第7話 絆の歴史と燃える決意
ルミエールアカデミーの廊下は、冷たく静まり返っていた。アキトは周囲からの嘲笑や陰口を背中に感じながら、特別研究室へと足を進めた。いじめの傷は心に重くのしかかるが、リオを救うためならどんな試練も乗り越える覚悟だった。
特別研究室の扉を開けると、埃っぽい空気とともに、乱雑に積まれた古い本が目に飛び込んできた。その中に、ひときわ分厚い一冊――ルミエールアカデミーの歴史書があった。アキトはページをめくり、色褪せた写真と文章に目を奪われる。
歴代の校長たちの厳粛な肖像、ルミエールアカデミーの創立秘話、そして何よりも心を打ったのは、疫病が流行るたびに生徒たちが一丸となって薬を開発し、国家に認められ、一般に広まったという絆の歴史だった。「こんなすごい歴史が…」アキトは胸が高鳴るのを感じた。
だが、歴史書の最後のページには、最近の書き込みがあった。そこには、マルクス・ヴェルナーの名が不自然に刻まれ、まるでヴェルナー家が学園の創始者であるかのように改ざんされていた。「こいつ…学園の歴史を書き換える気だ!」アキトは拳を握りしめた。
マルクスの真の狙いが明らかになった瞬間だった。彼は金と権力で学園を支配するだけでなく、ルミエールアカデミーの誇りである絆の歴史を消し去り、ヴェルナー家の名で塗り替えるつもりだったのだ。
そして、リオがマルクスに狙われた理由も判明した。彼女はゲーム「ルミエール・ラブロマンス」のアバターとして存在しながら、現実のリオと繋がっていた。偶然にもマルクスの計画を知り、エレナ教授にその事実を告げたことで、復讐の標的にされたのだ。「リオ…だから消されそうになったのか…」
アキトの心に火が灯った。「これだ! 僕の動画に足りなかったものは、この絆の歴史だ! みんなにこの真実を伝えなきゃ!」彼はYouTuberとしての使命感に燃え、カメラを手に取る準備をした。
その時、研究室の扉が開き、エレナ教授が姿を現した。彼女の鋭い眼差しは、いつもの厳格さとは異なる感情を湛えていた。エレナは歴史書を手に取ると、そのページをそっと撫でた。彼女の指先はわずかに震え、瞳には深い悲しみと怒りが宿っていた。
「この学園は…私のすべてだった。」エレナの声は低く、抑えきれない感情が滲む。「若い頃、私はこの学園で学び、仲間と共に未来を切り開いた。疫病で苦しむ人々を救うため、夜を徹して研究したあの日は、今でも私の誇りだ。なのに…マルクスはそれを汚そうとしている。」彼女の目は一瞬、遠くを見るように曇った。「彼がこの歴史を奪えば、私の人生も、仲間たちの絆も、なかったことにされる。そんなことは…絶対に許せない。」
エレナは唇を噛みしめ、歴史書を胸に抱きしめた。それはまるで、学園の魂を守る決意の象徴のようだった。彼女はアキトを見据え、静かに、しかし力強く言った。「よくやったわ、アキト。この証拠を国家に提出し、ルミエールアカデミーを守りましょう。」
アキトはエレナの言葉に、彼女の深い想いを感じ取り、力強く頷いた。「はい! リオを…そしてこの学園を、絶対に守ります!」
こうして、アキトの戦いは個人的な想いから、学園全体を救うための大きな戦いへと変わった。エレナ教授という心強い味方を得て、彼はマルクスの野望を打ち砕くため、そしてリオを救うため、一歩を踏み出した。