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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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25/30

24、急展開


 昼過ぎディークファルトは王の謁見が済み、そのまま自国へ帰還するため北東の丘を目指すため城内を歩いていた。

 

「ディー」

 途中サックスに声をかけられディークファルトは足を止めた。

 

「王との話は済んだのか」

「ああ、これから帰ることを伝えてきた。このままアリッサに乗って帰還する」

 

「・・・部屋にあった荷物も、もうすぐ積み終わる」

「手間をかけさせて悪いな」

 二人は外に向かう為、歩を踏み出すが二人の表情は固かった。

 

「そんなことは大したことじゃない。だがいいのか?」

「いいとは?」

「マリエル姫だ」

 サックスの言葉に歩みを止め、ディークファルトは従兄弟を凝視した。


「どういうことだ?」 

「このまま何も告げずに行っていいのか?」

 一瞬見開き時間が止まったようだが、ディークファルトはすぐにフッと表情を和らげた。

 

「これより一月後、オルリア入りが決まっているマリエルに何を言うんだ」

 悟ったような表情で(のたま)う従兄弟に、サックスは苛立ったように詰め寄った。

「好きなんだろう」

 

 昨日到着したばかりのサックスは二人の動向を見ることはできなかったが、昨日の空の散歩を見ればディークファルトの思いは一目瞭然だった。

「思いは伝えなければ相手には伝わらない。好きならちゃんと言ってから帰るべきだ」


 俺良いこと言ったと思ったサックスとは違い、ディークファルトの表情は弱り顔になった。

「・・・・言ったよ」

「え?」

「ここに着いた日の夜に言った。ただ彼女がそう認識しているかは不明だが」


 眉を潜めて言う従兄弟の色気はともかく、サックスは呆れ顔で突っ込んだ。

「それは言ったうちに入らん!きちんと伝えて来い!」

「サックス、俺は俺なりの言葉でマリエルを口説いた。けど、それ以上に無理強いをしたいとは思わないんだよ」

 

「無理強いってなんだよ。少なくとも姫はお前との時間を大切にしようとしてたし、無理をしているようには思えなかった。お互いの思いをすり合わせさえすれば、そんなややこしい思いしなくて済むだろう!」

 

「サックス」

 恋愛初心者のディークファルトには難しい問題だった。

 ようやく自分の求める女性が現れて狼狽えないわけがない。

 尻込みするのは仕方ないことでもあった。

 

 一月後マリエルが来るその時までにもう一度自分の思いを見直そうと思っていたディークファルトはもう一度首を横に振った。

「ディー!」

「すまないサックス。先に行くぞ」

 

 外へ向かって駆けっていくディークファルトにサックスは叫んだ。

「あ、おい!ディー!!」

 怖気づきやがって!


 従兄弟が走って行った方向をサックスが凝視していると後ろから声をかけられた。

「サックス副隊長」

 振り返った先には、竜騎士隊員の一人が立っていた。

 

「殿下の荷物を部屋からすでに搬送済みです」

「ご苦労」

「それとボスに初心者用の蔵を着けといたんですけど、無用でしたかね?」

「気が利くな。俺でもそうしたよ。でも殿下があれではな」

 

 二人して盛大なため息を吐いた時、奥からバタバタと走る小気味いい音が聞こえてくる。

 王城で走るものなど皆無だ。

 珍しい音である。

 

 何だとそちらを目にしたサックスはギョッと目を見開いた。

「サックス様!」

 走ってこちらに猛突進してくるのは、件のマリエル姫だった。

 目の前まで来たマリエルに、サックスは騎士の礼をし、目を合わせた。


「マリエル姫、私のことはサックスとお呼びください」 

「では、サックス。ディー様はどこです!」

 その言葉に眉を下げたサックスは、事実を報告する。


「殿下はすでに丘に向かわれまして」

「・・・・挨拶もせずに自国に戻られるおつもりだったのですか」

 悲壮な表情の姫にサックスは頭を下げた。

「申し訳ございません」

 

「なぜサックスが謝るの。そう決めたのはディー様でしょう」

「ですが」

「いいの。それよりディー様の所に案内してほしいの」

「お見送りですか?」

 

「いいえ、私も一緒にオルリアに行くためです」

「は?」

 言われたことが理解出来ずサックスも騎士隊員も呆けた。

 がマリエルはニッコリ笑った。

 

「私も一緒に行きます」

「しかし」

「大丈夫。お母様の許可は得ています」

 王妃様が?

 

「案内、お願いできますか?」

 真剣な眼差しのマリエルにサックスは、ディーの相手はこれくらいの気概がなければ務まらないだろうと細く微笑んだ。

「お心のままに」

 

 

        ◆

 

 

 アリッサに単身用の蔵を着けながら、ディークファルトは嘆息する。

 サックスが余計なこと言いだすから、マリエルのことが気になって仕方がない。帰りの挨拶くらいはして行った方がいいだろうか。


「殿下変わりましょう」

 上の空状態のディークファルトに竜騎士の隊員が声をかけてきた。

 蔵の取り付けは慣れた動作ではあるが、こうも身が入らないと不備があっても困る。


「助かる」

 そういってアリッサから離れたディークファルトは、丘の奥で待機している黄色の竜であるボスが目に入り、首を傾げた。


「ボス、お前なんで初心者用の蔵なんて着けてるんだ?」

 ギュルギュル⤴っと言うボスにディークファルトは更に首を傾げた。

「籠の中に何かあるのか?」


 取り付けた蔵についている籠状の中を気にするボスを(なだめ)ようと中を覗き込んだ時、丘の下側が騒がしくなった。

 籠から顔を上げてそちら側を見たディークファルトは、マリエルの姿を確認し固まった。

 

 大きく目を見開き身動きができないままでいるディークファルトをよそに、マリエルはサックスと共に丘を登りきり目の前まで来るとディークファルトの胸に飛び込んだ。


 反射的に腕を出し抱きとめたディークファルトに、マリエルは険しい顔を向けた。

「マリー」

 黙って帰ろうとしたことを怒っているのだろうか。


 そう思いディークファルトが謝ろうとした時、マリエルの言葉で遮られた。

「ディー様、説明は後です!」

 そう言ってマリエルは手持ちの小さなリュックをボスに取り付けられた蔵の籠の中に入れると、振り返りディークファルトを促した。


「さあ、行きましょう!」

「・・・・行くってどこに?」

 意味が分からず呆けるディークファルトにマリエルは当然の如く言い切った。

「オルリア王国に決まってるじゃないですか」


「・・・・・・は?」

 理解に苦しむ。

 マリエルのオルリア入りは1ヶ月後だ。

 何がどうなってる?

 

 その時丘の下に、アランがいつの間に来ていたのか大声が響いた。

「急げディー!このままマリーを連れてオルリアに戻れ!」

「そんな勝手な事」

 動揺と混乱で状況が飲み込めないディークファルトは首を振ったが、アランはジッと真剣な眼差しを向けていた。


「母上の許可は得ている。そうだね、マリー」

「はい!」

 兄妹のやり取りをディークファルトは呆然と見つめることしかできなかった。


「と、いうわけで御大が出て来る前に行ってしまえ!」

 大きな動作で身振り手振りしながら言うアランに、それでもディークファルトは迷い動けないでいた。


 そんな勝手に奪うような真似をしていいのだろうか。

 決心がつかないディークファルトに、デュリカーナの天の声が響く。


「構いません!」

 どこからかアンジェリカ王妃の声が響いた。

 目を彷徨わせて王妃を見つけた時には、ディークファルトは自分の目を疑いギョッとした。


 丘に一番近い城の屋根の上に、とんがり屋根飾りのフラッグを握り締め、豪奢なドレスを風になびかせて立っていたのは間違いなくアンジェリカ王妃だった。


 え〰〰〰〰〰〰!!!

 その場にいるオルリア人は目を見開いた。

「そのまま行きなさい!」

 城の上から王妃の声が。


 下から王の声が響き始めた。

「アン!君は何を?!」

 焦ったようにワタワタと両手を大きく振る仕草の王は、今は妻にしか目が行っていない。


「ゲ!気づかれた!」

 しかし直ぐにマリエルが何をしているのか思い出し、自分の方へ走ってくる父にアランは焦りを覚え、従者も使い丘の上には行かせないように妨害する。


 マリエルもさすがに母の許可を得たとはいえ、父に直接止められたら計画は無駄に終わることは容易に想像がついた。

 焦りディークファルトの服を掴んだ。

「ディー様早く!」


「本当にいいのか?」

 まだ困惑しているディークファルトにマリエルは大きく頷いた。

「お母様がいいと言ったら、いくらお父様でもそれを(くつがえ)らせることはできません」


 捕まったらどうもできないかもしれないけど。と思ったがそこは黙っておく。

「・・・」

 王より王妃の言葉が絶対って、それでいいのかデュリカーナ王国、とディークファルトは心の中で突っ込んだ。


「うちはお母様が最強です」

 そう言って籠の中に入ろうとして、(また)いでモタモタしているマリエルの腰を持ち上げ籠に乗せると、ディークファルトもヒラリと籠に乗った。


 お膳立てしてもらって、ここでマリエルを置いていくほどディークファルトも空気が読めないわけではない。

 後は頼んだぞ、アラン。

 そう心の中で言うとボスに指示を出し、大空高く飛び出していた。


「マリー!」

「お父様行ってきます!」

 驚愕な面持ちで見上げる父に、マリエルは笑顔で大手を振った。

「私は許してないぞ!」


「往生際が悪い!」

 飛びつかんばかりの父を羽交い締めにしたのはアランだった。

「何を?!アラン!」


「それ以上の暴挙は許さなくてよ、ジル!」

 夫と息子の様子を屋根の上から静観していた王妃が抑止する。

「アン!」


「それ以上騒ぐようなら私ここから落ちますわよ」

 言って聞かない夫に脅しをかけた。

「な!危ないからそこから降りなさい!」


「マリエルのオルリア行きを認めてくれるならここから降りましょう」

「私を脅す気か?!」

「そうです」

「?!」

 平然と言いのける王妃に二の区が継げず、ガーンと大きく口を開けて呆ける王を見て、マリエルは頷いた。


「決着着きましたわね」

 ほらね。と笑うマリエルにディークファルトは呆れ顔を地上に向けていた。

 そしてもう一度、内心呟いた。


 それでいいのか、デュリカーナ王国。







明日もう1話UP予定です。



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