Haematophilia Vampire Story 1stage
Haematophilia Vampire Story
第1話 〜日常〜
平成1X年、ある春の朝・・・・・・。
平丘疾風はいつものように高校へ向かうバスに揺られていた。
バスの窓から鋭角的に差し込んでくるまぶしい朝日に気だるい痛みを感じながら、いつもの席に座る。
隣には幼馴染の鈴谷悠が腰掛けて顔にナチュラルメイクを施している。
もともとメイクなど必要ないくらいに美しい部類に入る顔立ちなのだが、17歳というお年頃のせいなのか、自分をより美しく見せることに余念がない。
そして幼馴染でも理性が危ういほどにタイトでショートなスカートに、胸元強調しまくりのニット。
私服校なので服装は自由だが、、、さすがにこれではこれから勉強しに行く服装には見えない。
始発のバスは途中で疾風の友人を何人か乗せるのだが、朝はとにかく眠いので話す気にもならない。
学校には、途中でバスの乗換えをしないとならない。疾風や悠の家は山に囲まれた僻地に建っている。
遊びたい年頃の彼らにとって、家が市街地から遠く離れていることは遊ぶ字時間を否応なしに削られる。
しかし今年大学受験を控えた今年、それも悪くないと思い始めている大人になった彼ら。
いつもの時間に学校にバスが着き、いつもの様にガラス張りの昇降口を通る。
一年前に建てられたばかりの高校なので、エレベーターや最新の設備が整っている。しかも職員室という概念がなく、各教科ごとの「スペース」に先生方が常駐している。今までの高校スタイルを破った新型県立高校。
授業スタイルも大学のようで、毎時間受ける教室もメンバーも違う。
そして今日も授業が始まっていく・・・・・・。
春の暖かく眠気を誘う陽気のなか、毎日が過ぎていく・・・・・・ように思えた・・・・・・。
そう、この日までは・・・・・・。
放課後、生徒会役員に属している彼は生徒会室に向かう。
途中で浅木美夜とすれ違い、互いに軽く会釈する。
美夜は後輩で2年生。細身で長身、綺麗な黒髪のセミロング。顔立ちも、暗い印象を受けるがなかなかの美顔。
去年の暮れから新年明けまで、短い時間だったが疾風と恋愛に堕ちていた。
今はお互いに特別な感情を抱いていない。しかし、提供者という特別な立場にある。
・・・・・・そう、疾風はヘマトフィリア(血液嗜好症)なのである。
しかも自分の血では満足できない特殊なケースである。血液に・・同年代の女性の生き血に激しく依存していた。
かといって精神的にアブナイ人ではない。それを除けば頼れるいいお兄さんなのだ。もちろんこのことは、家族は知らない。
よく勘違いされるが、ヴァンパイアの類ではない。生まれつき鼻や勘が働くが、日光を浴びても灰にはならない。
ニンニクは好きではないけれど食べられるし、銀の装飾品も何も感じない。さすがに心臓に杭を討たれたら絶命決定だが。
力や格闘センスはあるものの、ヴァンパイアほどでもないし、人間が修練すれば得られる範囲の強さだった。
「遅くなりましたぁ〜、すいませぇ〜ん。」
気の抜けた挨拶を引っさげて生徒会室に入ると、他の生徒会役員が生徒総会の資料作りに追われていた。
「おう、やっとこさ来たか!庶務委員の活動計画がまだあがってないんだよね。わりいけど、庶務委員長からもらってきてくれないか?」
生徒会会長の横浜が言う。
「わかった。行ってくる。」
まさか入った途端に踵を返すことになるとは・・・などと心に留めながら3階から2階の庶務委員長へ向かった。
委員長のいる20E教室へ入室。庶務委員長とはクラスメイトだ。
「失礼します、活動予定表を預かりに来ました。」
委員長は何やら必死に書き物を・・・もとい予定表を書いていた。ちなみに締め切りは2日前。
「ごっめぇ〜ん、庶務委員集まり悪くて話し合いできなかったのぉ〜!今書いているから待ってぇ〜!」
「あぁ、ゆっくり書いていいよ。俺もその間は生徒会の仕事しなくてすむから。」
なんとも生徒会役員にあるまじき発言。こんなんでこの学校は大丈夫なのだろうか。
窓際の手すりの腰を掛ける。書き終わるまでのんびり外を眺めていた。
昇降口にバスが停まっているのが見え、バス帰宅の生徒たちはそれぞれ軽く別れのジョークを飛ばしあっている。
その中に見知った顔の少女を見つけ、目でRock on.
視線に気づいたのか、少女が振り返り疾風の顔を確認すると、100万ドルの笑顔で大きく両手を振ってよこす。
「せんぱぁい!さようならぁ!」
「あぁ!Hなおじさんに捕まらないように帰りなさいね!」
「うん、じゃあね!」
彼女とその他大勢を載せたバスがくたびれたエンジン音を高めながら公道の流れを割っていく。
彼女は真下菜緒。後輩の1年生。提供者の一人。屈託のない笑顔と明るい性格が魅力だ。
菜緒の兄(別の学校)と疾風は友人であり、菜緒も疾風の妹と友人である。
先月、初めて菜緒と対面したときに話の馬が合い、結構複雑な話題でも話し合えた。
勇気を出して血の話をしてみると、考える暇もなく即答で提供者になってくれる意を表した。もちろん誰にも秘密。
「・・・・・・よし、終わったよぉ。」
「お疲れさんです、じゃあ、頂いていきますよ。」
「ごめんね?待たせちゃって・・・。」
「いやいや、気にすんな。じゃあ失礼いいたします。」
音を立てないように20E教室の戸を閉めて生徒会室に向かって歩き出した。
春の陽気をさらって、東の空が明るい闇に抱かれている。
学校から200メートルほど離れた所に、黒い車体にスモークシールを貼った車が停まった。
ベンツ、しかも最高クラスのセダンだった。
学校は恐ろしく巨大で、尚且つ周りには建造物が存在しないので、離れていても良く見える。
車の中には3人の中年男性がのっていた。いずれも黒いサングラスをしている。
「やはりこのあたりか・・・。」
「毎回ここで臭うのです。もうあの建物しかありません。」
「確定だな。日を改めて出直そう。一応付けておく」
車がゆっくりと東の闇に消えてゆく。
生徒会室に着いた疾風は、パソコンに打ち込む仕事をしている副会長の吾妻に予定表を渡す。
「やっと来たの、遅かったじゃん?」
「取りに行ったときはまだできてなくてね。」
早く仕事を終わらせて帰りたいのか、怒濤の勢いでキーボードを叩いていく。
他の役員の姿が見当たらないのは、仕事を終わらせもう帰ったのだろう。
あっという間に打ち込みを終えた吾妻は、う〜んと背伸びをしながらあくびをする。
「じゃあ俺はもう帰る。またな、平丘。」
「またね。」
吾妻は生徒会室を出て行った。
「さて、少し勉強していくかな。」
31S教室に荷物を取りに戻ると、石森進介が暇をもてあそんでいた。
進介とは高校に入ってから知り合いになったのだが、サークル活動などで一緒になる機会が多く、自然と仲良くなった。中性的な顔立ちをしており、女装でもさせてみたら面白そうである。
また、電子機器の扱いに長けており、本人曰く「健全なヲタク」だそうだ。
「生徒会終わった?」
「うん、やっと資料完成の目処がたったかな。」
「おつかれさん。あ、これ、聞きたがってたTM RevolutionのWhite Breath。」
「ん〜サンキュウ!よく見つけたね!」
などとくだらない話をだらだらと・・・すっかり勉強のことなど忘れている疾風。
20分ほど話し込んで時計を見ると、最終バスの時間が迫っていた。もちろんこれを逃せば、帰宅不可能である。
「そろそろ帰らない?」
「こんな時間になってたか、帰ろ。」
荷物を取りながら廊下・階段・昇降口を話しながら歩いて行く。
最終バスも菜緒を見送った昇降口から出発する。
バスは3台出て、それぞれ違う駅に向かう。方向が違うので、ここで進介とお別れ。
二人は同時に「またね」と言いそれぞれのバスに乗り込んだ。
バスに乗って悠を見つける。ちょうど二人掛けの椅子をキープしていたので、これはラッキーと心で呟く。
「お嬢さん、お隣に失礼してもよろしいでしょうか?」
「あら素敵なお方!どうぞお掛けくださいな!」
などとふざけあっているうちに、バスが動き出す。
悠には彼氏がいる。これだけ美人で性格も良いのだから当たり前なのだが、彼氏もちの女性に公然と髪を撫でたり肩を抱いたり、手を取ったりできるのは幼馴染の特権か、などと黒い笑いを腹に飼う。
もちろん幼馴染で恋に落ちることはあるが、この場合の二人は性別を超えた関係にある。兄妹みたいなものか。
今日有った事、家に帰ってからしたいこと等をはなしているうちに、乗り換えポイントに着いた。
何人かバスから降りる。そして30分後に出るバスをお喋りしながら待つ・・・のだが、今日はそうもいかなかった。
学校を出たあたりから感じる「臭い」が気になって仕方がない。
それは、湿った洞窟の臭い。このバス停は温泉街にある駅にくっついているのだが、温泉のそれとは違う。
上の空で聞き流していることに気づかれたのか、悠が急に頬を膨らます。
「んもう!疾風、ちゃんと聞いてよぉ〜!そんなに私の話、つまらない?」
聞いてないのだから面白いもつまらないも無いだろう・・・なんて口が裂けても言えない。
「あぁ、すまない。それよりさ、変な臭いしないか?」
「話逸らしやがったなぁ・・・。別に?しないけど。」
「そっか、ならいいや。」
と言いつつもずっと臭いの出所を探る。嗅覚が異常に優れているのだ。
少し硫黄の匂いが混じるが、自分の後方から「あの」匂いが漂ってくることに確信を得た。
だからと言って今はどうすることもできず、帰りのバスに乗り込んだ。
「終点、岸の下ぁ〜、岸の下ぁ〜。」
いつの間にか眠っていたのだろう、疾風を乗せたバスは終点に着いていた。
もともと終点で降りるので、寝過ごすことはありえない。
「ね、着いたよ、起きてよぉ。」
悠に揺り動かされて目を覚ます。
「ん、んんん、、、おはやふ。」
「フザケタ挨拶してんじゃないわよ。」
「降りるか・・・。」
「それ以外することないでしょ。」
「じゃあ降りよう・・・いや、是非降りねば。」
「寝ぼけてんの?」
「降りず・降りるとき・降りる・降ります・降りれば・降りろ、活用形現代版オリジナル風味。」
「・・・・・・寝ぼけてるわね。起こしてあげる・・・。」
全身に「危険!」信号が伝達され、ミサイルのような勢いで立ち上がった。
あれ以上ふざけていたら確実に身長が伸びてしまう・・・タンコブで。
「素直に起きればいいのに。」
「俺ぐらいの男の子は難しい年頃なの。」
「はいはい。」
ぐだぐだしながらバスを降りた。
真っ暗な田舎のバス停、悠の家はここから少し離れた所にあるので、いつも親が車で迎えに来るまで、疾風と一緒に待っている。
真っ暗、本当に真っ暗な闇の中。街灯一つ無い。
疾風は暗闇でもはっきり見えるのだが、普通の、しかも女の子の悠にとっては凄く怖いだろう。
この時だけは気丈な悠も大人しくなる。
隣に立って、黙って疾風の左手を掴む悠。ずっと下を向いている。その仕草がたまらなく可愛い。
身長は疾風より少し大きい悠なのだが、このときは毎回、小さく見えてしまう。
森の中から鳥が羽ばたく音が聞こえる。悠はますます力を込めて手を握る。
彼女ではない女の子にでも、こんなことされたら男は嬉しいものである。
毎回こうだとしても、たとえ幼馴染で慣れていたとしても、理性がアヤウイ疾風。
レッドゾーンまで針が振り切れている。これで目線でも合おうものなら、間違いなく彼女に溺れてしまうだろう。
こんな生活、身が持たない・・・と呟きそうになり、あわてて口を紡ぐ。
その数秒後、ヘッドライトが近づいてくるのが分かった。音から判断しても悠の親の車である。
やがて彼らの目の前に駐車し、助手席側のガラスが開いた。
「いつもありがとね!」
と、悠のお母さん。幼馴染と言うこともあって、疾風なら間違いを犯さないだろうと絶大な信頼をおいている。
本人の本音を知ったら、きっと驚きで気絶するに違いない。
「では、失礼します。」
「またね、疾風ぇ。」
「うん、、、バイバイ。」
車がクラクションとともに走り出す。
名残惜しく、左手の悠の体温を握り締めながら、帰宅する疾風。
今再び、あの匂いが漂っていろことすら忘れているようで・・・・・・。
「ただいま。」
誰もいない家に足を踏み入れる。両親は仕事が多忙で家には帰れない。
祖父母と妹2人は程近いもう一つの家に住んでいる。
すばやくシャワーを浴びる。
冷蔵庫から野菜とササミを取り出し、簡単な夕食を作る。長年一人暮らしのような、両親育児放置プレイ状態。
よくグレないで育ったものだ。
一人でテラスに出て、食事を始める。星が綺麗だった。いつの間にか軒下に住み着いた野良猫を口笛を吹いて呼ぶ。
すっかりなついたもので、手渡しでも食べ物を食べるようになった。
そして疾風が食べ終わるまで隣に座って星を眺めるのだ。
「最近は暖かくなってきましたね。すごし易いでしょう?」
と、猫に話しかける。猫はめんどくさそうにあくびをする。
「そうですか、それはよかった。家の軒下なら、いつまでも使っていていいですからね。」
傍から見たら、黒猫に一方的に話しかけているアブナイお兄さんである。
いや、実際危ないのかも知れない。
星を眺めて3時間がたったころ、疾風はようやく異変に気づいた。あの臭いがする!
かなり近くで!やはり今回も背後から漂ってきている。猫も気づいたのか、息を荒げ、牙を剥き、臨戦態勢ど真ん中。
猫がこんな反応を示すのであれば、臭いの正体は生き物であるに違いないと確信した。
何のために自分の近くにいるのか、追ってくるのかは、てんで検討がつかないが、好奇心からか正体を見てみたい。
テラスの手摺と隣家の壁を利用して、手摺→壁→テラスの屋根へと三角跳びをした。
うまく屋根に上れたのはいいものの、その瞬間の衝撃で臭いの元が一気に空中へ飛び出した。
そして山のほうへ飛んでいったのである。
「・・・・・・飛んだ!?」
呆然と立ち尽くす。黒い小さな何かが、不恰好にジグザグに飛び、闇に消えた。
「はぁ?コウモリ?」
別にこの地区ではコウモリを全然見かけないわけではないが、なぜコウモリが自分をつけているのか分からない。
時刻は2時を回っている。いつも4時に寝て6時に起きている彼にとって、まだまだ活動時間だ。
ここ数時間ずっと考え込んでいる疾風
そんな時、ふと玄関のチャイムが鳴った。
こんな深夜に来る人は・・・宅配便?いやいや有り得ない。などと心で思う。
一応用心して、電動エアガンを持っていく。(←本当はこうゆうことに使っちゃだめ)
3重の鍵を開錠しながらお約束の問いかけ「どちら様でしょうか?」
「私、平丘ゆき。」
「あぁ、ゆきちゃんか。どうぞお入りください。」
平丘ゆき(ひらおかゆき)疾風の同い年の従姉妹。かなり評判の美人4姉妹の末っ子だ。
スポーツが得意で、運動神経抜群。174センチというモデル体系。
しかし教科書を開くと必ず可愛い寝顔を見せてしまうほど、お勉強とは仲良しという困ったチャン。
疾風より遥かに長身。ちなみに疾風は160センチ85キロ(!)
しかし鍛え上げられた筋肉の上に薄い鎧のようにつけた脂肪がどこか健康的ですらある。プロレスラーのよう。
「寮生活に疲れて、逃げてきちゃった☆」
「あなたは週に一度は寮生活に疲れちゃうでしょ!?」
「あははぁ〜、だって門限早いし、好き勝手できないし。」
「あぁ〜、なるほど。だから毎週俺の家で好き勝手に・・・・・・っておい!」
「怒んない怒んない。じゃあ、シャワー借りるね?」
と言い残し、ゆきは風呂へ向かった。
平丘家には、たびたびこうした女性の訪問者が訪れてくる。
大半は家出した女友達か発情期のプレイメイトである。
疾風が特別に顔や性格が良いわけではないが、いつでも都合がつき、しかも家でやりたい放題できるので、なかなか夜の照明が落ちることはない。
疾風も、体が手に入るのでまんざらでもない。やはり若い男子だ。
どうせ風呂上りに夜食を要求するだろういつものパターンを想定し、リゾットを煮始める。
それと、ベッドに枕をもう一つ・・・。
ゆきがシャワーからあがるのを待っていると、進介からメールが来た。
「Gacktの新曲、欲しい?欲しいなら明日持っていくよ?」
あぁ、欲しいさ。聞きたいさ。などとメールにうっている途中、重大な事実に直面した。
「新曲発売って・・・6日後のはず・・・・・・?」
まさか進介が、音楽会社のコンピューターに忍び込んでお持ち帰りしたとは誰も思わないだろう。
なんだか考えるのが怖くなったので、疾風君思考停止。シャワーからあがるゆきを待った。
5分後、ゆきがパジャマ(←疾風の)を着て頭をタオルで拭きながらリビングに入ってきた。
「あぁ良い湯じゃった。」
「あなたは爺か?」
「いやいや、うら若き乙女よ?」
「じゃあ、言葉遣いに気をつけなさい。」
「はいはい。」
「はい、は一回。」
「はぁ〜い。」
「はい、は短く!」
「はい!」
「よろしい。ご飯、食べるよね?」
「さっすが疾風!分かってるぅ〜!」
「17年付き合えば、イヤでも分かります・・・。」
実は同じ日に同じ病院で産まれたのだ。
リゾットをテーブルに差出し、軽いスティックサラダと赤ワインも机に置く。
「あらあら、私を酔わせてどうするつもり?」
「・・・いただきます。」
「いいわ、お礼にどうぞ。」
疾風の下半身が一気に加速する。感づかれないように、食事中も楽しい会話を心がけた。
ゆきが一気にワインを飲み干すと、すかさずグラスの5分の2ほどついで入れる。
別に酔わなくても体は提供してくれるだろうが、酒に弱い疾風に毎週酒を送ってくる父親がいるので、賞味期限切れを迎えるお酒がもったいないのだ。しかしどう見たって未成年の飲酒。
「美味しかったぁ〜、ご馳走様。」
「お粗末さまです。」
「ベッド、行きましょ?」
下半身は最大稼動状態。疾風のは至って普通のサイズだが、今や小さなティラノサウルス。
ここでも平静を装い、
「もう少し食休みしないと。」
などと大人ぶってみせる。しかしすっかりお見通しのようで、ゆきもイタズラに艶っぽい声を出す。
「あら・・・私はいいのよ?うふふ、今すぐにでも・・・ね?」
「あと5分休もう。」
「あらあら、無理しなくてもいいのに。」
「ゆきの体を考えて言っているんですぅ!」
「はいはい、分かったわよぉ。」
しかし、5分など早いもの。待ち望んだ時間。
「・・・行くか・・・。」
「・・・うん。」
いざとなると恥ずかしがる二人、まだまだ若い。
リビングの電気を消して寝室へ向かう。
二つ並べられている枕を見てゆきが言う。
「あらあら、用意がいいのね?」
「いつもこうじゃん。なんだよ今更・・・。」
ゆきとは7回程寝たことがある。幼いときにする添い寝とは別の「寝る」だ。
「さぁ、寝よう・・・いいんだよね?」
なんとも野暮な質問である。
「あのね・・・良くなかったらここまでこないから!」
と、ふざけ半分に怒ったゆきを押し倒し、耳に噛付く。耳朶を口に含み、舌で愛撫する。
さっきまでの威勢はどこへ消えたのか、息を荒げて声を出さないように歯を食いしばっている。
愛撫の対象が首筋や鎖骨へ移ると、閉じた歯が徐々に開け、次第に喘ぎ声へと変わっていった。
シーツを掴むゆきの手に力が入る。
疾風が電気を消し、全てが一瞬にして闇に包まれる。
その先の光景は、誰にも分からない・・・ただ、音と感触だけが生きる世界へ。
従兄妹など関係のない定義に過ぎず、若い二人の前では何の意味も持たない。
・・・・・・墜ちてゆく・・・・・・永い刹那の時間の中へ置きざられて・・・・・・。