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2stage

Haematophilia Vampire Story

第2話 〜岐路〜



 「ねむい・・・。」


朝の6時。そろそろ起きないと学校に間に合わない時間だ。


結局2時間眠れたのだが、まだ少し眠り足りない。


先に起きたのだろうか、ゆきの姿はない。とりあえず洗面所へ行って顔を洗おうと、寝室のドアに手を掛けた瞬間。


ガチャ・・・


セーラー服のゆきが入ってきた。


「あ、おはよ。今起こしに来たんだ。」


「おはよ・・・もう着替えてんの?」


「だって、始発逃したら遅刻しちゃうじゃん?」


「まぁ、田舎だからな。」


お互いの学校まで20キロは離れている。地元にも高校はあるが、あそこは犯罪者予備校のようなもので、ヤクザさんかクスリやタバコ、お酒がないとやっていけない人達しかいない。


バタートーストにレタスサラダをつまんだ後、昨日の不審な出来事に用心して10本程のダガーや折りたたみナイフを携帯した。


二人は早々にバス停に向かい、朝日を見つめながらバスを待った。


敢えて夜のことについて話さないのは、二人が大人になった証拠。


始発のバス停に5人ほど集まってきた。最後に悠が車で登場。一緒にいる疾風とゆきを見て、何やら感づいた様子。


意味ありげなウインク一発。悠は疾風の全てを知っている。ヘマトフィリアのことも、家庭のことも。


程なくしてバスが到着。いつものように悠の隣に座る。ゆきは一人掛けの椅子に大人しく腰掛けている。


「おはよ、ちゃんと避妊した?」


なんとも朝に相応しいご挨拶。


「おはよう、あのねぇ〜、朝ってのは爽やかじゃないといけないんですよ。」


「冗談よ冗談!今日もバスで寝るんでしょ?」


「うん、着いたら起こして。」


「あれ?人に物を頼むときは・・・?何ていうんでしたっけ?」


悠がイタズラっぽく笑いかける。朝日に照らされてとても綺麗だ・・・なんて、恥ずかしくて言えない。


「起こして・・・ください・・・。」


「ん?よく聞こえないよぉ?」


「起こしてください!どう?これで満足?」


「よし、起こしてやろう。」


屈辱。しかし、即座に疾風は意識がとんだ・・・。





 「起きて、乗り換えだよ?」


悠が揺り動かす。


「ん、起きた。」


「よしよし、今日はすぐに起きてえらいねぇ〜。」


子供を褒めるように頭を撫でる。


これも屈辱。


「乗り換えたらまた寝るから、起こして。」


「はいよ。」


遠くからゆきの声が聞こえる。


「バイバイ疾風!ありがとね!悠ちゃん、しっかり面倒見てあげてね!」


こっちも二人で手を振る。


乗り換えのバスに乗った途端、疾風は宣言通り即眠した。





 8時12分、学校に到着。まだ頭は睡眠状態まっしぐら。


大抵、学生の頭と言うのは3時限めまで眠っているようなものだ。


先生方はどうもそれを理解していないらしく、1時限目からフルスピードで授業を展開する。


普通より3倍速い赤いお兄さんじゃないと、あの朝の授業には付いていけないだろう。


何の変哲もなく、午前中の講義が終了。ようやく頭が冴えてきた時、重大なミスに気づいた!



「しまった・・・弁当作るの忘れた・・・!おおぉぉぉぉ!」


大げさな疾風。



「んなもん、下で買ってくればいいじゃない?」


と冷静な皆川君。彼は特に仲のいいランチタイムフレンド。


「俺はあの人でゴミゴミした販売スペースが嫌いなの!」


「じゃあ諦めろよ、昼飯。」


「仕方ない・・・非常食で補うか。」


「そんなもん持ち歩いてんの?で、何なの?」


横から吉村が言う。


「カロリーメイト!」


「へぇ〜・・・。」


さして興味もなさそうな二人。


各々の食事が進み、食後のグータラタイムが始まる。学生はこの時間が落ち着く。


吾妻が唐突に切り出した。


「そう言えばさ、潰れたまんまだった巨大な部品工場あったじゃん?あそこ、もう一年も前に買収されたらしいよ。」


学生にはどうでもいい話。正直何の興味もわかない一同。


「ふぅ〜ん、で?」


「で?って、それだけ。」


「つまんねぇ〜・・・オチなしかよ。」



が、いきなり疾風の鼓動が高鳴った。



「?????」


自分の体に何が起きたか理解できず、そのまま収まるのを待った。


そしてすぐに激しい「渇き」が襲ってきた。血を求める渇きである。


今までにこんなとはなかった。徐々に渇いていくならまだしも、急激に渇くなんてことは初めてなのだ。


頭の中で、白い靄が渦をまき、平衡感覚を鈍らせる。


「おい、平丘?」


「どうした?」


「いや、なんでもない・・・。」


そういい残して教室を後にした。屋上へ進み、ベンチに身を投げ出す。


「ヤバイ・・・なんだこれ・・・・・・。」


昼休みが終わるまであと20分はある。申し訳ないが菜緒に協力してもらうしかない。


彼の体が女性の血液を渇望している。


彼女の携帯にかける。程なくして明るい声で菜緒が出た。


「もしもしせんぱぁい?どぉしたのぉ?」


電話口の奥から、彼氏?だの、生徒会の先輩?だのと冷やかしの声が聞こえてくる。


が、この際一切無視。


しょっちゅう一緒にいるので、変に勘違いされてしまう。


本人曰く、変な虫が付かなくていいとのこと。


「ごめん、今すぐもらえないかな?」


「うん、いいけど・・・声おかしくない?」


「おかしい、ってゆうかいろいろおかしいんだ。」


「分かった、すぐ行く!」


通話終了の音が聞こえる。よかったぁ・・・とひとりで呟いた。


幸いなことに、屋上には誰もいなかった。


1分ほどして、菜緒が屋上に上がってきた。


「どおしたのぉ?顔色悪いよぉ?」


「いきなり渇いてきてさ、ごめん、もらうよ?」


「はい。」


上着を脱ぎ捨て、上半身下着姿になる菜緒。しかし疾風の頭の中には血のことしかない。


いつも携帯しているメディカルボックスからT字カミソリの替刃に消毒液を垂らし、切る部分にも消毒をする。


慣れたもので、あっという間に薄く切られた傷口から血がにじみ出てくる。


その血を飲む・・・・・・と言うより舐める。渇きのサイクルは早いが、量は少量でいいのだ。


毎回のことだが、罪悪感に包まれる疾風。女の子に血を提供してもらわないと平静を保てないのは、本人も提供者も理解しているが、女性の肌を傷つけないといけないことに変わりはない。


傷口を見て、一瞬迷う疾風。このまま、傷つけ続けないといけないのか・・・。


しかし結局は血の誘惑と拘束に逆らえずに、赤い紅い闇に飲まれていく。


しばらく、といっても5分程度だろうか。十分に血を舐め終わった疾風は、その味をかみしめるように、ゆっくりと息を吐き出した。頭の中が白く渦巻き明るい霞に体を預けるような気分だ。


菜緒の前髪をかきあげ、おでこに優しくキスをする。菜緒には彼氏がいるが満更でもない様子。


「ありがと・・・助かった。今度何か美味しいものでもおごるね?」


「うん、楽しみにしてるよ。」


もう一度傷口を消毒し、絆創膏を貼る。予備にもう一枚手渡す。


「じゃ、教室もどるね。次体育なんだ。」


「本当にサンキュウね。バイバイ。」


菜緒が階段を下りていく。見送る疾風。


「さてと・・・。」


ひとりで呟いて教室に戻り、生物の講義の用意をする。


午後の授業が始まる・・・。





 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・今日の学校生活はこれでおしまい。


「ふぁ〜あ、やっと終わったか・・・。」


疾風の隣で矢作が大あくびをかます。なんともだらしない。


「世界史・・・眠い・・・もうダメ。」


疾風が情けない声を出す。


「しっかりしろ!今日はこれで全て終わりだ!It is all for today!」


「あ?今日はこれでおわりだっけか?」


「本格的にしっかりしろ!お前の大好きな放課後だぜ?」


「うぅ〜ん・・・起きる。」


ようやく机から体を起こして荷物をまとめる。帰りのショートホームルームが行われる30S教室に向かう。


担任が来てダラダラと連絡事項を述べて配布物をいつものように配っている。


正直、学生はホームルームの話など聞いちゃいないのだ。


「起立・・・礼。」


学級委員長のこの一言で高校生は自由になれる。部活へ行くもの、遊びに行くもの、愛を語らうもの、それぞれの活動の時間だ。疾風は所属しているJRCへ顔を出す。ベルマークなどを集めたりする委員会だ。


「お、みんな集まってるじゃん。」


「今日は仕分けだからね、時間かかるよ?」


「それじゃあみなさん頑張りませう。」


「作業開始!」


ベルマークを切り取ったり、点数別に仕切られた容器に分けたり、各々が黙々と活動を続けている。


メンバーはほとんどが疾風の知り合いで、悠・進介・菜緒・美夜・いつも美夜と一緒にいる相原諒子あいはらりょうこ・疾風と同級生の狩崎輝かりさきあきらがいる。ちなみに女性。


諒子は小柄で細身、幼い愛らしさを残した顔つきで、とても活発な元気娘。


輝は長身でかなりの細身。蹴れば折れてしまうのではないかと言うほど細い。身長に似合わず、幼い顔立ちで、そのアンバランスさがなかなか・・・・・・。


作業は2時間にも及び、ようやく仕分けが終了した。


「お疲れ様でした。あとは先生に持っていくだけだね。」


菜緒が背伸びをしなが言った。


「切りくずいっぱい出しちゃいましたね・・・掃除していかないといけませんね。」


「みんなで掃除して帰ろうよ。もう教室貸してもらえなくなっちゃうもん。」


美夜に続いて諒子が言い、掃除用具入れに向かう。


「それじゃ、教室の荷物持って来て、一回ここに集まってから掃除しよ?それなら直で帰れるよ。」


輝の提案でみんなそれぞれの教室に荷物を取り戻る。


疾風はあらかじめ持ってきていたので、一人で掃除を始める。


人影を失った校舎はひどく広く、恐怖に感じられ、男の疾風でも身震いした。



そんなとき、「あの臭い」が段々と、急速に近づいてくるのが分かった。


頭にコウモリが浮かび、ベルトのホルスターに付けていたダガーに無意識に手が伸びる。



「来る・・・!」



身構えた疾風の前のドアに、いきなり長身の男が現れた。


真っ白く・・・いや寧ろ青白くやせ細った顔に大きく見開いた目。歳は40程だろうか。


中東系と西欧系の間のような顔つきをしている。


午後7時の学校に現れる幽霊にしてはいささか現実味がない。


「なにか、御用でしょうか?」


内心ビビリまくりの疾風。しかし怪しい人だからといっていきなり失態を働くわけにはいかない。


「君かぁ・・・。」


電子的な声で口を開く。声のトーンが違う男性が二人で話しているような声だ。


疾風は不気味に感じながらも「何がでしょうか?」と答える。


「臭い、気づいただろ?」


「ええ、それが何か?」


「欲しいんだよね・・・君が・・・その体・・・。」


一瞬にして身震い。おひげジョリジョリのオカマさんに接吻かまされるよりキワドイ。


残念ながら疾風には同性愛者ではない。


「男好きな男友達ならいますから、紹介しましょうか?」


友達を売る疾風。ヒドイ。


「君じゃなきゃ・・・ダメなんだよね・・・。」


そう言って一歩前に踏み出した。


本格的に臨戦態勢の疾風。背後でダガーを握る手に、力が入る。いつでも相手の喉元と額に飛ばせる距離である。


「どなたですか?」


「俺・・・?俺だよ、俺・・・。」


「クスリでもやってんですか?」


「クスリ・・・今はやってない・・・よ。とにかく君が・・・必要なんだよね。」


「どうしてです?」


「どうでもいい・・・から・・・一緒に来て?臭いが分かるってことは・・・君もなんだよね・・・。」


そういって懐からベレッタM9を抜き出す。アメリカの軍で制式採用されている拳銃だ。


モデルガンやエアガンが大好きな疾風は一瞬で見分けが付いた。


「本物だ・・・なんで・・・?」


「説明は後・・・こっちおいで・・・。」


5メートルほど離れてはいるが、照準はしっかり疾風の眉間に向かっている。


男がまた一歩踏み出したとき、遠くから人の話し声が聞こえてきた。


進介達だ。荷物を取って戻ってきたのだろう。この状況はマズイ。


男は素早く教室に入り、ベレッタを疾風に向けながら隣に立った。



進介達が教室に入ってくる。ありえない光景を見て、とたんに顔色が青ざめる。


女の子達が悲鳴を上げそうになると、男は言った。


「おっと・・・五月蝿くされては・・・困るんだ・・・。このお兄ちゃんの・・・頭・・・跳ぶよ?」


黙り込む一同。進介がすぐに口を開く。


「おい、平丘、なに冗談かましてんの?」


と言いつつ本人の顔は引きつっている。


「どうやら、マジっぽい。理由はわかんないけど。」


「すぐに教えてやるよ・・・めんどくせえ・・・見られちまった・・・か。全員・・・何気ないふりして・・・校門を出ろ・・・そこの車に・・・乗るんだ・・・死にたくなければ・・・。」


状況を理解できないでいる一同。


「おっと・・・携帯電話は・・・預かるぜ・・・。」


全員の携帯を受け取りながら、一団は男を最後尾にして歩き出した。教員は何の異常も感じてない。


もともと土足の学校なので、そのまま大型の軍用ジープに乗り込ませられる。運転手があらかじめ乗っていた。


男は助手席に乗り込むと直ぐに後ろを向き、ベレッタを突き出す。


「騒ぐなよ・・・?・・・すぐに着くからな・・・。」


誰も喋らない。ただ、女の子は全員震えている。あたりまえだろう。


前の座席に無線の様なものが鳴っている。男は時折前を向いては何やら会話をしていた。


しかしベレッタの銃口は依然としてこちらを向いたまま。下手に反撃して失敗したときのリスクは大きい。


大人しく座っているしかなかったが、無線で会話している隙を見計らい、進介に折りたたみナイフを渡した。


目で合図し合い、靴の内側の隙間にねじ込んだ。



車は暗闇の工場地帯へと消えていく・・・・・・。

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