第21話 ルミエールの夕暮れ
バーチャル仮想空間「ルミエール・ラブロマンス」は、恋愛シミュレーションとゲーム要素が融合した夢の世界。アキトは引きこもりオタクのYouTuberとして、この空間でミニゲームを次々攻略していた。星空を駆けるコンドルレース、論理パズルの知恵比べ、仮想都市の宝探し――彼のゲーマー魂が冴え、グッズを着実に回収。画面右上の「リオの恋愛ゲージ」は、ピンクのハートが脈打つように上昇していた。リオのアバター、透明感のある瞳と柔らかな笑顔は、アキトの心を揺さぶる。仮想とはいえ、その存在感は現実以上に鮮烈だった。
「よっしゃ、今回のミニゲームもパーフェクトクリア! リオの好感度、ガンガン上がってるぜ!」
アキトは自室のPC前で小さく拳を握る。モニター越しに、リオがキラキラと輝くエフェクトに包まれ、微笑み返す。すると、画面に「ボーナス恋愛イベント発生!」の文字が浮かんだ。BGMが甘いヴァイオリンの旋律に変わり、背景は「ルミエール」の夕暮れの庭園へ。薔薇のアーチに囲まれ、夕日が水面のようにきらめく噴水のそばで、リオのアバターが佇んでいた。オレンジと薄紫が溶け合う空、風に揺れる彼女の髪。アキトは思わず息を止めた。
「アキト、話したいことがあるの」
リオの声は、ルミエールの空気のように柔らかく、心に響く。アキトのアバターが気まずそうに後ずさる。
「え、な、何? 俺、なんかミスった?」現実の彼も、キーボードを叩く手が一瞬止まる。
リオは小さく笑い、首を振った。
「ううん、違うよ。……ありがとう、って言いたかったの。」
彼女が一歩近づくと、夕日が彼女の輪郭を金色に縁取る。
「アキト、わたしのこと、ずっと見守っててくれたよね。闇ハッカーがこの世界でわたしを狙ったとき、監視カメラを仕掛けて守ってくれた。」
アキトの頭が真っ白になった。あの監視カメラは、ルミエールの「闇ハッカー集団」がリオのアバターをハッキングしようとした事件を防ぐため、半ば衝動で設置したもの。まさかリオが気づき、感謝するなんて。
「い、いや! 俺のやってことなんて、ただのストーカー行為じゃん! ハハ、ほんとキモいよな!」アキトは自虐で誤魔化そうと笑うが、心臓はドクドクと暴れていた。
リオの瞳が優しく細まり、微笑みが深まる。
「そんなことない。アキトが見ててくれたから、わたし、この世界で安心して過ごせたの。ルミエールの勉強ルームで集中できたのも、アキトがそばにいてくれたから。」
その言葉は、仮想のデータとは思えない温かさでアキトの心を包んだ。
夕日の光が薔薇の花びらを照らし、二人のアバターを甘い空気で繋ぐ。リオがそっと近づき、囁く。ら
「アキトのそういう真っ直ぐなとこ、わたし……大好きだよ。」
その瞬間、モニターの隅で「リオのアバター修復率」が跳ね上がる。闇ハッカーの攻撃で傷ついていた彼女のデータが、恋愛ゲージの上昇とともに癒えていく。ピンクのハートが輝き、システムメッセージが現れた。
『リオとの絆が深まりました。次のイベントまで、恋愛ゲージを維持してください!』
「リオ……こんなの、ズルいって」アキトはモニターを見つめ、呟いた。自室の薄暗さの中、頬が夕日より熱く染まる。ルミエールの恋が、引きこもりオタクの心を確かに溶かしていた。




