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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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3、再会①


 マリエルが17歳になり一週間が過ぎた初夏の昼下がり。午前中の勉強が終わり、この日は久しぶりに午後は公務も勉強もなく、昼食後は大好きな竜に関する伝記でも書かれた本を読もうと東屋に来ていた。

 爽やかな風が頬をなで、白銀の髪に光があたりキラキラと波打つようになびている。


 傍らにはマリエルの身の回りのお世話をしてくれる侍女のマーシーがテーブルでお茶の準備をしていた。

 東屋からよく見える位置に護衛が一人。浅黒い肌に鋭い眼差しの男だが、剣の腕前はデュリカーナ1を誇り、4年程前からマリエルの護衛を行っているジオンと言う27歳の青年だ。


 マリエルにとってジオンは幼い頃からの師匠でもあり、竜の知識を最初に教えてくれたのもこのジオンだった。最近では護身術も覚えておいて損はないだろうと、短剣での修行もつけてもらっている。


 そんなジオンは昨年、侍女のマーシーと結婚し夫婦揃ってマリエルに仕えてくれるデュリカーナにとって大変ありがたい者たちでもあった。


 マリエルの竜愛は何もお見合い相手に発揮されるものではない。マリエルと接する時間が長ければ長い程、それを目の当たりする機会も多く侍女も逃げ出すほどとか・・・。マリエルが生まれる前から仕えている者は慣れているが、新しく入る新参者は恐ろしい代名詞の竜の名を出すだけで、泡を吹いて倒れる者やマリエル自体を悪魔でも見るような態度をする者もいた。


 ただ慣れているとはいえ四六時中、竜愛を全面に出されればうっとうしい。もとい、仕事にならなかったりするので、マリエルの扱いに長けたものが必要だった。


 その点、マーシーはマリエルが小さい頃から仕えており、なによりマリエルの竜愛にも勝るほどマリエル命で献身的に支えている。

 護衛のジオンにしても、マリエルの竜に対しての無駄にある行動力に昔から振り回されており『姫さんはそんな者』と捉え、受け入れている節があり王妃直々にマリエルのことは二人に任せていた。


 気心知れている二人といるとマリエルも構える必要がないので、今日はリラックスしているようだ。ゆったりとした時間が流れる中、ペラリ、ペラリと本がめくられる音がする。


 一杯目の紅茶を飲み終わったところで、ふと城内が騒がしいことに気がついたマリエルは、ここで初めて本から目を離した。

「あら、今日は随分と騒がしいのね」

 そばに控えている侍女のマーシーに目を向ける。


「何かあるの?」

 マーシーとジオンは顔を見合わせた。するとジオンがため息と共に「もういいだろう」と呟いた。

 マリエルは首を傾げ、説明を求めて再度マーシーを見た。

「まあ、もう御一行も目前だしいいわよね」

 夫婦で前置きをした上で、これから言うことは、できるならギリギリまで言いたくなかったのが本音だった。


「これから隣国のオルリアから視察団が来られるのですよ」

 おかわりの紅茶をカップに注ぎながら言うマーシーにマリエルは、はて?と考える。


「そんな予定あった?」

「はい。アラン様が今出迎えに出られた頃かと」

 アランとはマリエルの同母兄の王太子のことだ。

「私は出なくて良かったの?」

 皇族が呑気に東屋でお茶しているのなら、友好国の視察団をお出迎えするべきなのでは?と思うのは至極当然な事なのだが。

 挙動不審なまでに、マーシーは目を泳がした。

「マーシー?」

 先程から侍女の様子がおかしい。


 すると頭上からため息混じりのジオンの声がする。

「早くから『視察団が来る』と姫さんに告げたら、公務どころか勉強も手に付かなくなるから知られるギリギリまで隠せ。と王妃様に言われてたんだ」

 護衛のわりに砕けた物言いに気を悪くすることもなくマリエルはキョトンとする。


「お母様何でそんなこと言われたのかしら?」

 クスクス笑うマリエルは、王女らしい控えめな笑みだ。

「私、竜のこと以外でそんな失態は犯さ」

 犯さないと言いかけてやめた。

 マーシーとジオンはあさっての方向へ向いている。


 マリエルは笑みを消し、自然と眉間にシワが寄る。

(隣国のオルリアからの視察団って言ったわよね)

 オルリアには竜の聖地があり、竜の逸話や伝記はそこら中に存在する。今マリエルが見ていた伝記もオルリアから取り寄せたものだ。

 母がわざわざ箝口令を強いたということはまさしく”竜”が関係しているから!?


「誰!」

 ガタンと音を立てて立ち上がる。その際に、入れたての紅茶がマリエルがテーブルに当たった衝撃で器から溢れる落ちるが、マリエルはそんなことはお構いなしだった。


 竜が関係していると分かってじっとなんてしてられないわ!

「誰が来るの!!」

 美姫と謳われ、普段のマリエルは淑女としてどこに出しても恥ずかしくない王女ではあるが、竜が絡むと醜聞を気にする暇もなく問題行動を取るのが常なのだ。


 王妃もそこは自分の娘の行動を見越して今回の視察に関してマリエルの耳に入らないようにしていたのだが、心配していた通り”大”興奮状態のマリエルに、やっぱりとマーシーとジオンは顔に手をやり俯いた。


「ジオン!誰が今回視察に来られるの!!」

 ジオンは観念したように重い口を開いた。

「ディークファルト・オルリア殿下ですよ」


 やっぱり〰〰〰〰〰〰!!!(歓喜)

 竜が関係があると聞いてもしかしてと思ったけれど、竜殿下が来られるのね!

 そうなれば10年前同様アリッサも来るかも!!!こうしてはいられないわ!迎えに行かなくては!!


 マリエルは重たいドレスを持ち上げると走り始めた。

「姫様!どちらに?!視察団は正面の城門前に到着予定ですよ!」

 侍女マーシーの言葉にマリエルは足を止めずに声だけで応えた。

「丘の上よ!アリッサが来るかもしれないから迎えに行くわ!!」

 王女らしくない、ドドドと効果音を立てるように走り去る姿に、残された二人は長い長い嘆息を吐く。


「その迎えはあくまで竜なのよね?」

「だろうな。普通の女性なら竜殿下の方がお目当てだろうにな」

「17歳になられても恋愛回路は閉じられたままかぁ」

「焼き切れてんじゃないか?」

「冗談に聞こえないからやめて!(泣)」

 マーシーが嘆いている頃、マリエルは重たいドレスが汚れるのも気にせず北東奥にある丘台を目指していた。


 約束なんてしていない。アリッサが来ると思うのは、マリエルの希望的観測ではあったが、それでも丘を目指さずにはいられなかった。

 この10年いろんなことがあった。辛いこともあった。

 それでも私の中でアリッサの存在は色褪せることはなかった。もう一度会いたいと何度も何度も思い描いていた。


 会えるかもしれないと思うと涙が込み上げてくる。

(ああ、なんでもっと早く走れないのかしら!ドレスは重たいし、かさばるし!)

 ふと背中に人の気配がして視線を向けるとジオンがいつものように無表情のまま、並行して走っている。

 いつの間に追いついたのか。重たい甲冑をつけてガチャガチャと音を鳴らして走っているのに、息もキレてない。


 走るといってもマリエルに合わせていたら早歩きに近い速さなのだが、息が苦しいマリエルの横で平然とした顔のジオンが憎たらしい。ずるい!と自分の体力のなさを棚に上げて心の中で八つ当たりする。

 竜のことになると、とことん子供っぽくなるマリエルであった。


 何とか丘を登りきったが、体力全部使い果たした。やっぱり小さい頃と同じようにはいかないかとマリエルはがっくりとした。

 今度ここに来る時はもっと簡素なワンピースで来るべきだな。


 一回着替えて来ればよかったとマリエルが反省していると、視界の端でキラリと光が走った。バッと空を見上げ、凝視していると時折キラッキラキラっと星が煌めくような光が瞬く。


 瞬きが段々と大きくなるにつれ、雲一つない快晴の空の中、徐々にその姿を現したのは紛れもなく会いたいと思っていた白銀の竜だった。


 涙が溢れる。

 向こうもマリエルの姿を確認したのかスピードを上げて丘に向かって急降下してきた。

「アリッサー!!」

 淑女らしくない大手を振って、大きな声で名を呼ぶ。

 するとキュルキュルと言う微かな鳴き声が聞こえた。10年前よりも低く落ち着いた鳴き声だ。


 アリッサが近くまで来て、マリエルはその大きさに驚いた。大人の大きさもなかった子竜は立派な竜になっていた。その白銀色は健在だが、鱗もあの頃よりも大きくなっていた。

 2m長の体躯。美しいフォルム。さすが私のアリッサ。うっとりするマリエルであった。


 ゆっくりと丘に足をつけ、迷うことなくマリエルに走り寄るアリッサの姿にマリエルも駆け寄る。

「アリッサ!」

 キュルキュルル

 甲高い声に機嫌が良さそうだと察する。頭を下げてきたアリッサの頭部に抱きついたマリエルは、その触感にホッとする。

「アリッサ元気だった?ずっと会いたかったわ!」

 そういって腕に力を入れた時、アリッサの背からギシリという音が聞こえた。


「俺には挨拶なしか?マリエル」

 ストンとアリッサの背から降りた人物はマリエルにイタズラっぽい笑みを浮かべていた。


 そこには10年前アリッサと一緒にこの丘で幾度となく遊んでくれた青年から大人になったディークファルトの姿があった。


本日はもう1話UPします。

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