21、 迷走
久々、ヒロイン登場です(汗)
「お兄様」
夜も寝静まった頃、王太子の私室にマリエルは来ていた。
後方には護衛ジオンが控えていた。
「あれ、今日はこっちに来ちゃったんだ」
兄の残念そうな表情にマリエルは首を傾げる。
「他にどこに行きますの?」
「何でもない。こっちの話だよ」
ジオンを扉外に待機させ、アランは妹のみ私室に入れた。
部屋の片隅にある簡素なティーテーブルの手前の方にあった一つの椅子にアランは手をかけ引き下げた。
そこにマリエルを座らせると、侍女にお茶の用意を頼み、準備してもらった。
「それで、急に私に会いに来てどうしたんだい?」
人払いを済ませると会話を再開させた。
「こんな時間にごめんなさい。一人だと落ち着かなくて」
俯き顔色等が伺えない状態のマリエルに、アランもどう判断すればいいか分からず、色々を質問してみた。
「・・・どう落ち着かないの?」
「あの・・・・私どこかおかしいのかしら?」
下を向いたまま、上目遣いで見つめてくる妹は可愛らしく頬も少し赤いような気がしてアランは動揺した。
「マリー?」
「ディー様を前にするとドキドキしてどうしていいかわからなくて」
恋愛脳が皆無のマリエルの言葉に、状況を正しく分析するためにアランはマリエルを誘導する。
「どういう時にドキドキするの?」
兄の言葉に思案顔になったマリエルは記憶を掘り起こしながら少しずつ離し始めた。
「今日お茶会の時は、私がする竜の話を嫌がることなく、ニコニコと聞いて下さった時とか」
そうだね。今までの相手は竜という単語が出るだけでビビるような奴らばかりだったから、ディーの態度は新鮮だったろうな。
「夢中で話をしてても気分を害した感じもなく、まだないのって顔で笑って下さって」
まあ、彼にしてみれば日常相手してる竜のことだからを心も広い対応はできるよね。
「昔と同じように給仕して下さったのですが、恥ずかしいというか」
羞恥心か。んー、それはどう見ればいい?
「思い出してしまって・・・・」
考え事をしていたアランは小声でゴニョゴニョ言うマリエルの言葉が、不覚にも聴き逃してしまっていた。
「給仕ってマリーもしてなかった?」
「はい」
そこでマリエルはあれ?と首を傾げた。
「どうしてアランお兄様がご存知ですの?」
しまった!盗み見してたことがバレる!と内心思いながら適当に話を逸らす。
「・・・ジオンから聞いてね」
「あ、やっぱりどこかであの夫婦見ていたのですね」
苦笑いのマリエルに、アランは私も(出歯亀よろしく)そこにいました。とは言えなかった。
「で、給仕してみてどうだった?」
「どうとは?」
「嬉しかったとか、色々あるじゃない」
「んー、ワクワクしたような、なんかお母さんになった気持ちでした」
その言葉にアランは半眼になり、俯いて目頭を揉んだ。
求めていた言葉じゃないね、それは。
女性としての、扉を開いてほしいのにいきなり飛び越えて、母親気分ってどうなのよ。
いや、女性は母性本能を擽るとかよく言うな。
あながち間違った感情ではないのか?
「そういえば、今日は急遽、竜と空の散歩ができたんだって?」
「そうなんです!とっても素敵な時間でしたわ!」
「どう素敵だったの?」
「普段感じることのない、風を感じながらデュリカーナの町並みを上空から見つめる光景は大変素晴らしかったです!」
このテンションの高さには覚えがあるねぇ。
竜を語り始めた時のマリエルの感情がもっとも高ぶった時の傾向だ。
ん〰〰〰〰〰、やっぱりまだ[竜>ディークファルト]なのか?
「もう一度、ディー様とあの光景を見たいと思ってしまったほどに、素敵でした」
「ディーと?」
「はい、私一人では竜には乗れないですから」
うん。頼りにはしてるんだよね、ディーのことを。
マリーにとって幼い頃から心惹かれることはすべて竜だった。
その竜と切っても切れない関係にあるディークファルトは、嫌でも竜の延長線上にあって、尊敬や憧れといった感情はあることは容易に想像がつく。
『ただそこに色を添えてほしい』
そう言ったのは先程二人でとった夕食後のティータイムで、ディークファルトが言った言葉だった。
その時、ディークファルトは自身がマリエルに好意を抱いたことを語った。
やはりお昼のお茶会での振る舞いは、落とす気満々ゆえの行動だった。
今回は縁談あり気の話なのだから、男性側がその気になったのなら、決まったも同然じゃないか!と歓喜したアランだったが、その後語ったディークファルトの言葉で複雑な気持ちになった。
ディークファルトは縁談について、持論を持っていた。
『王族として政略結婚は周知の通りなのだが、自分は相手に無理強いはしたくないのだ』と言った。
複雑な環境で育った自身は、はっきり言って女性が嫌いだ。
女性の手によって色んな事件に巻き込まれた生い立ちゆえに一方的な思いや感情が、相手にとって幸せとは限らないことを知っている。
少なくとも自分は他人の一方的な思いは、迷惑以外の何ものでもなかったのだから。
それ故にマリエルにその気もないのに、この話を進めようとは思っていないのだと言った。
勿論、好いてもらう努力はするつもりだが、そううまくいかないことも察していた。
自身の感情を無視すれば、マリエル以外の女性なら、相手から無条件で好かれる可能性は大いにある。
けれど自分はマリエルを選んだし、今後他の相手となると、見つけ出せる気がしないとも言った。
そのマリエルが幼いからなのか、そういった色が見受けられないことをディークファルトは気にしていた。
『世の中うまくいかないものだな』
その憂い顔といったら・・・・。
男のアランでも見惚れるほど色気満載だった。
アランはこの時、正直まずいと思った。
ディークファルトの色気に、ではなく結婚に関しての持論に対してだ。
マリエルの恋線をこじ開けて、頭の中をディークファルト一色にしなければ、この縁談は、破談一直線じゃん!と頭を抱えたのである。
目の前には今まで恋とは無縁だった妹が静かにハーブ茶を飲んでいる。
少なくともディークファルトにドキドキすると言ったマリエル。
その感情に色が含んでるかは正直わからないが、思い込みって時には必要なこともあるんだよねぇ。
一目惚れだって、思い込みから始まるんだしね!とアランの持論をぶっ込んだ。
竜に対する思いは、その延長線上にいるディークファルトに嫌でもつながる。
二人の時間を共有していけば、いずれはその思いは一方的ではなくなる!
そうだ、そうに違いない!
だってマリエルはディーにドキドキするって言ったんだ。
恋を知らないマリエルがそれに気がついてないってこともあるわけだし。
「気になることもあって」
マリエルにしては初めて見た、憂い顔だった。
母がよくする表情に似ていて、アランは呆けた。
「気になるって何が?」
「実は・・・・」
お茶会の時に聞いた竜の秘匿。
それを聞ける権利があるのは、ディークファルトの横に立つ者だけ。
つまり奥方だけだと言う。
「正直嫌だと思ったんです」
ん?
「嫌?聞きたいではなく?」
「勿論竜のことなら聞きたいです。でもそれよりも私以外の人がこの権利を得るのは嫌だと思ったのです」
微妙だな。どう嫌なのか。
ディークファルトの横に別の女性が立つことがいやなのか、自分以外の人間が竜の秘匿を知ることが嫌なのか。
ん、待てよ。
「マリーは、その権利を得られるなら自分がその候補者にはなりたいとは思わないの?」
「私が王女でなければディー様の横に立ちたいと思ったでしょう」
「王女の何がいけないの?」
「この国の王女に生まれた以上、国にとって利益になる結婚をするのが私の役目です。そこに個々の感情は、必要ないはずです」
「では、自由にしていいと言われたら?」
「迷うことなく立候補したいと思います」
「・・・・」
竜の秘匿情報を知りたいからディーの横に立ちたいとは少し違うようにも見える。
それって、ディークファルトが言う程、マリーの中に色がないわけではないのでは?
「うーん、結婚についてだけど。もしディークファルトと結婚したとして、うち(デュリカーナ)にとって悪いことはないから、マリーからしたいと言っても問題ないと私は思うけどね」
「・・・メリットはお有りですか?」
「だってうちと同じ国積に国力、安定した財政。その国とのパイプができるとなれば、うちの大臣達は喜ぶと思うよ。ああ、あの人は相手が誰であれ喜ばないからこの場合除外ね」
あの父は本気でマリエルを死ぬまで手元に置きたいなどと言っているから、たちが悪い。
「竜の時とは違うドキドキに私自身どうすればいいのか。こんなこと初めてで・・・」
頬を桃色に染めて俯く妹に、やっぱり色あるんじゃないか?
うーん、要は恋をするとこのドキドキがデフォルトであることをマリエルがわかれば、自覚するのか。
ここは母上に人肌脱いで頂こうか。
「マリーそのドキドキは決して変ではないと思うよ」
断言は避けるけど。
「母上も父上と一緒にいるとドキドキしてるはずだから」
「本当ですの?」
「嘘だと思うなら母上に聞いてごらん」
「はい!では明日にでも時間を作って頂いて伺ってみます」
「うんうん、そうしなよ。母上も喜ばれるんじゃないかな」
「なぜですの?」
「マリーももうそういう年頃になったのだ・・・とね」
◆
翌日の朝食後のサロンでマリエルは母である王妃を誘って紅茶を嗜んでいたが、いてもたってもいられず、単刀直入に話を切り出した。
「お母様はお父様と一緒にいてドキドキなさいますか?!」
油断していたら、ブーッと紅茶を噴いていたかもしれない。
だが、そこは一国の王妃である。
グッと持ち堪えると、娘を凝視した。
「何故そんなことを?」
「私、ディー様と一緒にいるとドキドキして、どこかおかしいのかと思っていたのですが、昨日お兄様に聞いたらこのドキドキは変ではないと言われまして。お母様もお父様にドキドキしてるから大丈夫だと・・・」
「・・・」
娘のそのドキドキはどう捉えればいいのか情報が少ない過ぎて判断が難しい。
王妃は昨日兄妹との会話を聞かせてもらい、ふむ。と扇を開いて思案する。
アランの魂胆は理解した。が・・・。
王妃は困惑していた。
確かに結婚した当初はジルに対してドキドキはしたが、月日と共に今は皆無である。
だが、そんなこと今の娘に言うのは憚られる。
「ドキドキ。してる(いた)わね」
「どういう時に?」
?!突っ込んでくるわね(汗)
「そうね」
どうだったかしら、と紅茶を飲む。
「(あの頃は)一緒にいるだけでドキドキしていたわね。特にジルは猪突猛進形で私は押され気味で戸惑うことも多かったけれど」
「押され気味?」
そういえばこの子に教育をまだしていなかったわね。
「接触が多いというか、距離が近いというか」
母親の言葉にマリエルは既視感を覚えた。
マリエル自身もディークファルトに触れられるとドキドキするし距離が近いとフワフワしてどうしていいかわからなくなるのだ。
それは父や兄、身近な存在のジオンには感じたことがないことだった。
「それは恋ですか?」
「・・・」
「触れられるとドキドキしたり距離が近いとフワフワしてどうしていいかわからなくなることは、恋ですか?!」
目を潤わせ頬をピンク色に染めた娘の表情に王妃は息を呑んだ。
恋煩い特有の現象に王妃は歓喜した。
「まあ、まあまあ!」
興奮した母親にマリエルはキョトンとする。
「あなたが恋愛ごとで心悩ますことが来るなんて!」
「お母様?」
何故急に娘が恋に目覚めたのかは、わからないがディークファルトが奮起したことはなんとなくわかっていた。
そうでなければ、距離間どうこう・・・いや、そこまで言うのは野暮でしょう。
それならば、危機感を与えればこの子の本当の気持ちも見えてくるはずだわ。
「マリー、そういうことなら猶予はなくてよ!」
「はい?」
「いいですか、これから私が言うこと聞いて、あなたはこれからどうしたいか。思ったことを素直に行動なさい。あなたがどんな結論を出しても私は応援します」
「え?」
「実は・・・・・」
母の言葉の続きを聞いたマリエルは頭の中が真っ白になった。
明日もう1話UPします。
次回、ヒロインの父登場。
ヒーローとの会話の中で、竜の伝承話が出てきます。




