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第9話 暗黒の迷宮、孤独の試練



アキトの心臓は、鼓動のたびに重く軋んだ。目の前には、漆黒の霧に閉ざされた迷宮の回廊が果てしなく続く。冷たい石畳を踏む足音だけが、静寂を切り裂く。仲間たちの笑顔も、励ましの声も、今は遠い。ゲームシステムの無機質なメッセージが、アキトの耳に突き刺さる。


「プレイヤー:ユウ、ナナ、ケイタ――強制ログアウト完了」


マルクスの罠だ。アキトの喉が締め付けられるように震えた。胸の奥で、かつての自分が囁く。*お前はいつも一人だ。誰もお前を必要としない。引きこもりのまま、暗い部屋で画面を眺めていればよかったんだ*。その声は、迷宮の闇よりも深く、彼の心を締め上げる。


数分前まで、ユウの豪快な笑い声、ナナの優しい励まし、ケイタの冷静な分析がアキトを支えていた。リオを救うため、「ルミエール・ラブロマンス」の改ざんされた世界を共に突き進んでいた仲間たち。だが、今、彼は再び孤独だった。膝が震え、剣を握る手が冷たく汗ばむ。


「ふん、所詮お前はそんなもんだ、アキト」

マルクスの嘲笑が、迷宮の闇に反響する。その声は、アキトの心の傷を容赦なく抉った。「仲間がいなけりゃ何もできない、引きこもりの弱虫。リオを救う? 笑わせるな。彼女はお前なんかにふさわしくない」


アキトの視界が滲む。マルクスの言葉は、彼が何年も押し込めてきた恐怖を呼び起こす。*本当に、俺なんかがリオを救えるのか? 彼女は…俺みたいなやつじゃなく、もっと強い、もっとふさわしい誰かを…*。心が折れそうになる。だが、その時、脳裏にリオの笑顔が浮かんだ。ゲームの中で初めて出会った時の、柔らかく温かい微笑み。現実のリオが、こんな場所で閉じ込められているなんて。


「黙れ、マルクス!」

アキトは叫び、闇に向かって走り出した。足音が迷宮にこだまする。心の奥で燃える小さな火が、彼を突き動かす。「俺は…もうあの頃の俺じゃない! リオを…仲間を…絶対に守る!」


「アキト! 見てるだろ!? 絶対諦めるなよ!」

ユウの声が、ライブ配信のコメント欄を熱くする。モニターの向こうでは、ユウ、ナナ、ケイタが慌ただしくキーボードを叩き、集まった視聴者たちと共にアキトを応援していた。


「アキト、君ならできる! リオちゃん、待ってるよ!」

ナナのコメントが、アキトの心に温かな風を吹き込む。彼女の声は、いつもアキトを落ち着かせ、勇気をくれた。ケイタも冷静に続ける。「マルクスの罠は狡猾だが、迷宮の構造にはパターンがある。冷静に進め、アキト」


コメント欄は、視聴者たちのエールで埋め尽くされていた。強制ログアウトでゲームから弾き出されたユウたちは、諦めるつもりなどなかった。現実からアキトを支えるため、配信を通じて声を届けていた。


その中に、匿名アカウント「E-Shadow」のコメントが紛れ込む。

「アキト、聞こえるか? マルクスの罠はまだ続く。迷宮の最深部にリオがいるが、彼女のデータは改ざんされている。気をつけろ。そして…信じる心を失うな」


アキトは知らなかった。この「E-Shadow」が、ルミエールアカデミーのエレナ教授だと。彼女は学園の外で、マルクスの悪事を暴く証拠を集め、国家機関に提出する準備を進めていた。だが、マルクスの影響力は強く、彼女の動きはすでに監視されている。エレナは匿名でアキトに情報を送りつつ、時間との戦いに追われていた。

 

アキトの息は荒く、額を伝う汗が目に入って痛む。迷宮の構造は刻一刻と変化し、罠が次々と襲いかかる。床から突き上げる刃、壁から放たれる毒矢、さらには幻影となって現れるマルクスの嘲笑。心が折れそうになるたび、アキトは目を閉じ、仲間たちの顔を思い浮かべた。ユウの豪快な笑い、ナナの優しい眼差し、ケイタの頼もしい言葉。そして、リオ。あの笑顔を、もう一度見たい。


*俺は…弱いかもしれない。怖いかもしれない。でも、みんなが信じてくれてる。リオが待不受ける*


配信のコメントが、鼓動のように響く。「右の通路だ! 罠に気をつけろ!」「ジャンプで避けられるぞ! いけ!」 視聴者たちの声が、アキトの心を奮い立たせる。孤独の重さが少しずつ薄れ、胸の奥に熱いものが込み上げる。*俺は一人じゃない。みんなが…いる*。


「アキト、君ならやれる!」ナナのコメントが飛び込む。「リオちゃんを助けて! 絶対!」 その言葉に、アキトの目が熱くなる。ナナの声は、いつも彼の心に届いた。引きこもりの自分に、初めて手を差し伸べてくれたクラスメイト。あの日の記憶が、力を与える。


迷宮の奥へと突き進むアキト。だが、その時――。

「ふふふ、アキト。よくここまで来た」

マルクスの声が響き、巨大な門が現れる。中心には、青白く光る水晶に閉じ込められたリオの姿。彼女の瞳は虚ろで、データ改ざんにより意識が封じられている。


「リオ!」

アキトの叫びがこだまするが、門の前にマルクスのバーチャルアバターが立ちはだかる。漆黒の鎧に身を包み、冷酷な笑みを浮かべる。


「お前がリオを救う? 笑止千万だ。俺はルミエールアカデミーを支配する王だ。このゲームも、学園も、すべて俺のもの。リオもな」


アキトの心が燃える。*リオは…お前のものじゃない*。初めて感じた恋の熱。仲間たちの絆。それが彼を突き動かす。「マルクス…お前にはわからない。この気持ちも、絆も!」


剣を握りしめ、アキトは突進する。だが、マルクスは不敵に笑い、指を鳴らす。迷宮が震え、新たな罠が発動する――。


エレナは研究室で、ノートパソコンに証拠データをまとめていた。マルクスの父親の企業が関与する違法なデータ操作の証拠。それを国家機関に提出できれば、マルクスの支配は終わる。だが、背後に黒スーツの男たちが迫る。


「エレナ教授…おとなしくしてください。マルクス様のご命令です」

エレナは唇を引き締め、アップロードボタンを押す。「アキト…君に託したよ。リオを、未来を…救ってくれ」


アキトはマルクスの罠をくぐり抜け、門に近づく。配信のコメント欄は熱狂し、視聴者たちの声が彼を後押しする。だが、マルクスの次の罠は心を抉るものだった。


「お前は所詮、孤独な引きこもりだ。仲間? 絆? 虚構にすぎん。俺がゲームを消せば、すべて終わる」


アキトの心が揺れる。*本当に…俺は一人で戦えるのか?* だが、コメント欄にナナの声が響く。「アキト、君は一人じゃない! 私たちがいる! リオちゃんも待ってる!」 ユウとケイタの声も続く。「お前ならやれる! 行け!」


アキトは目を閉じ、深呼吸する。リオの笑顔、仲間たちの声。*俺は変わった。あの部屋から出て、初めて仲間ができた。リオと…心を通わせた*。胸の熱が、彼を突き動かす。


「マルクス…俺はもう逃げない!」

剣を振り上げ、マルクスに立ち向かう。迷宮が揺れ、決戦の火蓋が切られる――。

ついに物語も折返しまで来ました。それもこれも、いつも読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。こんな展開が読みたい、このキャラの心情が欲しいなどのリクエストがございましたらぜひメッセージで教えてください。引き続きよろしくお願いします。

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