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第2話 バーチャルな君と現実の影

ルミエールアカデミー医療専門学校大学部のアキトはかつて、マルクスから、キモいオタクと呼ばれて以来、学校へは行かず、ゲーム実況配信に逃げ込んだ。彼はゲーム実況以外に、学園中に監視カメラをしかけ、マルクスの動向を伺っていた。ある日衝動買いしたゲームの中に、彼が密かに思いを寄せるクラスメイト、リオにそっくりなアバター「リオン」がいて?彼女の正体は?

ルミエールアカデミーの地下室。薄暗い部屋に、モニターの青白い光が揺らめいている。アキトの指はキーボードを叩き、画面には彼のゲーム実況配信が映し出されている。視聴者数はまだ数百人程度だが、彼にとってはこの空間こそが自分の王国だ。


部屋の壁は、リオの写真で埋め尽くされている。学園の廊下、図書館、校庭――すべて隠し撮りしたものだ。ポスターやタペストリーに囲まれ、アキトはメガネの奥で目を細める。


「ふふ、君は僕が守るよ、リオ。あんな金髪のチャラ男には絶対渡さないからね。」


彼の視線の先には、モニターに映るマルクス・ヴェルナーの姿。学園の「王」とも称されるマルクスは、金と権力で周囲を支配し、リオに不遜な視線を向けていた。アキトは学園中に仕掛けた隠しカメラの映像をチェックし、マルクスの動向を監視する。いつか彼の弱みを握ってやる――そう心に誓いながら。


そんなある日、アキトは新作ゲーム『VirtuaLove』を衝動買いした。噂のバーチャルリアリティゲームで、プレイヤーは仮想空間に入り込み、選んだ女子アバターと恋愛シナリオを進めることができる。クリアすれば、なんとそのアバターと現実世界でも恋が叶うという、夢のようなシステムだ。


「ふん、所詮はゲームだろ? でも、まぁ…時間潰しにはいいか。」


アキトはヘッドセットを装着し、ゲームを起動する。意識が吸い込まれるような感覚とともに、彼の視界は色鮮やかな仮想空間へと切り替わった。そこはルミエールアカデミーを模した学園だった。教室、廊下、校庭――現実と見紛うほどの精巧さだ。


ゲームのチュートリアルが始まり、4人の女子アバターが現れる。清楚な文学少女、元気なスポーツ少女、クールな生徒会長、そして――


「…え?」


アキトの心臓が跳ねた。4人目のアバター。その顔、髪型、微笑み――すべてがリオそっくりだった。名前は『リオン』と表示されているが、瓜二つだ。


「まさか…いや、偶然だろ? でも、こんな偶然…!」


彼の手が震える。このゲーム、ただの娯楽じゃないかもしれない。アキトは迷わず『リオン』を選び、シナリオを進めることにした。


仮想空間での『リオン』は、現実のリオと瓜二つだが、どこか柔らかい雰囲気を持っていた。彼女と会話するたび、アキトの胸は高鳴る。ゲーム内の学園で一緒に過ごす時間は、まるで現実のリオンと過ごしているかのような錯覚を彼に与えた。


「ねえ、アキト。どうして私を選んだの?」


仮想空間のリオンが、柔らかな笑顔で尋ねてくる。アキトは言葉に詰まり、顔を赤らめた。


「い、いや…なんとなく、かな…。」


本当は言いたい。君がリオに似てるからだ、君がリオそのものだからだ――と。


しかし、ゲームを進めるうちに、アキトは違和感を覚え始める。『リオン』の言動が、時折、現実のリオの知られざる一面を映し出しているのだ。彼女が好きな本、好きな音楽、ふとした瞬間に見せる表情――アキトが隠し撮りでしか知らないはずの情報が、ゲーム内に散りばめられている。


「このゲーム…どうなってんだ?」


アキトは背筋に冷たいものを感じた。ゲームの裏に何かがある。開発元を調べようとネットを漁るが、情報はほとんど出てこない。謎のベールに包まれた『VirtuaLove』の正体とは? そして、『リオン』は本当にただのアバターなのか?


一方、現実世界では、マルクスがリオに接近し始めていた。アキトの隠しカメラが捉えた映像には、校庭でリオに話しかけるマルクスの姿があった。金髪を揺らし、自信満々に笑うマルクスに対し、リオはどこか困惑した表情を浮かべている。


「くそっ…マルクスめ、絶対にリオを渡さない!」


アキトは拳を握り、決意を新たにする。仮想空間での『リオン』との恋を進めながら、現実でもリオを守るため、マルクスの弱みを握る計画を加速させる。


だが、その夜。アキトがゲームにログインすると、『リオン』の様子がおかしい。彼女の目が、どこか現実のリオンと同じ、憂いを帯びた光を宿していた。


「アキト…私、知ってるよ。あなたが私を見ていること。」


画面越しの『リオン』の言葉に、アキトの心臓が止まりそうになる。彼女は一体、何をーー。

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