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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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26、全てを知る者


 ディークファルトとマリエルがオルリア国へ帰還する2時間程前。


 王太子サイラスの執務室にサックスの姿があった。

「任務ご苦労だったなサックス」

 執務室内には王太子サイラス、第二王子ルーカス、王太子重臣イーサンがいた。


「いえ、大変面白いものが見れて楽しかったですよ」

 サックスの言葉に一緒に竜の厩舎からこの執務室に来ていたルーカスは落胆した。

 俺も見たかったなあ、その面白いものを(泣)と。


「それで先駆けとして私が戻ったのは他でもありません。これより数時間後ディークファルト殿下及び花嫁が帰還されます。姫の受け入れの程をお願いしたく取り急ぎ戻った次第です」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 はて?花嫁?という表情の二人の殿下にサックスは再度口頭する。


「花嫁となられますマリエル姫もディークファルト殿下と共に竜に乗って帰還中です。受け入れの」

 ガタリ!と大きな音をたてて立ち上がった王太子の重厚な椅子が時間をおいてゴスッと倒れる音がしサックスの口上を遮った。


「こっちに向かって来ているのか!」

「マリエル姫ですか。はい、間違いなく」

「そうか!イーサン、カーラに連絡して竜御殿の客間でもいい。使える部屋を早急に整え、姫を受け入れる準備をするように伝えろ」

「御意」

 イーサンは執務室を静かに出て、ディークファルトの乳母であったカーラのいる奥御殿に向かった。


「本当に連れて帰って来やがった」

 あのディーが・・・。

 と白目を剥いているルーカスにサックスは笑みを向ける。

「大変思い切りの良い活発なお姫様です。あのディーがオロオロするほどに」


 サックスの言葉に王太子は疑問を投げかける。

「ディーはこの結婚には乗り気なのか?」

 女性嫌いのディーがすんなりマリエル姫を受け入れたのか長兄は気になっていた。


「初恋こじらせた男は情けないですね。怖気づいて一度は逃げようとしてましたけど、周りがそれを許さなかった」

 二人の兄はキョトンとした。


「周り?」

「私含め竜騎士隊員全員とデュリカーナ王家の王太子アラン様と王妃様です」

「向こうは家族だからわかるがお前らまで?」


「あんなディーは初めて見ました。本心で向き合える、素の自分を出せる、かけがえのない存在と出会えたのだと。確信できるだけのものをこの目で見ましたから」

 サックスはロイヤル二人を思い出し嬉しそうに微笑んだ。

「女性で苦労していたのを知っているからこそ、彼の初恋を応援したかったのですよ。ディーが思ったよりヘタレ過ぎて途中もう駄目かと思いましたが」


 応援したい気持ちはわかるが、女性嫌いのディーにエスコート的なことを求めても酷なのでは?

「そうはいってもいきなり女性として扱えとかあのディーができるわけ」

 ルーカスの言葉にサックスはげんなり顔を向け、言葉を遮った。


「女性扱いどうこうの問題は皆無です」

 え?見開くルーカスにサックスは言い放った。

「すぐ抱き寄せるし、頭は撫でるし、お姫様抱っこはデフォルトだし、知らなかったら砂吐き放題ですよ」


 げんなり顔の従兄弟を見て、ディークファルトの兄達は呆けた。

「「・・・・」」

 ディーでなくとも、デフォルトがおかしくないか?


「ボスがマリエル姫の頬を舐めた日には激高しましたからね。竜殿下が竜と空の上で取っ組み合いですよ」

 !!!!

 想像以上の出来事に兄二人は言葉が出なかった。

 

 そこまで姫を好いているのに、じゃぁなんであいつ逃げようとしたんだ?長兄と次兄は顔を見合せ首を傾げた。

 

 

         ◆

 


「とうとう行っちゃったね〜」

 デュリカーナの王の執務室に寂しそうな声が響く。


「どういうつもりだ二人とも。あの子をあの地に行かせないためにここ数年、聖地から引き離しにかかっていたのは他でもない君達だったはずだろう。それなのに、今回はやけに周到に準備にしてあの子をあそこに行かせたな」

 王であるジルフェスタは執務机の前に佇む二人に怒りをぶつけた。


 そこにいたのは妻アンジェリカと王太子アランだった。


「んー、だってどう足掻いても運命はあの子を聖地に行かせたがった。あの子が望んだことでもあったけれど、どうせ行かせるなら最高の場所を用意してあげたかったのですよ」

 アランが言えばジルフェスタは憤慨した。


「お前の気持ちはどうでもいい」

 息子の言葉には、けんもほろろに突き放すと王は妻に視線を向けた。


「君はどうなんだ。昔邪竜との決戦を自ら望みここまで来ておきながら、娘にその余波が及ぶと知るや否や、ここから遠い一番被害がない場所へやり、守ろうとしていたではないか。今回わざわざあちらに状況を知らせたと言うことは、腹を括ったと見ていいのか。どうなんだアン!」


 机をバン!と両手で叩き威嚇する夫に、アンジェリカは冷たい視線を向けた。

「怒鳴らなくても聞こえていますよ、ジル。けれどあなたはその遠い場所へ行かせることを否と捉えていたから邪魔をしたのでしょう。ならばなぜ今回激怒しているのです?」


 しれっと言う妻に、夫は苦虫を潰したような顔になった。

「いずれは彼の地にとは思っていたが、このタイミングではなかった!」

 怒りで真っ赤な顔になった夫に、アンジェリカはため息を付くと明後日の方向に向いた。代わりに口を開いたのはアランだった。


「あなたの場合、なんだかんだと理由をつけてあの子をここに縛りつけるだろうと見越してのことですよ」

「アラン!それのどこがいけないんだ!」

 認めるんかい。とアランは呆れ顔を向けた。


「どうせ行かせるなら早いほうがいいでしょう。どうしたって竜の情報は彼の国に集中して届きます。我々はその情報を元に邪竜に打って出ます」

 アランの言葉にジルフェスタは怪訝顔になった。


「・・・・は?どう言う意味だ」

(よう)は・・・・あの子には、あの子の()()を知らせていないと言うことです」

 その言葉にジルフェスタは慄いた。

「ちょっと待て。じゃあ何か。あの子は自分が正当な巫女であると知らずに彼の地に行ったのか!?」


 それまで黙っていたアンジェリカが静かに言葉を吐いた。

「あえて告げなかったのですよ」

 妻に信じられないと首を何度も振りながら、問うた。

「なぜだ?」


「・・・・猶予は一年あります。その間にケリがつけれるなら私が出るつもりです」

 目を見開き更に問うた。

「・・・・どこに?」

「どこって彼の地に「君が?」」

 被せ気味に言われ「何か問題があって?」と言えば大絶叫が待っていた。


「許されると思っているのか!?私は絶対に!「では、あの子を犠牲にするのですか?」

 妻の言葉にジルフェスタはこれまで感じたことのない恐怖を覚え震えたがアンジェリカは言葉を続けた。


「私が出なければ、あの子が運命に翻弄(ほんろう)され邪竜と対峙することになります。ガーディッシュがジュリアスと出会った以上運命の歯車はすでに動いています。決戦の火蓋は一年後必ず切られるでしょう。その時までに竜を掌握する必要は出てきます。それなら私が」

 決意表明している妻の言葉を遮り、ジルフェスタは突っ込んだ。


「待て待て待て!それは君が黒竜と対峙するということだろう!どこにいるかも分からない黒竜をどうやって探すと言うのだ!」

「・・・・知っていますよ」

 ケロッと白状する妻にジルフェスタは眉間にシワを寄せて呟いた。


「・・・・・何?」

「ガーディッシュが今どこにいて、ジュリアスをどこで守っているのか」

 その言葉を聞いたアランの方が反応した。


「・・・・母上は、あそこまで行かれるおつもりですか?」

「そういえばあなたは騎士と視覚が共有されていたわね」

「視覚だけではなく記憶もです」

 母と息子は視線を交わし、少しの間沈黙が流れたがその均衡を破ったのはアランだった。


「すでにたくさんの歪みが生じています。母上の神への反逆然り、正当な巫女から授かった私の能力とその存在意義は、後の決戦には必要不可欠なものとなるでしょう。ですが私個人としてもあの子には、全て知られる前に決着をつけたい」

 アランの言葉に今度はジルフェスタが頭を抱えて呟いた。


「黒竜があの子に会いに行ったらどうするのだ。それでなくとも巫女があの地に足を踏み入れることを何より嫌がったのは黒竜なのだろう?」

「だからですわよ。正当な巫女が戻って来たとわかれば、あの馬鹿は必ず動く。そこで息の根を詰めてやるわ」

 アンジェリカの言葉にアランは半眼で母を見た。


「・・・・彼も彼で、運命に翻弄された者です。手加減はいるのでは?」

「する必要がありますか?出来もしない約束をし我々一族を縛りつけた張本人がのうのうと幸せを享受(きょうじゅ)するなどあってはなりません。その対価は必ず支払わせます。そのために私もアマリアも最果ての地から聖地に最も近い場所まで来たのです。避けて通れないなら打って出ます」


 それに譲歩はしています。息の根を()()()のではなく、私は()()()と言ったのです。と言い放った母に、アランはやれやれと額に手を置いて俯いた。


「私は許可しな「あなたの意見は求めていません」」

 ジルフェスタの言葉は想定済みだったアンジェリカは即座に反論した。


「アン!」

「ジル。三十年前あなたは私の意思を尊重してくれたはずです。アマリアがあんなことになって今ではユーグは使い物になりません。我々でどうにかするしかないのです」

「私とて、君の意思を尊重し・・・たかった。だが、まさか自分の娘がその舞台で踊らされるなど思っても見なかったのだ。知っていたら私は!」


「今更、もうどうにもなりませんのよ。デュエンケル一族の血を濃く受け継いだあの子は歴代の巫女の中でも最強の能力を持って生まれてしまった。その余波をアランも享受され本来巫女の騎士の忠誠を、巫女と間違がわれたとはいえ受けたことでその視覚と記憶を共有してしまった。知らなくていいとこも悪いこともこの子には刻まれてしまった」

 この子と言われ指さされたアランは肩をすくめてみせた。


「私は楽しいですけれどね。太古の巫女達を守っていた騎士達のそれぞれの記憶を垣間見て、母上がなぜそこまで神と崇められていた黒竜に嫌悪感を示し国を抜け出してまで行動を起こしたのか。理解するには十分だったし、これだけの条件が揃っていなければ邪竜との決戦の機会には恵まれなかったでしょう」


 息子アランの言葉にアンジェリカは視線をずらし、暫し物思いにふけるが、口から疑問を呟いた。

「それになによりアマリアの息子である彼は私と同じ体質なのも気になっているのよ。今回じっくり会って見て不思議な感覚がしたわ。彼の存在があの子の鍵となりうるのは間違いないでしょう」


 そんな母の言葉を聞いてアランは、微笑んだ。

「全てが全能神の思惑の上で成り立っているなら、我々の存在も、決戦に必要な王竜、巫女、騎士、黒竜。それら全てが一堂に介した時、初めて全能神の願いが成就される」

「その全能神の力も相当削がれて今では声を届けることも出来ていないようだけれど、だからこそ我々が遣わされたとも取れる」


 アンジェリカが深刻な表情をし、拳を強く握りながら更に言葉にする。

「本来は存在しないはずの巫女の記憶を継承した者の誕生により、かつてないほどの歪みが生じそれをさらに歪みを力技で広げた以上、その責任は負わねばなりません」


 そこまで言い放ったアンジェリカは自身の夫に視線を向け、今にも泣き出しそうな笑みを向けた。

「その当事者の私が傍観(ぼうかん)するわけには行かないのですよ」

 妻の言葉に二の句が告げれず見つめることしか出来ないジルフェスタにアランが母を擁護する。


「父上もそれに加担した以上、譲歩は必要なのでは?」

「お前達は言いたい放題しているが!それが本当なら神は無慈悲だな!」

 苦しい表情を浮かべたジルフェスタに窓辺に立ち、外を見ながらアンジェリカは言った。


「言ったはずです、全能神は3000年前に邪竜を取り逃した時点で大部分の力を削がれてしまった。今でも万能ではない以上、そこに縋り付くのは自殺行為です」

「黒竜に会うことがどれほど危険か君は知っているのか!?」

 窓辺に立つ妻に詰め寄り、心配のあまりその肩に手を置くが、冷静な言葉が返って来た。

「それは資格を持たぬものが近づいた場合です。その点私は・・・・黒竜の天敵と成り得るのではないかしら」

 

「一つ聞きたい」

「なんです?」

「黒竜は君を見ても欲しないと言い切れるのか?」

「人と竜は相入れることはありません。全能神の下、その志を共にすることはあっても想い合うことは皆無です」

 アンジェリカの言葉にジルフェスタは更に顔を歪めた。


「だが、3000年前邪竜は巫女に懸想し全能神の怒りを買った」

 ジルフェスタの言葉にアンジェリカは頷き応えた。

「そのせいで黒竜はその半身を失い、頭を一つ失くしている」

「知っている。だからこそ懸念があるのだ。一度人に恋した黒竜がもう一度人を欲する可能性はゼロではないと言うことだろう」


 ジルフェスタの言い分にアンジェリカは、なぜ?と手でジェスチャーした。

「ならばそれはそれで最悪のシナリオは遠ざかることになるので良いことなのでは?」

「どこがだ!そうなったら私は黒竜と戦わなくてはならないのだぞ!」

「あなたがそれを恐れていないことも、本気で言っていることも分かった上で言いますが、ガーディッシュは人を好みません」


「言い切れる根拠は?」

「ジュリアスを連れて行き、囲ったことが答えですよ」

 そう言ったアンジェリカの代わりにアランは笑って言った。

「竜は生涯の番は一頭だけです。ガーディッシュが囲ったならジュリアスは彼と夫婦になっているはずです」


 その言葉にジルフェスタは怪訝顔になった。

「・・・・黒竜も王竜も(おす)だろう」

「・・・本来、竜に雄雌の概念はないのですよ。そのどちらでもないのが竜です。人が勝手に性別を決めつけているだけで・・・ね」

 アンジェリカの言葉に更に混乱したジルフェスタは首を傾げた。


「では竜はどうやって子孫を残すのだ。実際竜は子を産んで繁殖しているはずだろう」

「番った相手を竜が離さないのは、その身に子孫を宿すため。人とは違い竜は自分の能力を思念に変えて、番に向けて何年もその身を寄せ合い当て続けることで子が宿ると言われている。だから彼らは個体数が人よりも少ないのよ。つまり番とは自分の波長に同調できる相手ということなのよ」

 

 意味が分からないと首を振るジルフェスタにアンジェリカは再度外に視線を向け、物思いにふけた。


 竜は子供が生まれるまでに十年を要する。つまり王竜が生まれるまで後一年。神の予言通りなら()()()()()したその瞬間邪竜との決戦は開始される。


 自分の半身を守る為に、今まで王竜が生まれないように画策していた黒竜がこのタイミングでジュリアスを連れて行き戻さなかった。自ら墓穴を掘ったことに自分でも気付いているだろう。


 だからこそ、あいつは怒りの矛先を探している。


 その上でアンジェリカは長年思い続けた私怨を黒竜ただ1体に向けた。


 私の娘に何かしようものなら、ただではおかないから。覚悟なさい。


 黒竜ガーディッシュ!!

 

 


今回全てを知る者ということで、ヒロインの知らない所で暗躍され、物語が進んでいますが、一旦ここでデュリカーナ編が終わり、次からオルリア編突入です。

ヒロインの真の能力が垣間見えるお話となります。

黒竜はもう少し先で出てくるので、それまでヒロインとヒーローの日常、溺愛風景をお楽しみ下さい。


次回は10日後、1月4日からまた一話ずつUP予定です。

よろしくお願い致します。



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