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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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26/30

25、 束の間の空の旅




今回一応R15指定にします。

よろしくお願い致します(汗)



 

 「ディー様、ここからオルリアまではどれくらいで着きますの?」

 

「5時間くらいだな」

「まあ、ではボス。向こうに着くまでよろしくね」

 マリエルの言葉にボスはギュルルンと嬉しそうに鳴った。

 

 ディークファルトは初心者用の蔵についている籠の後方部分を背にし、曲げた両膝で体を支えるとぐったりと空に顔を向けていた。


 初めて好きになった女に怖気づき、一月後までに心の準備も含めて自分の思いを見直し、出直そうと思っていた矢先にマリエルの方から飛び込んできたのである。

 ちらりとマリエルに目を向ければボスにまだ話しかけている。

 何事もなかったように・・・。


 何でこうなった?

 ディークファルトは心の中で頭を抱えた。

 

「ディー」

 別の軍竜に乗っている後方にいたサックスが声をかけてきた。視線だけそちらに向ければにこやかに話しかけられる。


「これより先駆けとしてオルリア城に俺は帰還する。サイラス殿下にマリエル姫の受け入れもお伝えしなければいけないからね」

「そうだな」

「他の騎士隊員は配置済みだから問題ないと思うけど十分注意してくれよ」


「わかった」

 ボスと話をしていたマリエルは向きを変えサックスを見据えた。

「サックスよろしくお願いします。道中一人ですからお気をつけて」

「勿体ないお言葉。感謝致します」

 では。と一礼して赤茶の竜を乗りこなしサックスは猛スピードで飛び去っていった。

 

「早い・・・」

「”参謀”はボスの次に早い竜だからな」

「ボスあなたあの子より優秀なのね。すごいわ!」

 そう言うとボスはギュルギュルと言いながら大きな体躯をクネクネさせていた。

 竜でも照れるのか。

 この時初めて知ったディークファルトだった。

 

「ん?参謀???」

 竜に大層なネーミングが付いているマリエルが驚いているとディークファルトは上の空で呟いた。

「あの赤茶の竜を皆そう呼んでいる。ボスは猪突猛進形で、考えることが苦手なようでな。あの赤茶の竜はNO.2でまとめ役のような賢い竜でもある」


 ここまで大人しかったボスがディークファルトの言葉に憤慨したのか鼻息を荒くし背の籠を揺すり始めた。

「キャー!!」

 普通に立っていたマリエルはそのまま大空に振り落とされそうになり、体が空を切った。


「マリー!」

 すかさずディークファルトがその手を掴み抱き寄せた。

 ガタガタと未だ揺らすボスに、下手したら酔うわ!とディークファルトは内心毒づいた。


 マリエルの頭が籠にぶつけないように抱え込み落とされないように二人座り込んだ。

「やめろボス!悪かった!お前も優秀な竜だ!NO.1はお前だ!!」

 そこまで言うとボスは何事もなかったように揺さぶりをやめた。

 心臓に悪い。

 

 安堵からマリエルの頭を撫でていたディークファルトは腕の中で真っ赤になっているマリエルに目が点になる。

「マリー?」


「あ、あのディー様。オルリアに着くまでに聞いてほしいことがあるのですがよろしいですか?」

 真っ赤なまま視線を合わせたくないのか俯いたまま、ディークファルトの胸元の服を握り締め必死に言うマリエルに、オルリア行きを急かした理由か。とディークファルトは億察した。

 そのまま頭を撫でながら「いいぞ」と応えた。

 

 マリエルはどう切り出そうと考えているのか、視線を彷徨わせている。

「マリー」

「グッ・・・・はい」

 マリエルの絞り出すような返事に、怖気づいた己の感情が何処かへ行ってしまった。

 この状況に期待していいのかも、と淡い思いが出て来たのだ。


「俺はお前に『マリーとなら結婚してもいい』と言ったのを忘れたのか?」

「お、覚えてます」

「その上で今お前がここにいるということは返事と受け取っていいのか?」

 頭を撫でていた手をサワサワと首筋に這わしたディークファルトだったが、マリエルはビクンと体を震わせた。

 

 受け入れられたわけではないのか?

 彼女から手を引き様子を伺うディークファルトにマリエルはボソリと呟いた。

 

「向き合いたいのです」

 

 それまで顔を隠すように下を向いていたマリエルはディークファルトの服を握りしめていた手を開き、その躰を離した。


 ジッとディークファルトを見つめた後、眉を下げ自信なさげな顔つきになった。

「ディー様は私がお見合いをしても失敗続きだったのをご存知ですか?」

「うん、聞いた」

 デュリカーナの書状にも書いてあった。そう告げればマリエルは力なく笑った。


「お見合いは自分で壊したのです」

「なんでそんなことをした?」

 いやそのおかげで自分と再会できたわけで、驚くと言うより単純にその行動の理由が聞きたかった。

 

「10歳を過ぎた頃から異性の方の視線をよく感じるようになって、最初は疑問にも思わなかったのですが、13歳になった頃にデュリカーナに他国から来た使者に連れ去られそうになって、何かがおかしいと感じ始めたのです」

「連れ去られそうになった?!」


「はい、たまたま騎士団として場内を警護していたジオンに助けられたので、怪我もなかったのですが・・・・」

 ジオンとはその一件が縁でそれ以後、護衛をしてもらってます。とマリエルは言った。

 

 連れ去りが公になっていないってことは極秘に処理されたんだろうが、ジル王もアランも黙ってないことは容易に想像がつく。

 そういえば4年ほど前に地図から消えた国があったな。と、ふと脳裏をかすめたが、気づかないふりをした。

 そこ考えると怖い。

 

「それからデュリカーナは国を上げて私を任せられる殿方を見つけて婚約者を作ろうと躍起になり始めたのです。お母様はそれが私を守ることに繋がるのだと言って」

 アンジェリカ王妃は庇護者を作ってデュリカーナと2国でマリエルの盾としようとしたのか。


「ですが私はその相手の方々が好きになれないというか、その心が透けて見えて嫌だったのです」

「例えば?」

「普通13歳くらいの女性が結婚ということになった場合、生活ってどうなります?」

 質問を質問で返した?!

 でも必要なことなんだろうな。

 

 13歳っていったらまだ子供だろう。

「心と身体の成長が伴うまでは、様子見かな。せめて社交界デビューする16歳までは」

「そういう方が一人でもいたら私も頑なにはならなかったと思いますが、ほとんどの方がすぐにでも国の繁栄のために子を作りましょうと力説されたのです」


 なんだと。ディークファルトは顔を強張らせ、そう言った輩が何奴なのか。首を絞め◯したくなり本気で知りたくなった。


「私が13歳だと言っても、問題ないの一点張りで」

 子を成せる身体はできていても、心が・・・。

 マリエルの言っていることはそういうことか。

 

「最初の頃は私の思いを理解してほしくて常に思いを口にしていたのですが、どなたも聞き入れることはありませんでした。そんな時にジオンに嫌な相手を撃退するにはどうしたらいい?と聞いたら『竜談義、始めたら一発で引く』って言われて実行したのがお見合いを潰すきっかけでした」

 苦笑いするマリエルをディークファルトは黙って見守った。


「『竜狂い』と言われていることに感謝したのはその時からです。竜を全面に出せばほとんどの方が辞退して行きました。お母様やお兄様の気持ちはありがたいのですが、相手の方たちの気持ちに応えるだけの精神や思いは私にはありませんでした。外見に囚われず私自身を見て、合わせてくれる方が一人でもいたなら少しは違ったかもしれませんが、そういった方はいなかった。心が成長するまでもう少しだけ待ってほしくても、結婚適齢期が邪魔をして年々お見合いの頻度は増していくし精神的に追い詰められて行きました。それが嫌で私は見合いをする度に男性が嫌いになっていったのです」


 ディークファルトは()()に気が付き、ハッとしてマリエルを見た。

 思いの大きさやスピードは人それぞれだが、相手が己の思いばかり押し付け、マリエルを思いやり合わせることをしない自己中心的な輩達。

「感情の置き去りか」

 

 驚きの表情を向けたマリエルの頭を、ディークファルトは優しくそっと撫でた。

「そこに自分の思いや意志がないのに相手から押し付けられた感情に、戸惑いついて行けず困ったんだな」

 その言葉にマリエルは目を見開いた。


「感情を押し付けられて困ったよな。何故自分の思いをわかってくれないのか。そこに自分の意思は無視なのかと憤りを感じたよな。心を無視されて悲しかったよな。激情をぶつけれて怖かったよな」 

 ディークファルト自身の経験から自分の思いを口にした。


 恐らくマリエルが感じた感情と同じだと思ったからだ。

 ボロボロと泣き始めたマリエルの肩を抱き胸の中に収めた。

 頭を抱き抱え落ち着かせようと何度も撫でた。

 

 マリーは俺と似てるんだ。

 幾度と他者から押し付けられた感情。

 迷惑以外の何者でもなかった愚行の数々。


 恐怖、嫌悪、絶望といった負の感情を己が経験する度に人として欠落しているのかと落ち込んだりもした。

 男性であるディークファルトでさえ貞操の危機は一度や二度ではない。


 ましてや女性のマリエルは侍女のマーシーや護衛のジオンがいたとしても、相手の邪な思いをぶつけられて怖いなんてものではなかっただろう。

 よく無事だったなとホッとして、マリエルが落ち着くまでそのままの体制でジッとしていた。


 スン、スンと鼻を啜るマリエルが身じろぎしたので胸元を見つめると、頬を染めた状態で見つめ返された。

「ディー様だけだったのです。素の私を好むと仰ってくださったのは」


 見ための妖艶な体躯に惹かれて、こんなに可愛いマリーを知ろうとしないとはそいつらの神経が知れるな。

 そっと頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。

「嬉しかったのです。昔みたいに接してもらえたのが」

「それは俺も一緒だな」

 え、と顔を上げたマリエルにディークファルトは懺悔するように自身の思いを話始めた。

 

「俺の精神は正直10年前と変わっていない。基本女は嫌いなんだ。心と精神のバランスが年齢の割にズレている状態で、中身(男の部分)は正直成熟しているとは言い難い。要はまだ青い、未熟なのだ。なのにガンガン来られると無理だと条件反射でバリアを張ってしまうのは今も昔も変わらない。だから前と変わらないマリエルの態度に俺は正直助かったんだ」


 ディークファルトに静かに見つめられ、マリエルは「ではお互い一緒ですね」と笑った。

 

 ディークファルトはマリエルの頬にある涙の後を手の甲でスッと撫でた。

「同じものを感じたからなのか、こうやって触れたい、抱きしめたいと思った女はマリーが初めてなんだ」


「私もディー様に触れられても嫌とは思わないです。でもこんなこと初めてでどうしたら良いか、わからないのも事実で」

 恥ずかしそうに俯くマリエルに、先程までの自分と同じか。と納得した。

 

 意識した相手にこの先どうしたらいいのか、怖気づき自分を見直そうとした俺と一緒。

 ただ俺は一時とはいえ、逃げようとしたがマリエルは向き合おうとしてくれたから、今ここにいるのか。


 だから、先程の『向き合いたいのです』と言う言葉に繋がるのかと納得した。

 

 そして、フッと笑いが込み上げてきた。

 相変わらずこいつは強いな。

 急に笑い始めたディークファルトにマリエルはどうしたのだろうと首を傾げた。


「マリーはこれからどうしたい」

 ディークファルトは愛おしさを隠しきれずにマリエルの頬に触れた。

 

「どうしていいのかは分かりませんが、ディー様とは離れたくないです」

「だから一緒に着いてきたのか」

 一ヶ月後まで待てなかったのか。と聞けば、何の話ですかと首を傾げられた。


「俺とお前の婚約を前提として一ヶ月後にはオルリア行きが決まっていたぞ」

 そこまで言うとマリエルは驚愕な表情になって、フラリと後ろに倒れるように力が抜けた。

「マリー!」


 倒れかかったマリエルの体を支えれば「騙された」ぼそりと呟いたマリエルから事の顛末を聞き、笑いが込み上げる。

「笑い事ではありません!ディー様」

 必死だったのに!と怒るマリエルも可愛い。


「そのおかげで今俺の腕の中にマリーがいるんだろう。有り難い話だと思ってな」

 にこやかに言うディークファルトが本当に嬉しそうでマリエルは思わず聞いてしまった。

 

「嬉しいですか?」

 恥ずかしそうに言うマリエルに「もちろん」と頷いた。

「お互い戸惑う事もあるだろうが、少しずつ一緒に成長していこうか」

「はい」

 青いもの同士、本物の恋人になれるように。

 そっと両手同士を握り見つめ合った。


「それは友達としてか?婚約者として?」

 ディークファルトは真っ赤になったマリエルに「俺は結婚前提でって前に言ったぞ」と促した。

 すると恥じらいながらマリエルは呟いた。

「こ、婚約者でお願いします」


 ディークファルトは嬉しくなり額と額をくっつけて、お互い目と目を合わせて笑い合った。

「好きだよ、マリー」

「お、お慕いしております、ディー様」

 マリエルの頬を包み込むように持ち上げると、ディークファルトはそのまま目蓋、頬、鼻とキスをしていった。


 唇に手を添え、ここにもするぞ、と意思表示すればマリエルは頬を染めた。

「あ、あのディー様、お手柔らかにお願いします」

 焦った声がし、ディークファルトはクスリと笑った。

「心配するな。こんなことするのは俺も初めてだ」


 そう言われてチュっとキスをされ、マリエルは狼狽する。

(本当に!?)

 チュッ、チュッっと柔らかくキスされ焦った。


(馴れてるんじゃないかっていうくらい滑らかにキスされてますよね!今度は舌で唇舐められた!!)

 グルグルと唇を舐められ少し開いたスキを見つけニュルリと舌を口内に侵入されビクリと身体を揺らしたマリエルはパニックになった。


 困る!困るの!気持ち良くて自分の身体じゃないみたいに熱くなってどうしていいかわからなくなるから、お手柔らかにって言ったのに!!

 気づけばマリエルはカゴの床に横になっていた。

 ディークファルトに押し倒された状態で大分パニクっていた。


 だがディークファルトもマリエルの心理状態はわかっているようで、それ以上のことはしなかった。

 至近距離でマリエルを見つめるディークファルトの表情は情欲的で惹きつけられる。

 艶っぽい笑みを向けられマリエルは自然と目が潤む。

 もう一度唇が重なろうとした時、カゴが思いっきり揺らいだ。

 

 驚いたディークファルトが顔を上げカゴの外に目を向ければ、ボスの横にアリッサがいた。

 遊ぶようにボスの尻尾がアリッサにブンブンと振っていると、アリッサからギリギリと不可解な音をたてて喉を鳴らしたのを聞いたディークファルトは真っ青な顔になった。


 マリエルの上から身体を起こし、ボスに声をかける。

「ボスやめろ!アリッサは遊ぶつもりでお前に詰め寄っているわけじゃな」

 静止させる声を発している最中に、アリッサはボスに思いっきり体当たりしてきた。

 

「アリッサ!」

 グラリと傾くボスの体躯に乗っているディークファルトとマリエルはたまったものではない。

 カゴに着いているベルトをマリエルの腰に巻きつけ、ひっくり返ってもマリエルだけでも落下しないように安全装置を取り付ける。


 その間も何度も体当たりを繰り返すアリッサにディークファルトは困惑するが、ギュルギュルと鳴いたアリッサに肩を落とした。

「アリッサ、仕方ないんだ。マリーはまだ竜を乗りこなす事ができないし、長時間強風の中で耐えられる体力もない。この間の散歩のようにお前に乗ることができないんだ」


 納得がいかないのか体当たりを辞めないアリッサに、マリエルはディークファルトに顔を向けた。

「ディー様アリッサはどうしたのです?」

「マリーが自分の背ではなくボスの背に乗っているのが気に入らないらしい」

 眉を下げて言うディークファルトに、マリエルもシュンとなる。


「まあ、どうしましょう。アリッサ!」

 そう呼んでやるとキュルルル〜と寂しそうな声で鳴かれた。

「ごめんなさい、アリッサ。早く一人で乗れるようにオルリアに行ったら練習するわ。だから今日はボスに乗ることを許して」

 ギュルルル〜と低い鳴き声を出したアリッサの目は潤んでいた。


 マリエルと目を合わせた後、プイッと顔を背けると、サックスが飛んでいった方へ飛んで行く。

「どうしましょう。可哀想なことをしました」

 アリッサの背中を見送るマリエルの肩に手を置きディークファルトは嘆息する。


「いや、あいつも少しは我慢することを覚えた方がいい。まだ子供のあいつは皆に甘やかされて少し我儘だからな」

「子供?あれから10年経ってますけど、アリッサはまだ子供なのですか?」


「あいつが生まれてまだ12年だ。人間でいえばまだ幼児くらいだろう」

「そんな幼子なの、アリッサって」

 ビックリである。

 

 お互いの胸懐をあかし、心の距離が近づいた二人はその後デュリカーナの町並みを空から堪能した。

 数時間後国境を超えオルリアに入国。


 2国間の町並みの違いを話し合いながら穏やかな時間を過ごした。

 少し離れた場所から見守っていた竜騎士隊の隊員は、二人の仲睦まじい姿に生暖かい視線を向けていた。






明日もう1話UP予定です。



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