行ってしまった。


その時に男から、疾風は額に赤いシールを貼られる。なんだこれ?などと聞いても答えてくれそうにないので、黙って研究員に従った。





 重い扉を幾つも通過し、「社長」のところへ到着した。


「失礼します。」


研究員が2度ノックをして扉を開ける。


「確保いたしました。健康で無傷です。」


「ご苦労、下がってよい。」


「はい、失礼いたします。」


礼儀正しく頭を下げ、研究員は立ち去る。


ここは社長室なのだろうか、20畳ほどのフローリングの部屋に、大きな社長机と革張りの椅子。


壁は前面コンクリートで、机の上にはノートパソコンと電話機が乗っている。


社長は椅子をくるりと反転させ、一同に向かう。



学校の校長がそこにいた。



「校長先生!?」


全員目を疑う。しかし目前にいるのは紛れもなく校長先生である。


「そうだよ、私だ。君たちの校長の田中だよ」


にこやかに社長・・・校長が微笑みかける。まるで、先生が生徒に向けるそれと同じように。


「なんでこんなところにいるんですか!さっきの研究室みたいなところはなんなんですか!」


「手錠早く取ってください、私たち何もいけないことしてません!!」


「先生、気持ち悪いぃ〜・・・助けて・・・。」


進介、美夜、菜緒がそれぞれの思いを口にする。


「ははは、まあそう焦るな。ちゃんとした理由があるのだよ。」


「はははじゃなくて、最初から理由を言って連れて来れば良かったんじゃないですか?正当な理由があるなら、手錠や実銃なんて使われなくても素直にここまで来ますよ!」


疾風が食いかかる。みんなも同じ目をして校長を睨んだ。


「まぁ、分かりやすく言おう。平丘君、君の体が欲しいのだ。」


「はぁ〜!?!?!?!?!?!?」


疾風以外、校長に疑いの眼差しを突き刺す。特殊な趣味の持ち主だ、と。


「またですか、さっきの男にも言われました。」


「は、はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


またもや一同騒然。彼らが教室に入る前のことなので、知る由もない。


「分かり安く言おう。私は人型の生物兵器を造っているのだよ。もちろん、普通の生物兵器も作っている。日本では銃は好き勝手に使用できない。ヤクザの抗争などで使われてはいるが、所持が発覚したら確実に刑務所行きだ。


しかし私は力が欲しい。そう、世の中を動かせるくらいに強い力だよ。私のバックには政界のサポーターが付いているんだ。しかも何人もね。だからこれだけ巨大な工場や組織をもてる。新勢力のを開発できる工場をね。だが政界のスポンサー方は日本を自分たちのものにすることしか頭にない。なんとも品がない。


私はね、混乱に満ちたこの国を見続けていたのだ。だからスポンサーの下に国が落ち着いたら、混乱が小さくなってしまう。せっかくの新勢力を無駄にしてしまうのではないか。だから、スポンサーに従うふりをして生物兵器を開発しているんだ。人型は優秀だよ?まだ実験段階でしかないが、すでに実戦投入できるナンバーもある。戦い、殺すことだけしか知らないんだ。なんとも素晴らしいではないか!


あぁ、そういえば、なぜ人型にしたと思う?


答えは「便利」だからだ、スーツを着せてボディーガードに紛れ込ませれば、要人暗殺など容易。しかも「造られた」生き物である以上、消すも生かすも自由。街中でいきなり暴れだしたらどうなる?とうてい並みの人間の力じゃかなわんよ。混乱するだろうね・・・くくく・・・。


筋肉や構造を変形させ、弱点となる内臓系は鉄の板が埋め込まれて守られる。銃もたいして効かんのだ。SAT(日本の警察特殊部隊。SWATのようなもの)でも出動しないかぎり止めるのは無理だね。それが日本各地で展開されればどんなに楽しいことだろう。もちろん、世界でも通用する力を作るがね。」


「あの、それと先輩とどう関係があるのでしょうか?」


美夜が訊ねる。先輩とは疾風のことだ。美夜が先輩と呼ぶのは疾風のことだけで、それ以外は、君・さんを付けて年上を呼ぶ。


「いい質問だ。人型といっても只の人間じゃ芸がないだろ?第一弱すぎる。そこで、人型の怪物に目をつけたのだ。分かりやすく言うとヴァンパイアや狼男、その他大勢だ。やつらは強い、人間を遥かに凌駕する身体能力や特殊な力を持っている。


しかし存在するのか?平丘君、いたらどうする?」


「存在したのでしょう?現にその実験が進んでいるじゃありませんか。いたとしても、なんとも思わないですね。自分には何の関係もないし、どうでもいいことです。」


「どうでもいいとか言うな。自分もその仲間だぞ?」


一同が顔を見合わせる。疾風がヘマトフィリアだということはここにいる学生全員が知っているが、ヴァンパイアとはまるっきり別だと思っていたからだ。


疾風は、しまった!と心の中で悪態ついた。血を提供してもらう現場を見られたかと。


それで校長は疾風がヴァンパイアだと勘違いしているのかと思った。


「いえ、何かの間違いです。」


「そんなはずはない、間違っていない。」


「面倒なので言っておきますが、俺はヘマトフィリアです。血液嗜好症。確かに血は好きですが、ヴァンパイアのそれとは違います。」


「いいや、君はヴァンパイアだ。間違いない。私が保証するよ。」


保障されたって何の安心感も得られない。寧ろ怖い。


「校長先生?いくら偉くたって、生徒を勝手に伝説の怪物にしてはいけませんよぉ?」


半笑いで諒子が言う。確かに、他人の宣言で所属する生物の学名を変えられたらたまったもんじゃない。


「だから、、、なぜ信じない?」


「当たり前です。確かに最初はバンパイアの類かとも思いました。ちょっと怖かったこともあります。だけど、血のことを除けばどこから見ても人間です。先輩は正真正銘の人間です。校長先生が先輩をヴァンパイアだと保証するなら、私は先輩を・・・人間だと保証します!!!」


「そうです。ちょっと人間っぽくないところあるけど、人間的な要素ばっちりです。」


美夜の発言に少し心動かされた・・・と思ったら進介の意味不明目的喪失な発言に肩を落とす疾風。


「先生・・・俺はニンニク嫌いですけど食べてもなんてことないですし、銀にも変な感じはしません。十字架を見ても何も感じません。仏教徒だからかな?それに、陽光を浴びても何の変化も起きません。」


「平丘君、君の言っているものは全て迷信に過ぎない。太陽に関しては抗体がある種族がいるみたいだがね。」


「仮にヴァンパイアだとしましょう。俺が欲しいのだとしたら、なにも友人まで巻き込むことないでしょう。重大な秘密を喋る前に・・・いや、もともとこいつ等を巻き込む計画でしたね?材料がなければ・・・実験ができませんものね・・・。」


「ちょっと待ってよ。材料って、ヴァンパイアって勘違いされてた疾風だけじゃないの?」


「悠、俺は材料じゃなくて・・・レシピなんだ。何もないところからは何もできない。これは俺の考えなんだけど・・・。」


疾風が言いにくそうに口ごもる。それを継ぐように進介が話す。


「ヴァンパイアや人型で強力な種族から、身体的な情報をDNAか何かで調べ上げたり、その体と人間の体を比較してデータを取るんだと思う。伝説の怪物、これがレシピさ。」


次に輝が口を開く。とても辛い宣告をするように・・・、半ば涙声で・・・。


「そのデータをもとに、人間の体をベースに改良・・・、いや、変形をもたらす何かを施すんでしょ?もとが人型だけに、そのほうが最初から造るより都合がいいものね。人間、これが材料でしょ?」


ここまで秘密を聞かされた以上、無事に家には・・・いや、二度と家には帰れないことを一同は悟る。


張り裂けんばかりの声を上げて泣き崩れる悠。気分が悪くなったのか、再び激しく嘔吐する菜緒。


もう胃には何も無いのか、胃液を吐き出してもがいている。


美夜は立ったまま下を向き、美しい髪に顔を隠しながら目から静かに、ゆっくり流れ出る澄んだ雫を重力に任せている。


進介と輝は、向かい合ってお互いの肩にお互いの額をもたれて、涙声で何か言い合う。


両手で顔を覆い、しゃがみ込んで声にならない泣き声を絞る諒子。全身にガクガクと震えが襲う。


本当なら上着を脱いで震える諒子にかけてやりたいところだが、手錠の拘束に縛られている今、それも叶いそうに無い。


黙り込む校長・・・いきなり大声で笑い出す。


「はははは!流石は我が高校の生徒だな!頭が良い!そのとおり、まったくその通りさ!今までたくさん、実験を繰り返してきたぞ!吸血鬼やウルフマン、人魚まで実在したよ!ルーマニアやカリブまで行って、何年かかったと思う?10年は経っているのだ。」


少したれ目がちな疾風が、氷の様に冷たく、酷く鋭角的な眼光を飛ばして言う。


「しかし校長先生、私をヴァンパイアだと言い切る根拠は何です?」


「それは臭いさ。君たちの学校に行った男、あいつもヴァンパイアだ。名前はフリク。あいつの話では、君は大覚醒が起きる体だそうだ。つまり、だいぶ昔のご先祖様にヴァンパイアが、しかも相当な力を持ったヴァンパイアがいる。何世代も後の子孫に起きる大覚醒を行えるのは、強大な魔力・・・と言うと語弊があるな。強大なチカラを持った個体のみだそうだ。そんな個体が欲しいのだよ。そしてそれが君だ。ちなみに、ヘマトフィリアは偶然だ。大覚醒とは何の関係も無い。」


「あの人、バンパイアだったのですか。じゃあなんで彼を実験台にしないのです?」


自分がヴァンパイアだということは信じない疾風。


「契約さ。私がルーマニアで初めて捕まえた個体が彼だ。


その時、彼は私にこういったんだ。どうして俺を捕まえるのか。そんなの実験のために決まっているがね。それを言ったら、面白いことを彼は口にした。



俺を助けてくれれば、仲間や、多種族の居場所を教える!



笑ってしまったよ。ヴァンパイアは義理堅い。なのに仲間を売ろうとするのだ。しかしどうだろう、悪い条件ではないね。最初は信用していなかった。


だけど、何度か一緒に仕事をしていくうちに、全て大成功。始めは、ルーマニアのヴァンパイアを4人程。次はイタリアに言って、狼男2匹。人魚にビッグフット・・・あ、いや、ビッグフットの身体能力は素晴らしいが、手当たり次第に暴れるし言葉が通じないから使い物にならなかったがね。それから・・・様々な種類を300体は、な。お陰でいろいろと資料ができたよ。


あとは人間、材料の確保。これは比較的に楽だよ。そこらへんにたくさん「「ある」」からね。毎日一人、日本で確保しているよ。なぁ〜に、増えすぎた人口を我々が「「調節」」してやっているのだ。」


輝の肩から顔をあげ、進介が怒鳴る。


「仲間を売りやがった・・・?しかも他種族まで・・・腐ってる!人間を・・・生き物を何だと思ってる!?調節なんて、神にでもなったつもりか!犠牲になったものにも、未来はあったはずなのに!」


「そうかね?歴史的な実験の役に立てるのだぞ?」


いつもとまったく変わらない笑顔で校長が言う。どこから見ても気のよさそうなおじさんだ。


「さ、お話はこれでおしまい。」


「で?僕たちをどうします?」


「もちろん、実験するよ。平丘君以外は手錠をしたままこの部屋で死ぬまで待機してもらうよ。所謂餓死だ。私は、目の前で苦しまれるのが堪らなく快感でね・・・性交のそれを遥かにしのいでいるよ。」


そう言って机に2つ並んだボタンの左側を押す。すると天井から厚さ30センチはあろうかという、巨大で透明な物が降りてきて、校長と生徒たちを隔てる。防弾ガラスだ。


ところどころに拳大の穴が貫通しており、声はお互いに届く。大小様々な傷が点在するところを見ると、過去に何度も使用されたに違いないことが分かる。


その傷後を見て悠が呟く。


「もう・・・いやぁ〜・・・。」


そりゃ、俺だって嫌だよ・・・と心の中で泣き言を言う。


途端に背後の扉が開き、白衣の研究員が二人入って来た。


額に張られた赤いシールを見て、疾風に目で「こっちに来い」と合図する。


「先輩・・・!」


「平丘!」


「平丘君・・・。」


「せんぱぁ〜い・・・。」


「平丘先輩・・・。」


美夜・進介・輝・菜緒・諒子が同時に呼ぶ。もはや今生の別れか。



「・・・・・・疾風!」



最後に悠が強く、長年連れ添った幼馴染みの名前を呼ぶ。


これで最後になるかもしれない挨拶・・・。恋愛感情は無い。しかし、どうにも抑えられない気持ちでいっぱいになる。


こんな場面で不適切かもしれないが、愛しく、哀しい。そこには美しい光景があった。


確かに美しい女性ばかりで、絵になる。しかし、そこにいる進介の顔立ちも美しく、みんなの声がこだまする様に、疾風の脳内に響き渡る。特に美男子でもない疾風の顔すら、鋭利な刃のような美しさを放っていた。


「あぁ・・・みんな・・・」


「さよならでもいったらどうだ?」


校長が口を挟む。


「そんな言葉、俺たちは知らない。」


それから一呼吸置いて、わざと明るく言って見せた。



「みんな、「また会おう」!!!」



その言葉を聴いた途端、疾風と進介以外泣き崩れた。人前などまったく気にしない様子で・・・。


研究員に両脇を抱えられて疾風が部屋から出る。と同時に素早く閉まり、施錠させられる出入り口。


校長側のほうにも扉はあるが、ガラスが邪魔して通れない。一向に泣き止まない女子。


「さて、私は帰るとするか・・・オヤスミ諸君。」


「畜生!二度とその面見せるんじゃねぇ!」


「ほほほ、威勢のいいこと。」


そういって校長は出て行った。


部屋にはただただ、哀しみの唱が響くばかり・・・。


やがて泣き疲れて、声が枯れる・・・。





・・・静寂に抱かれて・・・激動の夜が明けていく・・・彼らと・・・未来は今・・・繋がっていない・・・。


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