29、晩餐
「お待たせ致しました」
竜御殿のそう大きくない食堂に二人揃って入室すると、王太子サイラスと第二王子のルーカスはすでに席についていた。
にこりと笑うマリエルに二人も笑顔を向けた。
「いや構わんが・・・その衣装を着たのか」
さすがのサイラスも驚いていた。
だがその隣りにいたルーカスは、なるほどと頷いていた。
「その方がいい。ドレスができるまではその衣装の方が牽制出来ていいだろう」
ルーカスの言葉に、ディークファルトはわかってくれますか、兄上。と、視線を向けるとルーカスは静かに頷いた。
「シャーロット義姉上も好まなかったでしょう、オルリアの衣装は」
ルーカスの言葉にサイラスも自身の妻を思い出し苦笑いした。
「そういえばそうだったな。他国から見ると、奔放に見えるとかで最初の頃は眉を潜めていたからな」
サイラスの言葉にマリエルは流石に表情を強張らせた。
奔放?そんなに肌を露出するような衣装が流行っているのだろうか。
「・・・・誘惑多めですわね」
思わず出た言葉のマリエルにディークファルトは頭を撫でた。
「心配せずともマリー以外に惑わされる気もないし、私は逆にその奔放さが苦手だったからな」
なるほど、積極な人は苦手と言っていたからディー様にしたら目に毒だったことだろう。
しかしそこまで奔放と言わしめる衣装には少し興味が出ましたわね。
「私がしたら似合いませんか?」
「え?」
オルリアの三人の殿下皆がマリエルの言葉に固まった。
「郷に入っては郷に従えという言葉もありますし、着ても」
「「「それはやめなさい!!!」」」
三殿下の声が見事にシンクロした。
それも必死を通り越して怒ってるのかというほどの顔つきで。
こうして見るとやっぱり兄弟なのね。と呑気な感想を持ったマリエルだった。
アランお兄様とジルお父様を×て2で÷ったような殿下方に親近感が湧いた。
「着るならディーの前だけにしなさい」
カーラの手によって運ばれてきた料理に手をつけていると長兄のサイラスが言った。
「そうだね。その衣装を着ていたほうがいいと言ったことにも繋がるが、このオルリアでは衣装と同じく性も奔放なんだよ」
ルーカスの言葉にマリエルは意味が分からず首を傾げた。
「マリエル姫にこういう話題を振っていいものか迷うが、処女性を重んじているのは王族のみで貴族といえど女性も抵抗なく男性を誘惑するし、男性も女性に対して軽く見るというか、その気があるとわかると手を出す者も多いんだ」
「つまり・・・」
「その衣装は男性用。私にその気はありません。というアピールにも繋がるし、その青色刺繍の上着はディークファルトの紋章みたいなものだから、牽制には持ってこいの着物なんだ」
マリエルは一度上着を見下ろした後、隣のディークファルトを見つめた。
「これ、ディー様のですか?」
「私が成人前に着ていたものだ」
「ふぉー」
マリエルから奇声が聞こえディークファルトは目を細めて微笑んだ。
竜に対して感動している時に出る奇声を自身のことで引き出せたことに喜んだのだ。
「なにより体型が隠せる」
ルーカスの言葉はマリエルの耳には入っていなかったが、ディークファルトには聞こえていたようだ。
末弟が黙って大きく頷いているところを見たサイラスは、ディーもそこを狙ってこの衣装を姫に着せたらしいことに気がついた。
サイラスの横でも頷いているルーカスを目の端に移り、昔からこの二人の感性はよく似ていたな、と長兄は思い出した。
「ディー様は青なのですね。サイラス様とルーカス様は何色ですか?」
「ああ、マリエル姫。その呼び方なんだけどね。お義兄様をつけてくれないかい?」
いずれ二人は結婚するわけだしね。といたずらっぽく言うルーカスにマリエルは一瞬キョトンとしたが頷いていた了承した。
「はい、わかりました。では私のこともマリエルとお呼び下さい。サイラスお義兄様、ルーカスお義兄様」
にこやかに微笑むマリエルの横に目を向けたサイラスはなるほどと納得した。
義理の兄としてマリエル姫を可愛がるのは問題ないのかディークファルトはご満悦だ。
逆に自分以外男の名前を姫の口から出るのは矜持が許せないか?
ルーカスはやっぱりディーの心境をよほど理解していると感心した。
「わかった、そうさせてもらおう」
「うちは男兄弟ばかりだから義妹にお義兄様と呼ばれると嬉しいね」
ニコニコのルーカスを見てサイラスは、一瞬呆れた。
ただ単にお前の願望を押し通しただけか、ルーカス?!
いや、それでもディーも納得しているのならいいのか。
長兄は忙しなく一人突っ込みしては、納得する思考を転回していたが、マリエルとの会話を思い出し咳払いした。
「コホン。それで色の話だったね。私は赤、ルーカスは紫、ここにはいないがクリストファーが黄色、ディーは青と指定されている」
サイラスの言葉にルーカスも続く。
「その衣装は伝統に則って作られているが王家の紋章をベースにしているから、色と合わせて見ると他の者がその衣装を見れば誰の(王族)ものか一目瞭然にわかるってわけだ」
王家の紋章入りの民族衣装は青色。
つまり”これ”はディークファルトのものと公言しているのと等しいのだ。
「殿下方、積もる話もあるでしょうが、先に食事を済ませて下さいな」
新しい食事を運んできたカーラは最初の食事に誰も手をつけてないのを見て憤慨した。
「ごめんなさい、カーラ。私が質問してばかりだから」
「マリエル様は関係ございません。揃いも揃って姫様の可愛さにデレデレしてみっともない」
「「デレデレしているのはディーだけだ」」
心外とばかりに言う第一、第二王子にカーラは負けてなかった。
「お二人とも可愛い義妹ができて嬉しいのはわかりますが、鼻の下伸ばしすぎですよ」
そう言って新しい料理をテーブルに置くとカーラはそそくさと部屋を出て行った。
「私もか」
気付かなかったと王太子は自身の鼻の下を手で押さえた。
マリエルは先程カーラが持ってきた料理に首を傾げた。
デュリカーナでは見ない形態に戸惑った。
「ディー様、これはなんですか?」
「パスタがどうかしたか」
「パスタ。というのですか。こんな細くて長いものは初めて見ました」
「そういえばデュリカーナではペンネやマカロニのように短いものが主流だったね」
サイラスの言葉にマリエルは頷いた。
「はい。どうやって食べるものですか?」
マリエルがディークファルトを見上げる。
「見ていなさい」
フォークとスプーンを使って器用にパスタをクルクルと巻きつけた。
「なるほど!そうやって巻きつけて食べるのですね。」
ディークファルトはそのままマリエルの口に持って行き、開かれた口内にすっとフォークを入れた。
「どう?」
感想を聞かれて、もぐもぐと咀嚼後応えた。
「美味しいです!」
ペンネとは違う食感もそうだが、ピリリと辛味のある味付けも自国にはないものだった。
「カーラの得意料理なんだ」
「なら作法を覚えて食べれるようにならないといけませんね」
いざ!とフォークを持ったマリエルの横でニコニコ顔でパスタを巻きつけたフォークを突き出し「あーん」と言っているディークファルトにさすがの兄たちも口が塞がらなかった。
(!!あのディーが給餌を始めた)
と、遠い目をするサイラス。
(箍が外れすぎだ、ディー!)
ビックリ通り越してルーカスは頭髪が白くなるほどだ。
「ディー様、私練習もしたいし、そんなにモグッ」
「慣れるまではこうすればいい」
「モグモグ、ゴックン。それでは練習にモガッ」
マリエルの言い分を聞く気がないのか嬉しそうに給餌を続けるディークファルトにマリエルは困った。
マリエルのパスタは目の前のお皿に残っている。
今口に入っているものはすべてディークファルト分のものなのだ。
そんなに食べれそうにないし、どうしようかしら。
そう考えて、あっ!と何かに気が付き、マリエルも負けじと給餌した。
「ディー様、はいあーん」
マリエルからの給餌にディークファルトは嬉しそうに口を開けたが、入ったものが何か分かると先程まで幸せそうな表情から眉間にシワを寄せる微妙な表情をした。
「おい」
「言いたいことは分かりますが、大丈夫ですわよ」
「お前まだ人参苦手なのか?!」
そう、マリエルはディークファルトの意識を逸らすためにあえて人参を口に入れたのだ。
ただ苦手だから入れたのではない。
「ちゃんと食べてますわよ」
人参のテリーヌを口にするマリエルを見て、では何故?とディークファルトは片目を眇めた。
「こういうことは人がいない時にして下さい」
真っ赤になって言うマリエルに、兄二人は大きく頷いた。
マリエル姫がまともな感性の持ち主で良かったと、本気で思った兄二人であった。
それ故にディークファルトの浮かれ具合が目につく。
「何を言う!これは普通のことだぞ」
ええ〰〰〰〰!!どこ情報だよ!!
ルーカスは心の声で突っ込んだ。
マリエルは驚き義兄二人を見て、シンクロしたように首を横に振る姿に、どうやら文化の違いではなさそうだと安堵した。
では誰情報?
「ディー様、そもそもあーんを教えて頂いたのは誰からですか?」
「クリス兄上だ」
あいつか・・・・。
サイラスとルーカスは遠い目をして持っていたフォークをガチャリと皿の上に落とした。
「ディー、給餌行動は普通しない」
サイラスの言葉に本気で驚いた顔を向けるディークファルトにルーカスも頷いて見せた。
「では兄上達は義姉上達に給餌はされないのですか?」
「しないな」
「したことない」
二人の言葉にさすがのマリエルも驚いた。
「二人きりの時でもないのですか?」
「「ないな」」
改めて考えてもなく二人はそのまま答えると、マリエルは眉を下げた。
「お二人の時くらいはいいと思うのですが・・・。女性はそういうのを嬉しく思うものです」
マリエルの言い分に流石の兄二人は、冷や汗を流し始め義妹を見つめた。
「そういうものか?」
「はい。少し前に流行った恋愛小説にそういう一節があって、侍女たちもキャーキャー言っていましたから」
羨ましいと騒いでいた侍女達を顎に手を置いて思い出しているマリエルに兄達も思考を巡らせた。
「・・・そうか」
少し恥ずかしいが二人きりならできなくもないか?
帰ってしてみるか?
兄たちはここにはいない妻に思いを馳せた。
というか、末弟とマリエルに当てられ二人は、妻が恋しくなりマリエル姫の人となりはわかったし大丈夫。と早々に食事を終わらせると帰って行った。
入れ替わりにイーサンが入室してきたのを見たディークファルトは嫌そうに顔を歪めた。
「まあそう言わず、今後のマリエル姫の護衛と深夜の警護について少し話がしたいのですよ。ああ、マリエル姫はもう一度湯浴みに行かれてもよろしいですし、自室に戻られてもどちらでも構いませんよ」
「そうですか?ではお言葉に甘えて休ませて頂きますわ」
竜に乗っての移動に疲れた体には嬉しいお誘いだったマリエルは部屋の外にいるカーラと共に与えられた部屋へと向かって行った。
「ディー今後のマリエル姫の護衛はサックスに頼もうと思います」
「当分はそれでいいと思います」
「ええ、問題は・・・今夜からの警護です」
「必要ですか?」
元々ここは竜が出入りする場所で人は滅多には来ないところだ。
「王族となると話は別でしょう」
そう言われすぐ上の兄が浮かび、ハッとしてイーサンを見た。
「来ますか?」
「恐らく。ですがこちらも指を加えて見ているつもりもありません。トラップを仕掛けます。協力お願いできますね」
「もちろんです」
「竜騎士隊の者も張り切って参加してくれるそうで、マリエル姫の人徳の成せる技ですかね」
「そうでしょう」
ま、あなたの人徳でもあるのですがね。とイーサンは微笑んだ。
次話を明日投稿したかったのですが、申し訳ありません(汗)
体調不良で数日、投稿をお休みします。
出来るだけ早く帰って来ますのでしばらくお待ち下さい。
よろしくお願い致します。




