28、所変われば文化も違う
マリエルは竜御殿と言われる屋敷の中を案内された後、カーラに手伝ってもらいながら簡単に沐浴を行った。
竜達の激烈な出迎えで、唾液でベタベタしていたマリエルは大変ありがたかった。
竜御殿は王城の奥にある丘の手前に位置し、竜との交流がしやすい場所だが、昔ディークファルトに教えてもらった通り、王族が住むには確かに簡素な作りをした建物だった。
竜達から強奪されやすい煌びやかな装飾は一切ない灰色の壁の建物で市井の住民が住まう建物に外見は似ていた。
ただ中は地味でありながら、ディークファルトがここに居を構えた時に竜が気にならない程度の調度品を用意したのか比較的新しい家具類はそれなりに細工は細かくアンティーク感はあれど、そこは贅を凝らしているものもあった。
建物は構造上コの字型をしており、中央に建物入り口があり、一階は竜に必要な食べ物や必要な物が管理されていた。
住居は2階部分にあり、現在マリエルも2階中央にある浴室で沐浴を行っていた。
正面玄関向かって2階右手が東の間、左手が西の間と言われディークファルトが住んでいるのは東の間なのだそうだ。
西の間はいわゆる客間に近く応接室や家族団らんの場となるこじんまりとした食堂なども完備されていた。
王城育ちのマリエルだが、コンパクトな作りの竜御殿は肩肘張らなくていい落ち着く空間に、ここ いいなぁ。と、湯船に浸かりながらホッと息を吐いた。
ディークファルトがここに拘った理由を垣間見た気がして、フフッと笑みが溢れた。
その後、ディークファルトに用意してもらったオルリアの民族衣装に着替えていた。
体型を気にせず羽織る刺繍が多彩で美しい上着は膝まであり、細身のズボンの上にハーフブーツを履いた。
大変動きやすい衣装に歓喜したマリエルであったが、準備を手伝ったカーラと準備が整ったと聞きディークファルトと共に姫を迎えに行ったサックスは呆れ顔を竜殿下に向けた。
どう見てもこれは男性用の民族衣装なのだが・・・。
戸惑うカーラとサックスとは違いディークファルトはご満悦で頷いていた。
この民族衣装は、女性用のものはスレンダータイプのスカートで右側に太もも中ほどまで大きくスリットが入っているのが主流なのだ。
ドレスのようにふわりとしたものではないので、ディークファルトはめちゃくちゃ気になったのだ。
それにしてもだ!
なんで男性用なのだ!
美しい方なだけに勿体ない!
納得のいっていないカーラとサックスにマリエルは眉を下げた。
「似合ってませんか?」
「いえ、大変似合っておいでです」
美しいが故に何でも着こなすのか。
似合いすぎる姫に二人は微笑んだ。
女性用であるなら尚更と言おうとしたがディークファルトの言葉で遮られた。
「マリーは”これ”でいいんだ」
ディークファルトの言い分と二人の表情を鑑みて、マリエルは気がついた。
「・・・もしかしてこの衣装はイレギュラーですか?」
その言葉にディークファルトは頷いた。
「これは男性用の衣装だ」
「やっぱりそうなのですね」
ズボンを引っ張る仕草をするマリエルにディークファルトは逆に質問した。
「女性用がいいか?」
「ディー様はこちらの方がいいのですね」
「うん。女性用はタイトなスカートタイプでスリットが深く、太もも半分まで入っているからな」
「それでは足が見えてしまいます」
戸惑ったように言うマリエルにディークファルトは自国の流行を口にした。
「オルリアではそういった服が主流なんだよ」
「ドレスもですか?!」
驚き目を見張るマリエルにディークファルトは微笑んだ。
「淑女然と見せない人もいるから大丈夫だよ」
「文化の違いがこんなところにも出るものなのですね」
隣国なのに不思議っと笑うマリエルを見て、そこで初めてカーラとサックスは自分たちの方が思い違いをしていることに気がついた。
オルリアではともかく、女性が足を見せるのは他国ではタブーであることを思い出した。
そういえば王太子妃も他国から嫁がれて来たが、オルリア人の侍女が華がない(色気がない)とボヤいていたのをカーラは思い出した。
肌のさり気ない露出が当たり前のオルリア人(侍女達)には、王妃の趣味は物足りないと思うのだろう。
辛辣なまでに苦言を言っていた侍女頭を思い出し、カーラは顔色を悪くした。
そんなカーラの横でマリエルはクルリと一回転しながら笑顔で応えた。
「男性用ですが、私はこちらの方が動きやすいので好きですよ」
「マリーはオルリア人に比べると小柄だし体躯がはっきりしてるから急にはドレスが用意できなかったんだ」
はっきり・・・・出るところはしっかり出て減っこむところは減っこんでいる、ナイスバディのことを言っているのだろう。
マリエルはそっと胸元を押さえ隠した。
「こういうのはお嫌いですか?」
「いいや、マリーならどんな体型でも私は好ましいぞ」
「私は好きではないのです。小さくできる方法があれば試したいほどに」
無遠慮に見てくる男性達が必ず見てくるのが、まずそこであるとこにマリエルは憤慨すると共にコンプレックスにもなっていた。
「大きくする方法は聞いたことはあるが逆は・・・・」
困惑顔のディークファルトの前でマリエルは真顔でとんでもないことを言い始めた。
「布を巻こうかと思ったこともあるのですが」
「それはやめろ!」
「形が崩れるので駄目です!」
ディークファルトとカーラの必死の形相に、そこは万国共通なのだな。とマリエルは思った。
前に同じことを口走り、マーシーとジオンに止められたのだ。
「向こうでも止められたので、しませんよ」
そう言いながらマリエルは、ここで始めて二人のことを思い出した。
そういえば二人に何も言わずにオルリアに来てしまった。
特にマーシーは怒っているだろうなとマリエルは感傷に浸った。
聞く所に依ると元々ひと月後にはこちらに来る予定だったし、母のことだから10日以内には必要な荷と共に彼らも一緒にこちらに来るだろうと呑気に構えたマリエルだった。
「マリー、兄さん達が急遽歓迎の晩餐を開いてくれることになったんだ。ここでの簡単なものになるが一緒に食事しよう」
「まあ、ここで?素敵な提案で嬉しいです」
【国挙げての晩餐】とか言い出したら、支度がこの十倍もの大変な思いも時間もかかる。
簡素万歳!!とマリエルは婚約者の手を取って、足取り軽く食堂に向かったのだった。




