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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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28/30

27、帰還そして激烈なお出迎え


 その2時間後、ディークファルトは自国オルリアに帰還した。

 王城の裏手奥にデュリカーナ王城と似た丘が存在し、そこにボスを誘導しようとして、その手を止めた。


 かつて見ないほどの竜の群れが、丘の上に地上上空含めてひしめいていた。


 なんだこれは?!


「ディー様すごい竜の数ですね!さすが竜大国オルリアです!」

 興奮しているマリエルに、ディークファルトは違うと言葉にできなかった。

 こんなこと初めてだ。

 なんだこの竜の数は?!


 城内にいた王太子とルーカス、シュレイム兄弟はディークファルトの帰還報告を受け、竜御殿目指していたがすぐに異変に気づいた。

「なんだこれは!」


 空を埋め尽くすほどの竜の数に度肝を抜かれる。

 王太子や竜騎士隊の制服を着た隊長、副隊長が困惑している横で、イーサンが上空を見つめてポツリと呟いた。


「マリエル姫ですかね」

 上空を見据えたまま、言うイーサンに王太子は怪訝顔を向ける。

「マリエル姫がこれだけの竜を呼んだというのか?」

「マリエル姫見たさに、竜が勝手によって来てる。と言ったところでしょうかね」


「馬鹿な!」

 何せ竜に愛された姫ですからね。と言いながら、イーサンは周りを見渡し、少し離れたところで赤茶の竜が待機しているのが目に入った。


 ジッと竜の群れを見ている”参謀”にイーサンは走り寄ると、ディークファルト達の方へ飛ぶように指示する。

「イーサン!」


「この状態を維持するのは城下町に混乱を与えます。ディークファルトに言って竜達を引かせてもらいます」

 そういうと一気に竜の群れの中に突っ込んでいった。


 荒い運転でブワっと砂を巻き上げて行ったイーサンに、残された3人はゴホゴホ、ゲホゲホと咳をする。

「言ってくれれば私が行ったものを!」

 これだから慣れない者が運転するとこうなるのだ!と苦言を言うサックスの横で、ルーカスはまた出遅れたと恨みがましく上空を見つめていた。


 上空ではボスも困惑し下に降りられずにいた。

 その時、竜の群れの中イーサンの声が響いた。

「ディー!竜を引かせなさい!このままでは騒ぎを聞きつけた城下町が混乱を引き起こします!」


「悪さをしているわけではない竜に命令などできません」

 困惑顔のディークファルトにイーサンの声がさらに響く。


「この竜達は恐らくマリエル姫見たさにここに来ているものたちです」

 その声にマリエルが反応した。

「私をですか?」

 まあ、そうなの?と竜の群れを見回した。


「私に会いに来てくれたの?」

 竜たちに問いかけると、キュルキュル、キュッキュッと群れが鳴き始めた。

「まあ、そうなのね。嬉しいわ!でもこんなにたくさんここにいては人の迷惑になるのですって。また皆に会いに行くわ。だから今日は”上の子”たちだけ丘の上にきてくれるかしら。いい?」

 マリエルの問いかけに、大半の竜が頷く仕草の後、北西の方へと飛んで行った。


「「え(汗)」」

 ディークファルトとイーサンは呆然と竜の群れを見送った後、恐る恐るマリエルを見つめた。


 命令とは違う。

 人である姫のお願いを叶える為に竜達が聞き分けよく去って行った。

((竜に愛されているなんてものじゃないぞ、これは))


 慄くディークファルトとイーサンをよそにマリエルは、竜たちが去った後見慣れた赤茶の竜に乗ったイーサンに顔を向けた。

「イーサンね。久しぶりですね」


「こんなところから失礼致します。マリエル姫もお変わりなく安堵致しました」


「まあ、それはお転婆だって言いたいのかしら?」

「とんでもない。相変わらず可愛らしく又、竜に愛されていると実感し驚いたのですよ」

 ニコリと笑うイーサンの横で無表情のディークファルトが口を出す。


「イーサン下に降りていいか」

「ああ、そうでしたね。下で兄君たちもお待ちかねですよ」

「わかった」

 丘の上に降りていくディークファルトを見ながらイーサンは”参謀”をもといた竜御殿の近くに降ろした。


 そんな“参謀“は、イーサンが土地に降り立った瞬間、丘の上に飛んで行ってしまった。

「どうなってる?」

 困惑顔でイーサンに駆け寄る3人に苦笑いを向ける。


「愛されているなんてもので片付けるには恐れ多い方かもしれませんね」

「なんのことだ。今のはディーが引かせたんじゃないのか?」

「マリエル姫ですよ。たった一言お願いをしただけで、竜達が一斉に引いていきました」


 ?!!!!

「嘘だろう?」

困惑し声を出した王太子にイーサンは苦笑いした。

「それなら私もこんなに動揺してませんよ」


 何者なのだ、あの姫は。

 驚愕な表情で丘の上を見た4人は更に度肝を抜かれた。


 丘にボスを下ろすとディークファルトは籠からヒラリと出ると、マリエルを抱き寄せ籠から出しそのまま2人でスタッと大地に足をつけた。

 同時にボスを含む三頭の竜がマリエルを取り囲んだのだ。


 黄色の4m長のボス、赤茶色の4m級の参謀、真緑色の5m級の年老いた竜。

 すべて階級で言えば伯爵以上の力を持った竜たちだった。


 マリエルの”上の子達”発言でここに残った竜達だった。

「あなた達が上位の竜なのね。私はマリエルよ。よろしくね」


 4m級の大きな竜に囲まれたというのに怖気づく気配もなくマリエルがあいさつをすると皆キュルキュルと高い鳴き声を上げると三頭は律儀に黄色→赤茶→緑の順にベロ、ベロ、ベロリとマリエルを舐めた。

 足元から頭の先まで舐められたマリエルは流石に固まった。


 スカートはめくれ上がり、服は竜の唾液でベトベトである。

 ディークファルトは先程から機嫌がいい方ではなくなっていたのだが、思いっきり頭上に怒りマークが浮かび上がっている。


 これにいち早く気づいたボスは、そんなディークファルトに覚えがあり、そそくさと後退しディークファルトから距離を取っていた。

 そんなことを知らない二頭は更に距離を詰めようとしたが、ディークファルトと、どこからともなく飛んできた白銀の竜に阻まれた。


 ギュリリ、ギャッギュルルと低い声で威嚇してくる2m長の白銀の竜に、二頭の竜が一歩後ずさった。

 追い打ちをかけるように「お前ら誰の許可を得てマリーを舐めた」と、地獄の底から出されたようなディークファルトの声にボスも含めた三頭はハッとし汗をダラダラと流し始めた。


 マリエルを抱き寄せ、めくれたスカートを元に戻すとディークファルトはお姫様抱っこをした。

「俺の許可なく二度とマリーを舐めるな。わかったな」

 鋭い視線を向けられた三頭はコクコクと頷いた。


 丘の上を眺めていた皇太子達は驚きを隠せなかった。

「竜が舐めた・・・?」

 サックス以外の3人は魂が抜けたようになる。

 竜が舐める行為をする相手は自身より上位と認めた相手にだけだ。

 しかもあの三頭は白銀の竜を除けばこの竜社会のトップ3だ。その三頭に舐められた。


 ということは?

 気が遠くなる一方でこれほど竜に愛される存在も珍しい。

 やはり青竜から鱗を授かっただけのことはある。そう思うには十分な光景だった。


 しかもディークファルトは竜がマリエル姫を舐めたことに怒っているのがここからでもわかった。

 怒髪し逆立った髪の毛に静かに怒っている末弟に、さすがの王太子とルーカスもブルリと震えた。


 ディークファルトはマリエルを抱えたまま丘を下っていく。

 後ろでアリッサがまだ思うことがあるのか三頭に何か言っているようだ。

 ギュリギュリ詰め寄る白銀の竜に三頭が交互に鱗を舐めると、更にアリッサに怒られていた三頭だった。


「また舐められてしまいました」

「好かれるのも困りものだ」

「こうベタベタするようでなければ、私は構わないのですが・・・・」

「駄目だ」

 言われた意味がわからず首を傾げるマリエルに、ディークファルトは言葉を続けた。


「たとえ竜であっても私以外の者が舐めるのは許容し兼ねる」

「相手は竜ですよ」

 マリエルの言葉に足を止め覗き込む。


「竜でもだ。マリーはメスの竜が俺の服が乱れる程舐めても気にしないのか?」

 え?ディー様がメスの竜に・・・。

 服が乱れる程・・・・。

 舐め・・・。

 嫌ですわね。


「ごめんなさい。今度からはされないように防御します」

「そうしてくれ」

 歩を進め始めたディークファルトにマリエルは頬を染め「あ、あの降ろして下さい」とお願いするが、聞き入れず兄たちがいるところまで抱き抱えたまま歩いてしまう。


 宝物のように大事に抱き上げ丘を降りてくる二人に、兄達は目が離せなかった。

 末弟の美貌はいやでも知っているが、その弟と見劣りしない姫に一対ものを感じ呆けた。


 先程まで怒っていたディークファルトはなりを潜め穏やかな表情を姫に向けていた。

 ここまで来てようやく腕から降ろされたマリエルは羞恥心で真っ赤のまま、挨拶のため頭を下げた。


 目の前まで二人が来て初めて兄達はハッとした。


「初めましてマリエル・デュリカーナと申します。これより先、オルリア王国にお世話になります。よろしくお願い致します」

 マリエルが頭を下げたのを見て、呆けていた王太子は慌てて挨拶を返した。


「先に挨拶せず申し訳ない。私はこの国の王太子サイラス・オルリアだ。こっちは弟のルーカス・オルリア」

「ルーカス・オルリアです。竜騎士隊隊長を努めております。ようこそ、マリエル姫。オルリアはあなたを歓迎致します」


 ディークファルトの兄達に歓迎され、マリエルはホッと息を吐いた。

「ありがとうございます」


「イーサンとサックスの紹介はいいかな?」

「はい、お二人とも存じ上げておりますので大丈夫です」

 ほわりと笑うマリエルに毒気を抜かれた男性陣はホワホワと笑みを浮かべていた。


 そんな時御殿の中から恰幅のいい女性が飛び出してきた。

「まあまあまあ!殿下方こんな所で立ち話ですか!お客様をいつまで外に置いておくおつもりです!」


「カーラ」

 いいところに・・・と前置きを置いたディークファルトはマリエルの肩を抱いた。

「カーラ、マリエルだ。私の花嫁になる女性だ」

 一瞬目を見張ったカーラはすぐに頷いていた。


 目には涙を浮かべていた。

「よーございました。殿下」

「うん。ありがとう」

 感傷に浸る二人の横でマリエルは聞き覚えのある名前に首を傾げた。


「カーラ・・・ディー様の乳母の方ね!」

 ディークファルトの腕から抜け、カーラに近寄ったマリエルはカーラの手を握った。

 ディークファルトは未練がましく宙に浮いた手を見ていた。


「はい、カーラにございます」

「会えて嬉しいわ!ディー様が昔から信頼している乳母の方にはお会いしたかったの」


「まあ、殿下はどんな風に言われていたのか気が気でないですね」

 クスクス笑うマリエルにカーラも様相を崩した。


「カーラ、竜御殿の中を案内してくれるかしら」

「宜しゅうございますよ」

 竜御殿に入っていく女性陣を見つめている末弟に、ルーカスが苦言を呈す。


「ディー、カーラ相手に嫉妬してどうする」

「してません。ただ私が案内したかった」

 そう言って肩を落とした末弟に、目を見開くばかりだ。


 そんなに片時も離れたくないってか・・・・。

 遅すぎた初恋とは良く言ったもんだ。

 こじれた初恋だったか?

 考え込んだルーカスをよそに、ディークファルトは居ても立ってもいられず、踵を返した。


「やっぱり私も案内してきます」

 走って御殿に入って行くディークファルトの後を追ってサックスもついて行く。


 そんな二人の後ろ姿が見えなくなったころイーサンが顔を強張らせて口を開いた。

「まずいですね」

「何が?」

 末弟の豹変ぶりに苦言を言ったのかと怪訝顔の王太子達に、イーサンは違いますと首を振った。


「実は南領地の視察に行かれた三の殿下が先程帰って来たと報告を受けましてね」

 イーサンの言葉を聞き、殿下二人は顔色を悪くし従兄弟の顔を見るが、次の言葉はなかなか出てこなかった。


 先日の補正予算会議で引っかかるところがあると、次弟のクリストファーが南の辺境伯の領地に行っていたのだが。

 クリスが帰って来てる?


 そんな思考から一番早く浮上したのは、ルーカスだった

「まずいじゃねーか!」

 美しい女性に目がないクリスが、マリエル姫を見たら間違いなく口説くのが目に浮かぶ。


 だが、もしそうなったら・・・。

 ブルリと震えたのは、ルーカスだけではなかった。


「ええ、ディーのあの様子では半径1m以内に入っても激高しそうです。先程も私が姫に挨拶しただけで機嫌が悪くなりましたからね」

 どれだけ独占欲が強いのか。兄二人は呆れたが、事の深刻さを増したと緊張が走らせた。


 故に洒落でも冗談でもなく、手でも握ろうもんなら血の海になり兼ねない。

 それほどまでにディークファルトがマリエル姫を、目の中に入れても痛くないほどの執着ぶりを見せたのだ。


 王太子サイラスは目頭の凝りをほぐすように揉み込み指示を出す。

「竜御殿内の警備の強化を。深夜不審な影を見つけた場合、相手が誰であれ捕獲許可を出す。周知徹底を」


「竜騎士隊でその任務請け負いましょう」

 兄の言葉に表情を強張らせてルーカスが言えば王太子サイラスは頷いた。


「人選はお前に任せる。頼んだぞルーカス」

「了解です」

 それだけでは心許ないと従兄弟にも指示を出す。

「イーサン」


「ええ、こちらでも予防線を張っておきましょう」

「マリエル姫を怖がらせるわけいにはいかないからな」

 王太子が言えばイーサンは心得ていると頷いた。


「わかっています。想像していた以上に姫はこの国にとって重要な人物になりそうですからね。傷を付けさせるわけにはいきませんから」

 従兄弟の言葉に安堵すると共に、サイラスは逡巡後、嘆息した。


「今回ばかりは噂は大したことはなさそうだな」

 マリエル姫は竜に対して恐れる事はしない強靭な精神をしているが、狂う程おかしいところは見受けられなかった。


 故にそこを、()()()()気にして求婚を避けたクリスは間違いなくマリエル姫にロックオンするのは容易に想像がついた。


 大陸一の美姫。

 これ以上の存在はいないと言われているも同然の姫だ。

 今までと同じようにクリスの愚行を黙って見ている訳にはいかない。

 そんなことさせた日にはジル王から戦争を吹っ掛けられてもおかしくない。


 いや、その前にディークファルトがクリスの息の根を止めるか?

 どっちもアウトだ!


「竜狂いの姫ですか。確かに普通のお姫様にしては行動力はありますけど、無邪気で純粋な姫でしたね」

 ルーカスの言葉にサイラスは頷いた。


「純粋バイオとは本当のことだったらしいな」

 なあ、イーサンと顔を向けた王太子は不穏な笑みを浮かべているイーサンにピシリと固まる。


「あながち噂も嘘ではなかったのでは」

 イーサンの言葉に二人はえ?!と見据えた。

「マリエル姫は確かに竜を”狂わせた”。この人里近い王城に竜を体現させたんです。こんなこと黒の耳飾りを受け継いだ歴代の王でも存在し得ない。歴代一と言われるディーでさえあそこまで竜の関心は引いたことはないのです。もちろん良い意味での狂わせですから、表現の仕方は間違っていると思いますがね」

 イーサンの言葉に頷いたルーカス。


「どちらにしろ、姫は色んな意味で規格外ということですね」

「そうだな」

 ここでルーカスは部下に今夜の警護の相談をしに駐屯地に向かって行った。

 サイラスは竜御殿の中から聞こえるマリエルの声を聞きながら思いを馳せる。


「何事もなく済めばいいがな」

「万全は尽くしますよ。万が一のことが起きたらディークファルトの逆鱗どころか、ジル王から戦争を吹っかけられる可能性は大ですからね」

「ああ」

 重臣は理解している。

 先程の竜の状態を見て姫の価値の重大さを。

 青竜から親愛の証である鱗を持っていた乙女。


 姫は稀有な存在だ。

 だからこそ我々は国を上げて守らねばならない。


 大国デュリカーナから預かった大事な姫だ。

 なんとしても”これ”は手折る訳にはいかない。

 王太子と重臣は固く誓った。

 

 

 



明日もう1話UP予定です。




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