SF作家のアキバ事件簿225 ミユリのブログ dream the future
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第225話「ミユリのブログ dream the fantasy」。さて、今回は"覚醒"して超能力を得た者とそうでナイ者とが対立?
ヲタク同士に生じた亀裂につけ込み、極秘の内にアキバの地下でエスパー狩りを進める警察は、ソレを利用しようとするのですが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 真実は昭和通りにある
世界の独裁者が好むパレード用高級車ベンツG4型が昭和通りを南下中。運転するスピアは片手運転だ。
「ご機嫌なドライブ日和だわ…あら、何?」
道端でクレーン車がシュビムワーゲンの索引準備を進めている。作業員の傍らに仏頂面で立つエアリ。
「またあの子?」
エアリは、腰に手を当て溜め息。赤の勝負ワンピというコトはデート帰り。故障した愛車に手をつく。
「お困りのようね、エアリ」
声をかけるスピアには応えズ肩越しにイライラとレッカー車を振り返る。スピアは微かな優越感に浸る。
「帰るなら…乗って行く?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2人で昭和通りを南下スル。
「この車、空調ついてないの?」
「パレード用のオープンカーょ?ついてるハズないでしょ」
「寒いわ」
エアリがクーラーに手をかざす。途端に温かい風が噴き出して来る…が、いかんせんオープンカーだw
「何したのよ」
「これで空調がガンガン効くわ。ついでに花粉も吸わズに済むし」
「勝手なコトしないで。地球資源のロスだわ」
エコを論じるスピア。
「わかったわ…しかし、古い車ね」
「新車でエンストするよりマシでしょ?」
「カーステもチャチいし」
再び手をかざすエアリ。途端にかっこいいジャズが流れ出し驚いたスピアはベンツを蛇行させてしまう。
「せっかく趣味を良くしたのに」
エアリは不満げにキーについたキーホルダーを手に取る。"時空トンネル"のミニチュアがついてる。
「あ、ごめん。そのキーホルダー、ウチの御屋敷で物販してるの。メイド長の手作りよ。ダサイわょね?」
「ウチの御屋敷でも売ってる。インバウンド相手のボロい商売だわ」
「ホント、インバウンドってしょうのナイ生き物ょね。ところで、ヲタクの御屋敷は気がついてるの?」
「ダサイってコトを?」
ジョーク?マジ?
「そうじゃなくて…貴女達が"違う"ってコト」
「実は、私はマルチバースの別の時空から秋葉原を侵略に来たエスパーで、人類の進化を超能力で捻じ曲げようとしてるって?」
「え?人類の進化?」
ガシャン!
急ブレーキを踏むが間に合わズ前の車に追突!エンジンが煙を噴く。ドアが開き運転手が降りて来る。
ブーツ?女子か?
「ぶつけちゃった。ヤダ、最悪。どうしよう?」
「マジ最悪だわ」
「あら、メイドさん達じゃナイの。ちょっと車を降りてもらえる?」
万世橋警察署のラギィ警部の氷のような声。
第2章 10年後という妄想
今、アキバは"妄想ウィーク"だ。ほとんどの御屋敷で夕方の?時に"妄想"をキーに訓示が行われる。
「超古代のメイドは、未来を知る妄想を天空に求めました。でも、今はもっと科学的に未来を妄想するコトが出来ます。つまり、私達メイドの未来に何が待っているのか。21世紀を逝きる私達メイドには、大きな可能性があるのです。私は、その可能性を貴女達と共に探って逝きたい。秋葉原メイドとして成功スルには、妄想を持つコトが重要です。さて、みなさんはどんな妄想をしていますか?」
今日、ミユリの御屋敷では秋葉原メイド連盟から派遣された公式カウンセラーのトポラが訓示している。古株メイドのスピアがメイド長のミユリに小声でささやく。
「ココにいるメイドの10年後、私が妄想してみようか?あの子はファミレスのバイト、この子はコンビニのバイト、後ろの子は蔵前橋、アソコの子はキックボクサー…」
大声の訓示に小声のささやき。どちらもミユリは聞き流し、お一人様で"脳内ブログ"をつづってる。
"…公式カウンセラーの話やスピアの妄想を聞きながら、私が唯一不安に思うのは、自分の将来についてじゃナイわ。だって、私は今を頑張って生きれば将来は必ず開けて逝くと信じているから…"
公式カウンセラーの訓示は続く。
「…そこで、メイドカウンセリングの一環として1人ずつ私と面談して質問に答えてもらうコトにしました。その中で、自分の才能に早く気づいて欲しいの。新任カウンセラーの私には、秋葉原メイドの1人1人を良く理解する上での絶好の機会となるわ。私は、みなさんのリアルな姿を良く知りたいの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜のコンカフェのバックヤード。メイド服から私服に着替えながらミユリとスピアの女子トーク。
「ラギィのヲカマを掘っちゃったンだって?」
「え。姉様、何で知ってるの?…まぁ軽くコツンとね」
「大丈夫?」
ムリヤリ大丈夫にするスピア。
「どうってコトのないタダの事故よ。ソレもエアリが私をからかうから、あんなコトになったんぴょ」
「からかうって?」
「姉様達エスパーは、一般人の私をビビらせて喜んでる。ホラ、エアコンに手をかざして、コップの中の嵐を起こしたりして」
まぁそんなコトしたの?と顔をしかめるミユリ。
「スピアも、何かエアリを怒らせるようなコトをしたんでしょ?」
「まさか。私は道端で困ってるエスパーに手を差し伸べただけ。エンストしてたから車に乗せてあげたの。少しは仲良くしようと思って…でも、向こうがあんな態度じゃ無理よ」
「わかった。テリィ様から話してもらいます。ソレで良いでしょ?だから落ち着いて」
頬を膨らますスピア。
「私は、冷静そのものだってば」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カフェのバックヤードでカウンセリングが始まる。
「妄想の中で、貴女はどんな仕事をしてる?」
トポラの問いかけにメイド達の答えは様々だ。
「プー」
「推しの恋人」
「サッカーの大リーグ選手」
「安泰JAZZ楽団のリードサックス」
「面白い質問ですね。いつもソレから聞くンですか?」
ミユリの答え。
「私は分子生物学者。アキバ工科大学の超古代文明研究センターのチームにいます」
「素敵な夢ね」
「ありがとうございます」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「じゃ少し現実的に。10年後、貴女は何をしてると思う?」
またまた回答は十人十色だ。
「ブラックパンダー工場のパートかな?」
「女子サッカーの大リーグ選手」
「次にこの質問ですか!いやぁさすがdeathね」
「人類は2.5thインパクトで絶滅してる」
「BOOKONの店員だ…いや、やっぱりブラックパンダー工場のバイトかな」
「分子生物学者です」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「じゃ次に人間関係の傾向を見る心理テストをやってみます。絵の中にいる子供達の中で、どの子が自分自身に似てると思う?」
トポラは、子供達が遊んでいる絵を示す。
「木のテッペンにいるガキ大将だわ」
「私は誰とも仲良くしない。友達ナンて要らないし」
「隣の子に傘を差し掛けてる子です。トポラさんはどれですか?」
「またまたツマラナイ質問ね」
ミユリの答え。
「木陰に隠れている子です…変ですか?」
「いいえ、面白い答えだわ。人付き合い苦手なの?私も昔はそうだったわ」
「貴女が?まさか」
伊達メガネを取り、ミユリを直視するトポラ。美人だ。
「大学時代、私は寮の部屋に閉じこもったママだった。でも、ある日気づいたの。それじゃ人生をしっかり生きているとは言えない。もっと積極的に生きなきゃって。でも、自分の殻を破るのは大変だったわ」
「破れましたか?」
「YES。しかも、破って正解だった」
ミユリもニッコリ微笑む。
「木の影から飛び出したんですね?」
「贈与、じゃなかった、そうよ。最初はごく小さなコトから始めると良いわ。例えば、1日1回勇気を出すとかね。要は努力の積み重ねなの」
「で、カウンセラーは何をなさったの?」
「私は、思い切って自分のTOになって欲しい御主人様に声をかけたわ」
ミユリは立ち上がって、バックヤードを出て逝く。トポラはミユリの所見に"秘密アリ"と描き込む。
第3章 パンピーがうらやましい理由
"東秋葉原UFOs"。ランジェリーフットボールのポスターを見上げながら実は出待ちしてるミユリ。
「わかったわ。じゃ今宵電話スルね。必ずよ。じゃあまたね」
女子トークを終えたフリして飛び出す。
「あ、テリィ様!」
「やぁミユリさんか。元気にしてる?」
「ハイ。とっても元気です。なぜ?」
上手く偶然を装う。地下アイドル通りの路地裏。
「ナゼって…そっか。ソレは良かったね。で、何かあったの?」
「いいえ。偶然お見かけしたので、タマタマお声をかけてみただけです。あくまで、偶然ナンですけど…木の影から出てみようかなって」
「木の影?何ソレ?美味しいの?」
意味ありげな上目遣い。ミユリの得意技だ。
「いいえ。何でもありません」
「…コンビニあるかな?」
「え。また、急にお腹が空いたのですか?」
マズい展開だわ。軌道修正しなきゃ。
「テリィ様。スピアとエアリがラギィ警部の車にヲカマを掘った話を聞いてますか?」
「ラギィから聞いたよ」
「スピアには、私からテリィ様にお話しスルと逝ったのですが…ホラ。あの子、エアリに対してちょっち…」
突っ込む。
「ちょっと何?」
「大したコトじゃアリません。ただスピアのベンツに何かしたらしいの」
「ベンツに何かって何を?話がピーマンだが」
塩回答にミユリさんはgive up。
「あの…実は手をかざしてエアコンをパワーアップさせたそうです。だから、テリィ様からスピアを余り怯えさせないでってエアリに伝えてもらえませんか?」
「え。わかったけど、エアリはミユリさんの子分、じゃなかった、属性だょね?そもそも、僕の話ナンか聞かないょ恐らく」
「ヲ願いします…そー逝えば、テリィ様。さっき、私に何か話があったのではナイdeathか?」
塩回答を連発スル僕。
「いいや。別に」
「そうdeathか」
「そうdeathょ」
期待外れのヤリとりに不満げなミユリ。唇を噛む。
「…それじゃ」
未練タップリに何度も振り返りながら去る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリはメイド2人をスタボに呼ぶ。
「ミユリ姉様!スピアって…あんな子、災難の種でしかナイわ。なのに仲良くしろですって?」
「いいえ。直ぐに仲良くしろとは逝ってないの。仲良くしてとテリィ様が話してくださるから、仲良くなるのはソレからで良いのょ。じゃお願いね」
「嫌death」
ケンモホロロだ。
「SF怪獣映画"メカゴジラ -2.5"の"ブラックホール第2.5惑星人"は、人類の進化をネジ曲げたりスル邪悪で恐ろしい存在ょ。私達"覚醒"したエスパーもそう思われて良いの?」
「姉様、ソレこそ思う壺だと思うの。その邪悪イメージを使って、あの"お喋りスピア"の口を閉ざすのょ。恐怖だけが彼女の口を閉ざすコトが出来るわ」
「いっそ(音波銃で)撃っちゃえば?」
マリレが悪ノリ。ミユリに睨まれる。
「冗談death、姉様」
「マリレ、その鍵はしまいなさい」
「はーい。でも、姉様だってコレが何の鍵なのか興味がアルのでしょ?認めたらどーなの?」
マリレは、ラギィが魔法瓶に隠した鍵を弄んでる。
「そんな鍵、何の意味もナイわ」
「だったら、この鍵を触った時に何で色んな光景が見えたの?あの死ぬ前に見えるとか一般人が言うトコロの走馬灯のように。私、死ぬの?」
「死なないわ、マリレ。ソレはアンタの心が歪んでるから見えただけ」
エアリが突っ込む。ミユリが話を元に戻す。
「で、どう思う?2人は、その鍵に何の意味があると思うの?」
「SATOが万世橋の資料を押収した際に、ラギィがコレだけは守った。つまり、ソレ
だけ大事なモノだってコトょ。例の巨乳女の変死体と何か関係があるのカモ」
「マリレ。ちょっと期待し過ぎてウザい」
エアリの容赦ないコメント。
「わかってる!でも、探ってみる価値はアルと思うの。もしかしたら、マルチバースの何処かにある自分の時空に帰れる唯一のチャンスなのカモ。ねぇ!何もせズにこのママ秋葉原で暮らすよりマシだと思わない?どー思う?姉様」
ミユリは、かぶりを振る。
「どうかしら」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"メカゴジラ -2.5カフェ"。シフト中なのに女子トークで盛り上がっているスピア。
「そうそう。そーなのよ!笑っちゃうでしょ?」
ボックス席で眉をひそめるエアリ。
「あのスピアって子、マジで頭…いいえ、失礼。口が軽そうね」
同席の僕とマリレも頭を抱える。
「腕利きのハッカーだって聞いたけどな…まぁ良いから何か話して来いょ」
「テリィたん。一体何を話せって言うの?」
「とりあえず、pm5時からの"メガポテト"ってがお得なの?とかさ」
突然ホールの真ん中でハデにコケるスピア。パンチラ。衆人環視の中、フラフラと立ち上がってウフフと笑う。実は御屋敷の突発イベントなのだが…
「もー絶対に嫌。あの子、頭も悪そう」
「確かに。全力でおかしな奴だな」
「テリィたんの元カノって、みんな変」
そうかもしれないw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリのカウンセリングは続く。
「化学者になりたいのね?素敵な夢だと思うわ。で、そう決めた動機は何かしら」
「"理科っ子カフェ"で初めて白衣メイド服を着た時、直感しました。あの硫黄っぽい匂いを嗅ぐのも心地良いです」
「(匂いフェチ?)ソレで自分が化学に向いていると思ったのね?」
変な理由だ。
「YES。化学者は謎に満ちた宇宙の解明を進めるチャレンジャーです。とりあえず、実験が計算通りに進むコトが快感なのです」
「何でも計算通りが好きなのね?」
「YES。どんなカオスの時でもスッと気持ちが落ち着きます」
爽やかに笑うミユリ。うーん何処か変w
「将来も計算通りに行って欲しい?」
「計画的であるコトは常に大事だと思います」
「時の流れに身を任せるのは嫌?」
キッパリと答えるミユリ。
「嫌いです。テレサ11じゃあるまいし」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日の"メカゴジラ -2.5カフェ"。
「ミユリ姉様!悪いけど、ホール係を代わってくれる?私、バックヤードで缶詰の在庫を調べてくるわ」
「スピア。どーしたの?いきなり」
「来てるのょアミダラ女王が」
眉を寄せるミユリ。
「私も女王なんだけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カフェのボックス席を占領して勉強中?のエアリ。
「OK?スピア、頼むから落ち着いて。ココは冷静に行動して。stay coolょ」
「私はいつだってcoolよ…やっぱりダメ。白状するわ。私、あの子が怖くて仕方ないの。あの日から、ズッと彼女に怯えながら暮らしているのよ」
「わかるけど…私達5人はもう運命共同体なの。アキバのためだと思ってエアリとも仲良くしてみて」
無茶苦茶な論理でスピアを追い立てる無責任なミユリ。
「わかった。いいわ。頑張る。私達カンパニーだモン」
「頑張って」
「やってみる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エアリの注文を取りに逝くスピア。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「そうね。メガポテトを頼むわ」
「メガポテトね?結構、量がアルわよ」
最小限の絡みでギコチなく歩き去るスピア。溜め息をつくエアリ。ソコに新規の御帰宅…ラギィ警部?
「ゼロコークをお願い。なぁに?ゼロコークぐらいアルでしょ?」
カウンター席に座る。ココもスピアがお給仕。
「え、ええ。もちろんアルわ。お持ち帰り?」
「えぇそーするわ」
「何か他に"聞きたいコト"は?じゃなかった、何か他にご注文は?」
エアリが恐ろしい顔をしてスピアを睨む。完全に動転しているスピア。カウンター席にコークを出す。
「実は、例の追突事故の件だけど、保険の手続きを貴女の方でしてくれる?決まりでね」
「もちろんします」
「スピア…どうかしたの?」
スピアの顔を覗き込むラギィ。
「え?何でもナイわ。全然平気ょ」
カウンターから身を乗り出すラギィ。
「私は、貴女を守りたいの。困ったコトがあったら何でも相談して。ソレも私の仕事だから。OK?」
突然ミユリがカウンターに入って来て話に割り込む。
「スピア。バックヤードで缶詰の在庫を調べて来て。ラギィ警部、他に何か御注文は?なければ、お勘定をお願いします」
「…お釣りは良いわ」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
コーラを手にお出掛けするラギィ。怒りの視線でソレを追うエアリ。胸を撫で下ろすミユリ&スピア。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カフェに元気なインバウンド一家が御帰宅。
「こら!やめないと"超能力センター"に連れてってあげないわよ」
「死ね、エスパー!」
「だから!やめなさい!」
お給仕中のミユリは、子供にオモチャの音波銃で撃たれる。ラッパ型の銃口に思わずのけぞるミユリ。
「ねえ超能力センターって怖くないわよね。エスパーの地球侵略ナンて、どうせ全部映画の中の話でしょ?」
「いいえ、私は未だ逝ったコトがナイもので」
「モチロンです。エスパーなんて秋葉原には1人もいません!」
スピアが助太刀に入る。が、子供が逆襲。
「じゃメイドさんは、ナンでそんなコスプレしてるの?」
ミユリ達は、銀ラメコスモルックにメタルのミニという"ブラックホール第2.5惑星人"のコスプレw
「余計なことを言うんじゃないの。ありがとうございました。ほら行くわよ」
言葉に詰まったトコロで、シングルマザーと思しき親子は向かいの超能力センターへとお出掛けスル。
テーブルを片付けるスピアだが…
「しまった!」
「どーしたの、スピア」
「ミユリ姉様。私、やらかしました!今のシングルマザーにお釣りを渡してナイわ!」
外を見ると親子は"超能力センター"に入って逝くトコロだ。呼んでも間に合わない。
「どうしよう。私達は御屋敷を空けるコトは出来ないわ。ソレでなくても満席なのに…」
「じゃ僕が届けてきてあげるよ」
「テリィ様。お願いしても良いですか?」
たまたま御帰宅していた僕が申し出る。ほら、困っているメイドを見ると放っておけない性格だし。
「テリィたん、マジでヲ願い出来る?」
「良いょ」
「助かります、テリィ様」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カフェの向かいにある秋葉原エスパーセンター。
"where did they come from?"
ゲートにかかる、いかにもインバウンド向けの急ゴシラエ感満載のチープなネオン管をくぐって入場。
「2000年1月3日。y2kに怯え、ミレニアムを祝う花火も消え人々がお雑煮を食べ終わった頃の話です。何の前触れもなく秋葉原に"リアルの裂け目"が開きました。エスパー達は、それまでもヲタクを調査するために、たびたび秋葉原にやって来たようです。しかし、その夜は事故が起きました。何らかの原因により1機もしくは数機のUFOが"リアルの裂け目"を出て秋葉原の大気に触れた瞬間に分解、墜落したのです」
熱心に聞くインバウンド。アジア系が多い。
「秋葉原特別区は、直ちに秘密の特務機関を立ち上げ、入念な隠蔽工作を行って、全てを闇に葬り去りました。では、あちらへ」
戦隊ヒロインのコスプレをした館長が誘導スル。
「しかし、秋葉原のヲタクの中には、当時の事件を目撃した者もいます」
次のコーナーは"リアルの裂け目"を出た直後に墜落したUFOの残骸だ。中にエスパーの死体が散乱w
「UFOの残骸は、地球上には存在しない金属で出来ており、紫色のヒエログリフが刻まれていたとのコトです。また、中にはあの歴史的に有名なエスパーの死体もありました。その検視解剖に立ち会った人もいます」
コスプレ館長が指差す先にエスパーを解剖してるマネキンのセット。バルーン製の内臓がハミ出てる。
「医師らは、家族を人質にとられ、決して口外するなと命じられたそうです。想像してみてください。これほど、恐ろしい事実を目にしながら、愛する人にも生涯隠し通さねばならない秘密。私には到底耐えられません。未だ独身ですが…さぞかし、辛かったコトでしょう。では、動画視聴の前に何か質問はありますか?」
真面目そうなアジアン少年が手を挙げる。
「はい!エスパーの超能力を研究スルために、人間がエスパーを解剖して殺したと言うウワサはマジですか?」
「そーゆー説があるコトを事実です」
「墜落したエスパーの救助船が"リアルの裂け目"から現れたコトはナイの?」
やや?例のシングルマザーか?意外に鋭い質問だw
「確かに以来、秋葉原ではUFOの目撃情報が多発しています。しかし、真相は全てナゾです。では、こちらへ…」
「1945年にも?」
「誰?」
振り向くコスプレ館長。鋭い声が飛ぶ。
「誰なの?」
僕は、息を殺して柱の影に身を隠す。
「…次はドキュメンタリー画像です。見学ツアーを続けましょう。プレミアムコース参加のみなさんは、どうぞこちらへ」
コスプレ館長に続きインバウンド達は、みんなバルーン製のエスパーやUFOを手にゾロゾロと歩く。
マネキンの医師が解剖しているエスパーの腹部からは同じバルーン製のハラワタが飛び出している。
何となく悲しくなる光景だ。
「死ね!エスパー!」
例のガキンチョだ。銃口がラッパ型に開いた音波銃の玩具で僕を撃つ。ママがすっ飛んで来て平謝り。
「あ、ごめんなさい!トビル、ヤメなさい。ジッとしてなさいと言ってるでしょ!」
「あ、ちょうど良かった。コレ、カフェのお釣りです。メイドさんに頼まれて持参しました」
「え?すみません、ありがとう。トビル!ママの言うコトを聞かないならヲウチに帰るわよ」
実はシングルマザーに弱い僕がウットリ見惚れていると耳元でささやく声がスル。ん?コスプレ館長?
「貴方、一体何を知っているの?」
「そーゆー貴女は何を知ってルンですか?」
「そー来る?わかったわ。明日、ココに来て。少しヲ話しましょ」
コスプレイヤーからの逆ナン!高鳴る鼓動、輝く未来…を打ち消す真面目アジアン少年の怒声が飛ぶ。
「スクリーンが見えないよ!」
映写機の前で話し込んでしまったようだ。
「OK?明日ょ。良いモノを見せて、あ・げ・る」
マ・クベの壺かな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アパートの窓から星空を見上げているミユリ。髪を下ろしヤタラと美人モードのエアリが話しかける。
「姉様、何を見てるの?」
「このマルチバースの何処かに、私達が生まれた時空が存在してるのかなと思って。きっとソコには、リアルなパパやママがいる。今までこの話題を避けてきたけど、貴女は考えたコトがアル?」
「毎日ょ」
フト遠い目になるエアリ。彼女は、地球が冷え固まった頃から生きている"妖精"だ。出生は神秘的。
「もし答えがワカルとしたら、貴女は知りたい?」
「ちょっと怖いわ。姉様、どうしてそんなコトを聞くの?やっぱりマリレが見つけた鍵が気になるの?」
「私達は、いつもヲタクの視線を気にして、でも、ヲタクとは関わらないように、ビクビク怯えながら生きて来た。でも、こんな暮らしがいつまで続けられると思う?先に進みたくはない?」
メイド服を着た妖精は肩越しにミユリを振り返る。
「そう考え始めたのはテリィたんのせい?」
「わからないわ」
「ヲタクに秘密を知られたのよ?どうして姉様は平気でいられるの?」
「ソレはヲタクが人類進化の形だと信じてるから。幼年期を経た人類は、ヲタクへと進化すべきなの。スーパーヒロインへではなくて」
スーパーヒロインは人類進化の象徴ではない?ソレどころかヲタクが進化の象徴だと逝うのか?では、スーパーヒロインは何のために"覚醒"したのか?
スーパーヒロインは…単なる突然変異体?
「姉様は、そう信じたいだけでしょ?私だってヲタクの推しが出来たら、そう信じたくなるわ」
「もちろん、今、何もかもヲさらけ出すのは危険過ぎるとは思ってるけど」
「ROG、姉様。とりあえず、あのスピアとかいう子の気持ちを確かめてみる」
立ち上がるエアリ。
「どうする気?」
「スピアを訪ねてみるわ」
「こんな時間に?百合夜這い?」
カラカラ笑うエアリ。
「例の手を使うわ」
「妖精さん。人の夢の中に入り込むのはヤメてと逝ったでしょ?そのせいで、前のメイド長は不眠症になっちゃったンだから」
「あの子の本心を知るにはコレしかナイし」
眉間にシワを寄せ睨むミユリ。
「姉様、お願い。ちょっとだけだから…じゃね」
出て逝くエアリ。溜め息をつくミユリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午前3時12分。
HP掲載のスピアの画像を指で撫でるエアリ。瞳を閉じベッドに横になる。指は画像に触れたママだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スピアは、夢の中でもコンカフェでお給仕中だ。
「こんなに食べ残して…やんなっちゃうわ」
「マジ最悪だわ」
「まるでブタの残飯処理みたい」
ミユリさんと愚痴をコボし合い残飯を片付ける。傍らで僕とエアリは翠髪に真っ白な能面みたいな顔。
虚な目でミユリさんとスピアを見上げてる。
「どうしたの、スピア」
「姉様!見て、この人達。テリィたんなの?」
「テリィ様が何?」
不気味に微笑むミユリ。
「だって…気持ち悪いでしょ?」
「何を言ってるの?普通の人ょヲタクだけど」
「姉様、しっかりして!」
翠髪の僕に寄り添うようにして微笑むミユリさん。フト目をそらすとソファ席にパジャマ姿のエアリ。
「エアリ?貴女、ココで何してんの?」
「貴女とも夢の中でならユックリ話せると思ったから。勝手に入らせてもらったわ」
「ソレ、どーゆーコト?」
パジャマ姿のエアリは語る。
「私は夢じゃないってコトよ。ココで貴女が見ている夢の中をちょっと覗かせてもらってる傍観者。でも、何か変ね。どーしてテリィたんだけはタキシード姿なの?」
「だって、タキシードだったら怖くないモン」
「怖い?貴女、何が怖いの?」
突然ベムの顔になったエアリは、スピアの首に触手を絡める。ヌルヌルと締め上げて逝く。
「助けて!ラギィに全て話すわ。ホントのコトを」
「あら?ホントのコトって何?」
「貴女達がマジ恐ろしいエスパーだってコトよ!」
突っ込むエアリ。大切なコトだ。確認が要る。
「貴女、マジで警察に話す気?」
「ラギィ警部、助けて!お願いよ!」
「フフフ。貴女の声は警部に聞こえてないわ」
じっくりメニューを見ているラギィ警部。何も聞こえてない風情だ。
突然ベッドから落ち、床で目覚めるスピア。毛布が頭に絡まってる。
「もういや!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
公式カウンセラーによるミユリの面談は続く。
「ミユリさん。貴女、今、何か悩みがあるんじゃないかしら」
「いいえ、全然」
「メイドとして育った子は、10代に自分の存在を否定する傾向がアル。自分とは何かと悩むのよ」
私は…とっくに10代じゃないし。ミユリは溜め息。
「メイドのキャリアと何か関係があるんですか?」
席を立ち、ミユリの側に立つカウンセラー。
「将来のコトを考えるには、先ず今の自分を理解するコトが大切なの。貴女は、優秀なメイドだわ。でも、コンカフェは期間限定店舗ょ。次はどーするの?」
「まだ先の話で考えてません」
「あら?そう先のコトじゃないわ」
だから何?
「とにかく、特に考えてナイのです」
「昔はどうだったの? 例えば5才児の頃は?味覚5才児じゃナイわょ。5才の頃のコトは覚えてないの?」
「ソレもメイドとしてのキャリアと何か関係が?」
微笑みと共に同じ答えが返ってくる。
「あるわ。過去の自分を理解しないと、未来へは進めナイのょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の超能力センター。チープなネオン管が紫や緑の明滅を繰り返す中、エスパーの死体が動く。
「え。何だ?」
ゴム人形の頭が動き後ろから現れるコスプレ館長。
「こんにちは」
「あら。もう閉館だけど」
「テリィです。昨日、お会いした」
人形の修理?をしていた館長は顔を上げる。
「もう来ないかと思ってたわ」
「会社があったモンで。実は、第3新東京電力で宇宙発電所に勤務してます」
「宇宙勤務なの?SF作家と二足の草鞋に加えて?…ま、良いわ。早速、本題に入りましょう。1945年に何があったのか、貴方は知ってるの?」
閉館間際とは逝え見学者が未だいるのに大きな声で大胆な発言をスルw
「で、貴女は何を知ってルンです?」
「…なかなかヤルわね。よーし。じゃ見せてあげる。別の時空からエスパーが来たと言う、紛れもない証拠を私は持っているのょ。見て…ほら!」
「え。」
館長は、ポケットからパスケースを出すと…ビニール袋に入った新聞の切り抜きをソーッと取り出す。
「その子供の横にエスパーの影が写っている」
未だ野菜市場だった頃のアキバの写真だ。ソフトクリームを食べている子供の横の壁にヒョロ長い影w
「さぁ貴方が知っているコトを話す番ょ!」
「(マジかょフザけんな!)すいませーん。実は、何も知らないんdeath」
「なにょマジ?」
写真を突き返すと館長は渋い顔。
「ただソレだけ?でも、貴方がこの世界にかなりの興味を持っているコトがわかったわ。何ならココで雇ってあげようか?給料は安いし仕事はきつい。でも、いつか1生に1度の大発見が出来るカモ…タバコは吸わないでしょうね?」
「すいません(親父ギャグ)」
「OK!大切な書庫を萌やされちゃかなわナイし」
思わせブリな顔。ウザいが食いついてアゲル。
「書庫?」
「エスパー関連の資料を網羅した書庫がアルの。あの階段の上ょ」
「おおっ!」
一応驚いてみせたが、指差す先はボロい部屋w
「エスパーの目撃情報とか?」
「YES。インバウンド相手に儲けたヲ金を全て注ぎ込んでる。1947年以降の秋葉原外生命体の情報が、全てあのドアの向こうに眠っているの!」
「何と!…の勅令は1598年」
自分で自分が嫌になる。館長が指差す先には天井から吊ってある銀のチューブにタラップがついてる。
「一般公開は?特別拝観料とか取るのか?」
「興味深々って顔ね。貴方を見てると悩み多き青春時代を思い出すわ。私はエスパーの探索に人生を捧げてきたの。ママのお墓に誓ったわ。いつかエスパーを探し出すとね。その時に言ってやるわ。やっと見つけたぞ、このエスパーめ!」
「え。僕か?」
僕を指差す彼女。その指先を寄り目で見るw
「どう?ココで働く気になった?面白いわょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"メカゴジラ -2.5"カフェ。
残飯片付け中にドジっ子イベント発動でハデに転ぶスピア。パンチラ。ボーナスを考えフフフと笑う。
「残飯の片付けが1番タイヘンみたいね。歯槽膿漏学会って豚みたいな食べ方スルし」
知った風のセリフに振り返ると、万世橋のラギィ警部(私服)が座っている。スッカリ動転するスピア。
「け、警部。どうしたんです?」
「え。警部が朝食で御帰宅したらヘンかしら。今日はヲフなんだけど…ねぇボードに描いてあるスペシャルは奨めてくれないの?」
「"エスパー天国スペシャル"ですね?」
サッサと注文を描き留め遁走を図る。
「ちょっと待ってょ。ソレ、美味しいの?」
「もちろん!じゃヲスペ1と…」
「何たってスピアさんは、秋葉原の情報通だから。私は貴女の言うコトなら信用スルわ」
おだてられてる。警戒するスピア。
「…ヲ持ち帰りですか?」
「いいえ。せっかく座ったんだモノ。ココで食べていくコトにスルわ」
「そうです…か?」
全く何しに来たのかしら。
「ソレはソレとして、事故車の面倒は、ぜーんぶ保険会社がみてくれるコトになったわ。頼れる保険会社がアルって良いコトね。ところで、首はどう?」
「首?首が何か?」
「ホラ。貴女達が和泉パークで(無許可w)レイブをやった夜、貴女はケッテンクラートにハネられ、首を打ったわょね?」
エスパー騒ぎのあった夜のコトだ。あの夜はウマくゴマかしたけど…やっぱり疑ってルンだわ!
「あぁ!アレならもう何ともありません。ご心配どーもdeath」
「どーも貴女は最近災難続きみたいね?どうかしら、1度ゆっくり話がしてみたいんだけど。明日にでもオフィスに来てくれない?この時間に」
「げ。何で?」
驚くスピア。問答無用と立ち上がるラギィ。
「やっぱり朝食はテイクアウトにスルわ」
スタスタお出掛け。呆気に取られるスピア。ボックス席から一部始終を見て怒りを露わにするエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕達のアキバの居場所(address)"マチガイダ・サンドウィッチズ"。ヲフタイムのメイド達が憩ってる。
「あ。ミユリさん、マチガイダにお呼び出しナンて何ゴト?今、休憩?」
「YES。しかし…すっかりテリィ様達を巻き込んでしまって」
「え。そんなコト気にスルなょ」
何を逝い出すつもりかな。
「でも"私達の秘密"を守るのは大変では?」
「"私達の秘密"ってBlaboな響きだな!モチロン大丈夫さ。僕は誰にも話さない」
「テリィ様のコトは信じています。でも、スピアはどうでしょう?」
げ。そっちかゲロゲロ。
「スピア?スピアなら(恐らく?)大丈夫。絶対に裏切ったりはしないサ(恐らく?)」
「でも、エアリから聞きましたが、明日ラギィ警部と会うらしいのです」
「え。マジ?うーん(恐らく?)大丈夫。絶対余計なコトは話さない(恐らく?)」
だって、ラギィも僕の元カノで、元カノ会の会員でもアル。そして、僕の元カノ会の会長は…
「そうdeathか。なら、良いのですが、ちょっち心配だったので。ホラ、テリィ様の元カノのみなさんって、みなさんちょっち…」
「(ちょっちナン何だ?)まぁ基本ドジっ子でよく感情がブチ切れそうになる時はアルけど、芯はしっかりしている(カモしれない)」
「意外と冷静ってコトdeathか(とても信じられませんけどw)」
僕の元カノ達の評判は散々だw
「確かに冷静とは逝えないが…ソレより何より、何て申しましょうか、感情が出やすいっていうか…あのさ。スピアは僕の元カノ会の会長ナンだ。だから、僕はスピアを信じる。間違っても僕達、就中、僕を裏切るようなコトはしない。だから、明日は大丈夫さ。安心して」
「わかりました。ただ心配だっただけです。私達"覚醒"した腐女子にとっては…」
ふと視線を落とすミユリさん。アンニュイ萌え。
「ワカルょ。大丈夫さ。僕からもスピアに話しておく。約束だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
公式カウンセラーの面談も大詰め。AIがメイドとの質疑を学習し各メイドの10年後の姿、適職を示す。
「はい。AIが貴女の適職を教えてくれたわ」
メールを見てメイド達の反応は様々。
「作家?マジ?スゴーい」
「法律家?ウソでしょヤメてょ」
「心理学者か。ところで、先生はどんなきっかけでカウンセラーなんてやってるの?」
「コンビニ店員!」
エアリの場合。
「エアリ。貴女、自分自身のコトをチャンと理解してると思う?」
「思うわ」
「じゃ結果を見たら驚くわ。確か夢はスーパーモデルだったわよね」
微かに不安がよぎるエアリ。
「AIは何て?スーパーモデルとしての素質はアルと思ってるけど」
「でも、AIは貴女が"暖かい家庭を望み人の世話をするのに向いている"ですって」
「何ソレ?」
鼻で笑うエアリ。
「自分にとって何が大切か良く考えてみて」
「全然当たってないわ、ダメねAIは」
「あのね。一般人の平凡な生活を望むコトは決して悪いコトじゃないのよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は、コンカフェに御帰宅してスピアに粘着w
「OK?レイブの夜は車に轢かれた瞬間、気絶しちゃったってコトにスルんだ。じゃ練習してみるぞ。僕はラギィの役で…メイドさん、君はレイブの夜、駐車場で何を見たのかな?」
「誰も見なかったわ。ヘッドライトだけ」
「OK!素晴らしいな。さすがは僕の元カノだ」
いつもなら大喜びするトコロだが、もーウンザリって顔のスピア。どーも僕は空回りしているようだ。
「タイヘン!ねぇ!あの銀色のUFOは何?」
「さぁ気絶しててわからないワ…ねえ、テリィたん。コレって何だかバカバカC。警察には絶対通用
しないわ。いっそのコト、ラギィに打ち明けちゃったらどう?相談にノッてくれるカモ」
「…スピア。まさか、警察に守って欲しいンじゃナイだろうな。ミユリさん達から」
すると、泣きそうな顔になるスピア。
「そうよ!認めるわ、多分そーね!何を言われても私はテリィたんとは違う。怖いものは怖いの。自分の行動は自分の意思で決める。じゃ行って来るね」
決然と歩き去るスピア。まるで、同棲を解消した、あの日のように。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー沿いの修理工場。
「送ってくれてありがとう、私のTOサマ」
軍用サイドカーKS-600から降りるエアリ。ソレを見たスピアが立ち上がる。メカニックが声をかける。
「ヘッドライトの修理だったね。君のベンツG4型は直したよ。コッチはラジエターだね。じゃレジで支払いを頼むよ」
汗を拭きながら2人に声をかける。それぞれうなずきながら、互いに視線を交わすスピアとエアリ。
何となく気まずい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。コンカフェ。ミユリさんに絡む僕。
「テリィ様。スピアはソワソワしてたのですか?」
「YES。その、あの、何て逝うかわからナイけど、何となく気が立ってたみたいだ」
「ソレは…私達の秘密を喋りそうだったってコトでしょうか?」
かぶりを振る僕。
「ハッキリはワカラナイけど、スピアは正直に話してしまうカモ」
「だから、ヲタクを信用するなと言ったのに」
「エアリ。マジでゴメン。僕がスピアに打ち明けたりしなければ」
さらに辛辣なセリフを僕に浴びせようとするエアリを制止して、ミユリさんが割って入ってくれる。
「テリィ様は元カノを信じてたの。スピアに私達のコトを相談したいと思うのは自然な感情ょ…ところで、テリィ様はナゼ私に話してくださったの?」
「信じてたからさ」
「私を?」
YES。頬に指を当て微笑むミユリさん。萌え。
「この間、話してた"木の影から飛び出した"って奴deathか?」
「ある人にアドバイスされたんだろ?"勇気を出せ"って」
「…で、テリィ様は、勇気を出して何をしたの?」
ミユリさんは、真っ直ぐに僕を見る。
「推した…君を」
第4章 お礼を逝うトコロ
万世橋。ラギィのオフィス。
「良く来てくれたわね、スピア。ところで、貴女は何か悩みでもあるの?」
「ソレは腐女子としては色々と」
「私が思うに、貴女は誰かをひどく恐れ、ソイツの言いなりになっているわ。違う?私は、貴女を助けたいの。ソレはワカル?」
うなずくスピア。
「だったら話してみて。和泉パークのレイブの夜、何があったの?駐車場で誰と会ったの?」
「何も見てません。ヘッドライトだけ見えた」
「ウソつかないで!ソコに誰かいたのでしょ?」
現職警部の迫力にタジタジになるスピア。
「だ、だ、だって気絶してたから」
「なぜ署に呼んだか分かってるでしょ?ココでの偽証は全て犯罪になるの。ウソはつきっこナシ。腹を割って話すしかナイわ。どう?」
「わ、わ、わかりました」
立ち上がるラギィ。
「エアリは何者?」
「ヲ、ヲ、同じメイド仲間です」
「なぜ彼女を恐れるの?」
もはや尋問だ。いや、コレは取り調べ?
「べ、べ、別に。恐れてないし」
「ミユリやマリレとはヲタ友なの?」
「い、い、いいえ。単なるリア友death」
もう1歩だわ。ラギィは変化球を投げる。
「実はね、スピア。貴女と私には共通点がある。私も元カレとは縁が薄かった…私は、私が新橋鮫と呼ばれて尖がってた頃にテリィたんと出会ったの。そのコトは知ってる?」
「いいえ。全然」
「テリィたんは、妄想ばかりしてたけど、ある信念を持っていた。エスパーは存在スルと固く信じていたの。バカげてるでしょ?」
ワナだわ。慎重に言葉を選ぶスピア。
「別に」
「みんなが非難したわ。でも、テリィたんは自分が地底人だと言い張り、決して意見を曲げようとはしなかった。そのために、テリィたんは原子力発電所の副所長の座を失い…私は失恋した」
「そ、そーなの?」
僕が原子力発電所の副所長を卒業したのは、宇宙発電所の所長になったからだょw
「貴女とは、もう1つ共通点がアル。気づいてる?私達は、最近あるコトで傷つき、悩んできた。今まで正しいと思っていた信念が揺らぎ始めた。でも、そんな私達が秘密を共有出来れば、お互いの不安な気持ちが少しは和らぐハズょ」
泣き出すスピア。やったわ!突っ込むラギィ。
「エアリは何者なの?」
「特別な存在ょ」
「どう特別なの?」
「私とは違う」
「だ・か・ら!どう違うの?エアリは、貴女とどう違うの?」
涙をふくスピア。決断と前を向く。
「私は…元カレに恵まれてる」
息を飲むラギィ。
「メイドは、絶対に不幸な恋などしない。この秋葉原では」
溜め息をつくラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋からの帰り道。
修理したばかりのケッテンクラートが和泉橋の上でエンストしてる。通りかかったスピアが声をかける。
「エアリ!私を待ち伏せしてたの?」
「…貴女、1人なの?」
「警官隊でも連れて来ると思った?」
初めて笑顔を見せるエアリ。
「貴女、ウソをついたのね?」
「まぁついたカモ」
「そう…怖かった?」
率直にうなずくスピア。メイド同士の友情が芽生える。
「超怖かったわ…でも、少しだけ、貴女達の気持ちがワカッタ気がしたわ」
「変な人。しかし、貴女ったらヒドい顔ね。ウソ泣きでもしたの?」
「ヒドーい。ココは"ありがとうスピア"って素直に感謝するトコロじゃない?…まぁ良いわ。で、乗ってく?空調は効かないわ。オープンカーだから」
黄昏の昭和通り。助手席に滑り込むエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバは"妄想ウィーク"だ。
電気街口では、色んな御屋敷のメイド達が推し寄せるインバウンド相手にウィークのビラを配っている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"アキバで働くミユリのブログ 私は、今まで未来は真っ直ぐな道だと思っていた。でも、人生には時には十字路があり、そこで迷うコトには意味があると思うようになった。いや、迷うからこそ、人生は面白いと思えるようになったのだ。時に交差点で立ち止まり、気まぐれに心を開き、ヲタ友との出会いを受け入れ、そして、生きて逝こうと思った。コレからも、このアキバで"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
電気街口。
インバウンドで溢れかえるアキバのTimes Squareで僕達5人は輪になる。突然いなくなるのは…エアリだ。僕はマリレと他愛ないミリヲタ話をしてる。
ミユリさんがスピアと向き合う。2人は微笑みを交わし合う。ソコには無限の愛と正義がアル。今、アキバは"dream the future"の真っ最中だ。
僕のメイド達は、春の陽光の中を歩いて逝く。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"女子同士の軋轢と友情"をテーマに、スーパーヒロインとそうでナイ者の間に芽生える女子の友情を描いてみました。"ミユリのブログ"シリーズは、今まで200話ほど描いたアキバが舞台のSFミステリーもののスピンオフで、アキバが萌え始めた(PCヲタクの街から脱却を始めた)頃のアキバを舞台にしています。大変気に入った設定なので、しばらく楽しみながら描いて逝こうと思います。
ジュブナイルの原点に回帰し、特にサイドストーリー的な伏線は張ってませんが、当時のアキバ風俗を意識して描いてます。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、非ヲタク系インバウンドで溢れかえる国際観光都市、秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。