第6話 現れた影の王とリオの秘めた思い
ルミエールアカデミーの廊下は、まるで嵐の前の静けさのようにざわめいていた。アキトが教室のドアを開けると、教室中の視線が一斉に彼に突き刺さる。ひそひそ話が波のように広がり、噂の断片が耳に飛び込んでくる。
「アキトって、入学式以来一度も来てなかったよね?」
「なんか地下室に引きこもってゲーム配信してるって…キモいよね。」
「ストーカーみたいなこともしてたらしいよ。怖っ!」
事実無根の悪口が飛び交う中、アキトは自分の机に向かう。そこには、汚い字で書かれた罵詈雑言のメモと、なぜか一輪の花が挿された小さな花瓶が置かれていた。花は白いユリ。まるで葬送曲を思わせる不気味な演出だ。アキトの胸に、冷たい不安が広がる。
その時、教室の空気が一変した。重い足音とともに、教室の入り口に現れたのはマルクス・ヴェルナー。金髪をなびかせ、自信に満ちた笑みを浮かべる彼は、まるでこの学園の王そのものだ。生徒たちの視線が彼に集まり、さっきまでのざわめきが一瞬で静まる。
「よぉ、引きこもりオタクのYouTuberさん」と、マルクスが嘲るように声を上げる。「やっと這い出てきたんだ? 気分はどうだ? さっさとゲームに戻りたいだろ? それとも…」彼は一歩近づき、声を低くして続ける。「リオを俺に渡したいか?」
アキトは拳を握りしめる。マルクスの言葉は、まるでナイフのように心を切りつける。「リオは…お前のものじゃない」と、震える声で反発する。
マルクスはニヤリと笑い、教室の生徒たちを見回す。「お前、知ってるか? この学園は俺の先祖が金で築いたんだ。ヴェルナー家は代々、このルミエールアカデミーを影で支配してきた。俺がルールだ。お前みたいな引きこもりが何をしても、リオは俺のものになる。仮想空間だろうが、現実だろうがな。」
その言葉に、アキトの頭はカッと熱くなる。「リオは…そんな奴のものにはならない!」叫んだ瞬間、マルクスは冷たく笑い、教室を出ていく。「なら、試してみな。リオを救うってのは、お前には無理だ。」
一方、仮想空間「ルミエール・ラブロマンス」の中では、リオがひとり佇んでいた。アバターの姿ではあるが、その瞳は現実の彼女の感情を映している。彼女は知っていた――マルクスが自分の存在を「削除」しようとしていることを。仮想空間のデータとして生まれた彼女は、マルクスの権力によって消滅する危機に瀕していた。
「アキト…」リオは小さくつぶやく。彼女の心は揺れていた。アキトが自分を救おうと現実で戦っていることを知っている。だが、同時に彼女は思う。「私が…現実の人間だったら、こんなことにはならなかったのに…」
リオの胸に秘められた想い。それは、アキトへの淡い恋心と、自分が「仮想の存在」であることへの深い葛藤だった。彼女はアキトに伝えたい。自分が本当は誰なのか、そしてなぜこの学園にいるのかを。
教室に戻ったアキトは、机の上のユリを見つめながら決意を固める。「リオを救う。そのためなら、どんな噂も、マルクスの脅しも関係ない。」彼はスマートフォンを取り出し、仮想空間への接続を試みる。だが、画面にはエラーメッセージが。「アクセス制限:管理者権限によりブロックされています。」
マルクスの仕業だ。アキトは歯を食いしばる。「直接会いに行くしかない…。」彼はリオが現実世界でどこにいるのかを探すため、学園の奥深く、ヴェルナー家が管理する「特別研究室」へと足を向ける。
そこには、マルクスの野望と、リオの真実が隠されているーー。