19、 驚きと・・・。
少し短めのお話です。
「同衾?!」
サックスはすでに半分魂が抜けかけていた。
あの従兄弟が昔とはいえ、幼い姫と同じベットに寝ていたと聞かされ、それは誰だ?と思わざるおえなかった。
サイラスは無表情のまま当分固まっていたが、両手で顔を覆った。
ディークファルトの行動は今までの彼を知っている自分から見ても普通じゃない。
(ディー・・・、お前)
サイラスは頭を抱えたくなった。
イーサンではないが、幼女趣・・いや、変・・・いやいや番説を推し進めたい気持ちが強くなった。
この従兄弟が疑うだけの事実が10年前に起きていた。
いやしかし、あの堅物の末弟が心許せる存在がいたのなら、ここは喜んでいいのではないか?
それが我がオルリア王国が何としても手に入れたい女性なら尚更。
良し。ここはポジティブに考えよう。
皇太子サイラスは考えることを放棄した。
そんな二人をデフォルトの笑みを浮かべたまま、ルーカスが戻るまでイーサンは窓辺に佇み、その時のとこを思い出していた。
同衾。
確かに一緒のベットにディークファルトとマリエル姫は寝ていた。
10年前、別宮からディークファルトを迎えに向かっていたイーサンは、デュリカーナの従僕から昨夜のことを粗方聞かされていた。
夜会を抜けた数人の女性がディークファルトの部屋へ忍び込む暴挙に出たのだと。
幼い頃から女難の相があるのか、ディークファルトが女性のことで苦労している姿を見知っているイーサンは舌打ちした。
やはりディークファルトが嫌がっても同じ部屋で寝泊まりするべきだった。
苛立ちを隠さずそのままディークファルトの部屋に入ったイーサンは、雷に打たれたように立ち尽くした。
自分の目に映るそのビジョンが信じられなかった。
一つのベットの中に、自国の氷の王子と言われるディークファルトと、このデュリカーナの王女マリエルが仲良く寝ていたのだから。
一つのベットの中、ふたりの距離は決して近くはなかった。
空きは確かに存在しているが、なぜか二人の手はしっかり握られていたのだ。
その二人の表情は満足したような笑みを浮かべていた。
眉間にシワを寄せ気味の無表情がデフォルトのディークファルトが、である。
普段決して見ることのない表情だった。
え、誰?と思った自分は悪くないと思う。
これはいったい???
「これはイーサン様。おはようございます」
イーサンは後ろに人が来たのに気が付かない程、呆けていたらしい。
昨日マリエル姫を夜会会場まで迎えに来た年若い侍女がそこにいた。
「ああ、おはよう」
呆然としたイーサンを横目に侍女は、ベットで眠るロイヤル二人を見て微笑んだ。
「昨夜はうまく乗り切れたようで安心しました」
静かに朝食を準備する侍女が、二人を起こさないように静かに言葉を継ぐんだ。
「乗り切る?」
「ええ。夜会から帰った後、侍従長から数人の女性がディークファルト殿下の部屋を探して彷徨いていると聞きまして。侍女長と相談して間違いが起きようのないマリエル様をディークファルト殿下の部屋に女除けに行かせようと言うことになったのです」
なんだろう。
子守をディークファルトに丸投げしたように感じるのは私だけだろうか。
「あれを見せられた日には、引き下がるしかないでしょうから」
カラカラ笑う侍女に、イーサンは脱力するしかなかった。
イーサンはもう一度ロイヤル二人を見て納得した。
確かにこれを見て、襲おうと思う女性はいないだろうな。
「確認されているだけでも、4人ここに来てるそうですが、皆さん一目散に逃げ帰ってるそうですよ。作戦勝ちです♪」
いや、本当感服致しますよ。
自国の王子の貞操の危機を救ってもらって感謝なのだが・・・・。
チラリともう一度ディークファルトを見て、肩が落ちるのは許してほしい。
イーサンは見てはいけないものを見た気分だった。
朝食の匂いに釣られてディークファルトが目を覚ましたのは、そんな時だった。イーサンの居たたまれない表情を見た後、一瞬『しまった』という表情をし飛び起きてきた。
「イーサン」
ディークファルトの顔に書かれている『寝過ごした』いう文字を見て、心情を理解した。
本来は早く起きてマリエル姫を自室に帰そうと思っていたのだということに。
これはあまり突かないほうが姫のためにもいいようだ。
フフっといつもように笑みを浮かべた。
「ご無事で何よりでした」
「・・・・・おう」
キツネに抓まれたような表情のディークファルトが面白く、笑みを深めたイーサンだった。
何よりあの式典以降、ディークファルトは人が変わったように政務や竜のお世話のために軍に顔を出し積極的に行動を取るようになった。
生きることさえ、投げやりのように感じることも多かった従兄弟の目に光が宿っていると気がついたのは、イーサンと彼の兄たちだけだろう。
マリエル姫。
いい意味でディークファルトを変えてくれた姫君。
彼女がこの国に来ることがあるのなら、これから面白いものが見れそうだ。
イーサンは一人心が踊った。
おまけ
追憶③〜ディークファルトの心傷〜
あの時の皇太子サイラスと第二王子ルーカスの思い
ディークファルトの解毒を行うため、医師の元へと移動しようとしていたときの事。
ルーカスが扉を抑えている間に、問題のあった部屋を出てサイラスはディークファルトを刺激しないようにそっと、そう遠くない弟の自室まで続く廊下を歩いた。
ルーカスが先回りし、ディークファルトの部屋の戸を開けてた先には、すでに医師が到着しており、後は彼らに任せるしかない二人は部屋を出て廊下で経過を見守ることにした。
サイラスは苦悶していた。
「なぜディーばかりこんな目に合わねばならない」
「兄上・・・」
「いつもいつも!」
自分の事のように悲痛な面持ちで涙を流すサイラスに、ルーカスは事件を未然に防げなかったことに憤りを感じていた。
皇太子サイラスが19歳になり、皇太子妃争いが激化していたのはわかっていた。だからこそ兄を支える為、寄宿学校を飛び級してでも城に戻ってきたのに、まさかその余波を末弟に及ぶとは思わなかったのだ。
皇太子妃を巡り、公爵や侯爵達といった上位貴族の争いにしか目がいかず、全体を見渡す目をまだ年若いサイラスやルーカスは持っていなかった。
父親であるオルリア王ユーグは、他国との抗戦で自国に目を向ける時間が取れないのも事実だった。
サイラスは末弟のディークファルトを父にも似た思いで面倒を見ていた。
母親がディークファルトを産んですぐに亡くなった為、不憫に思ってのことだった。
母の愛情を知らない分、兄弟である自分達が愛情を持って接してきた。
だが周りの大人の事情で派閥などと言う下世話なものが発生し、兄弟間で思うような交流が持てていなかった。
ディークファルトが竜御殿に引っ越してようやく周りに気にすることなく会えるようになったのだ。
コミュニケーションが取れることを誰より喜んだのは他ならないサイラスだった。
サイラス兄弟にとってこの二年間は家族として貴重な時間でもあった。
その貴重な時間の中に自然と接してきた侍女がまさかこんな事件を起こすとは思わなかった。
『あの侍女がまさか』
温和で周りの者を癒す存在だった侍女が起こした今回の騒動を、サイラスは複雑な思いで受け止めていた。
人の心の奥底に潜む闇の存在、飲まれれば一気に人として矜持を失い、今回も彼女にこんな狂行を起こさせた。
どんなに相手を知っても表面からでは見れない闇の部分。
エスパーでなければそんなものは見ようとして見れるわけではない。
ならばいずれこの国を背負う者としてその闇と向き合うために、自分は何をしなければいけないのか。
自分の大切な者達を守るために、自分はどうするべきか。
この事件をきっかけにサイラスは模索していくとこになる。
ルーカスもまた大事な者を守れる強さを身につける必要性を感じていた。
王となる兄の支えとなり、愛する家族をこれ以上傷つけないための強さを・・。
ディークファルトの負い目は兄達にとっては皆無だった。
マリエルの言うとおりディークファルトの失考、思い過ごしだった。
それほどまでに兄たちはディークファルトを愛していた。
兄たちが自分自身を見つめ直すきっかけになったこの事件の時、サイラス19歳、ルーカス17歳。
ディークファルト自身も、自分自身を見つめ直すきっかけになったマリエルとの出会いは17歳の時だった。
オルリア王国の殿下方の、愛する者を守りたいと思う力の強さを実感できるようになるのは、ディークファルトがマリエルと出会って数年後のことだった。
明日もう1話UPします。




