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第9話 魔女の家6

 決意も新たにし、グレンは改めて森の魔女の家族となったことを噛みしめていた。


「あしたから……がんば……り、ます…」


 疲労からの安堵、お風呂で緊張が取れ、食事をしてお腹も満たされた。

 グレンの身体は休息を欲しがっていた。

 

「今日は疲れたでしょ、しっかりと寝て、ゆっくりとお休み」

「んなー、じゃあ部屋に案内するか。うちらの部屋の隣でいいよな?」

「そうだね、取り合えずベッドと布団があればいいんじゃない?」

「にゃー、先に行って準備しとこう」

「任せた」


 グレンがくっ付きそうな瞼と格闘しているうちに、クレアと寅吉はさっさとグレンの部屋のことを決めてしまい、寅吉はトトトっと階段を駆け上がっていく。


(ぼくの……へや?)


 半分寝ぼけた頭の中で、言葉を反芻するがいまいち状況が飲み込めない。


「さっ、子供はもう寝ないと。君の部屋はこっちだよ」

「ふぁい……」


 グレンはクレアに連れられて家の2階へ階段を上がっていく。

 一歩一歩が大分フラフラとした足取りになっているが、クレアの背中を見ながらなんとか着いていく。

 階段を上がった先には一本の廊下があり、左右に()()()のドアが並んでいた。


(あれ……こんなにおおきないえだっけ……)


 空の上から見たクレア達の家は2階建てで、グレンからしたら村長の家より綺麗な家だな、と思ったくらい大きさだったはずだ。


(まちにあるっていう、おやしきみたいだ……)


 クレアは上がって幾つかの部屋の前を通り過ぎていくと、まず1つ目の部屋の前で立ち止まる。


「ここは私の寝室だよ。何かあったらここに来てね」


 ドアには「クレア」と書かれたプレートがかけられており、部屋を間違えることもないだろう。

 クレアは更に隣の部屋を指さしながら続ける。


「あっちが寅吉の寝室だよ。で、その奥の灯りが点いている部屋がグレンの部屋だね。行ってみようか」


 寝ぼけ眼のグレンを促し、寅吉の部屋の前を通ってグレンの部屋に辿り着く。

 因みに、寅吉の部屋のドアには特に何も表示は無かったようだ。


「んなー、来たな。とりあえずベッドと布団にシーツ、毛布も用意してみた。あとの家具とか小物はまた後日にしよう。今日は休んだ方がいい」

「ありがとう寅吉。グレン、もうお休み。今日はゆっくりと寝て、明日から色々やっていこうか」

「……ふぁい」

 

 欠伸とも返事とも取れる声をあげて、グレンは促されるままに布団の中に潜り込む。

 清潔なシーツと布団、変な匂いもしないし汚れてもいない。

 ベッドのマットはふかふかでグレンの体を包み込んでくれる。

 掛け布団はふんわりとした羽毛布団で、掛ければ心地よい暖かさがグレンを夢の世界へと誘う。


「「お休み」」

「おやすみ……なさ……い……」


 クレアと寅吉は灯りを消し、そっとドアを閉じて部屋から出ていく。

 残されたグレンは眠いが、妙に冴えた頭でまだカーテンの着いていない窓から、よく晴れた夜空を見上げていた。

 窓の外には森が広がり、真っ暗な闇が広がっている。

 空には星が輝き、大きな満月が丁度真上に来ていた。もう1つの三日月は地平に追いやられ、今は見ることができない。


(すごい、いちにちだったな……あしたから、ばんば……ろ……)


 グレンはゆっくりと目を瞑り、そして間も無く意識を手放す。

 落ちるように眠ったグレンの口元には笑みが浮かんでいた。


 ◇◇◇


「もう寝たかな?」

「にゃ、そうだな。今日は疲れてるだろうからな」


 グレンの部屋を離れてダイニングに戻ってきたクレアと寅吉。

 クレアは椅子に座り、寅吉はお茶を入れている。

 沸かしたお湯を一度湯飲みに入れ、茶器を温めながらお湯の温度を下げる。

 急須に緑色の茶葉を入れ、温度を下げたお湯を注いでいく。


「うん、そうだね。寅吉ごめんね、相談しないで決めちゃって」

「んにゃ、それこそ今更だな。それに……あの位の子供が苦しんでいるのを見たくないからな……」

「そうだね……私も、孤児院の時の事を思い出しちゃってね……放っておけなかったよ」


 茶葉が開き、急須の中で踊る。

 ゆっくりと抽出してから湯飲みへと注いでいく。

 緑色のお茶を持って、寅吉がクレアの前に座る。


「俺も同じだ。あの子を見た時、あの時の事が脳裏を過った。目の前に救える命があるのに、救わない選択肢は無い。まぁ家族契約のことは一言欲しかったかな。反対はしないけど、見極める時間は欲しかった」

「ごめん。あの子、生きる意味を失ってたから……私が無理矢理、理由を付けたんだよ。大丈夫、心と心を繋いで見た景色は、澄んでいたよ。厳しく、辛いことも沢山あったけど、折れず曲がらず、真っ直ぐな視界だった……」


 クレアはグレンと家族契約の魔法を通して見た光景を寅吉に話し、寅吉が心配するようなことはないと説明する。


「むぅ、まあそこは信頼しているよ。実際年の割にしっかりしていて、いい子だしね。あとブラッシングが上手い」

「ありがとう。随分と気持ちよさそうにしてたもんねぇ〜?私のより良いのかなぁ〜?」

「んな〜、それはそれ、これはこれだ」


 クレアは脱衣所での一幕を思い出し、笑いながら寅吉を揶揄う。

 寅吉も満座でもなかったようで、若干照れながらそっぽを向いている。

 椅子から出た尻尾はゆっくりとゆらゆら揺れており、怒ってはいないようだ。


「ふふ、そういうことにしておいてあげる。で、明日からはどうしようか?とりあえずここの生活に慣れてもらうことが先決だよね。それから文字や数字とか計算とか、とりあえず初等教育を受けさせる感じかな?」

「にゃ、そうだな。今の村じゃ、大した勉強なんてしてないだろうしな。そのあとは魔法と魔術、武術の訓練と体力作り、それから生活の糧を教えないと」

「魔法とかは私が、武術と体力は寅吉が教えるでいいいね。料理とかもお願いしようかな。好きでしょ?」


 寅吉の尻尾がぶんぶんと振られている。


「んなーまあな。趣味ではある。グレンも色々と興味を示していたからな、好きなものを好きなだけ学んでもらおう」

「私たちの為にもね!是非漫画とか描いて欲しいな〜」

「趣味を押し付けるなよ。推しの押し売りは禁止だ」

「分かっているって、グレンも抜け駆けしないでよ?」


 またも脱衣所での話を持ち出され、グレンは横を向いてしまう。

 尻尾は丸まっているので反省はしているようだ。


「むぅ……承知……とりあえず、明日はどうする?」

「そうだね、まずは家の中と外を案内して、簡単なルールなんかを教えるようかな。あとは……あー私は樹海の様子を見に行かないとだな……」

「俺もグレンの村の事が気になる。村を襲った魔獣は樹海に沈んだと思うが、他にも魔獣が彷徨いている可能性があるからな。できれば浄化しておきたい」


 クレアと寅吉は先程とは一転、真剣な表情で話し始める。


 グレンの村を襲ったのは魔獣だったようだが、あの場で樹海となって消えた一団でよかったのかどうかは分からない。

 クレアも自らが生み出した樹海の様子を確認したいようだった。


「仕方がない……明日は軽く家の周りを案内だけして、グレンには家で待っていてもらおうか」

「にゃ〜、それしかないか……1日で終われば良いが……」


 寅吉は若干遠い目をしながら天を仰ぐ。


「まあ、あの子なら留守番くらいは大丈夫でしょ。滅多に誰か来るわけでもないし」

「確かに……それフラグ?」

「え゛っ!?やばいかな……?一応結界も張ってあるし、魔獣何かは近付いて来ないようにはなってるから……大丈夫でしょ……多分」

「めっちゃフラグじゃん……」


 どこかの漫画の襲撃フラグじみたことを言い出すクレアに、寅吉が呆れて突っ込む。

 

「私、帰ってきたらお風呂に入るんだ……」

「んにゃ、そんな雑な死亡フラグで打ち消そうとしないで……しかも帰ってきてお風呂とか普通だし……」

「いやー今の時代じゃ普通じゃないからね」

「お風呂入りたくて死んだら笑っておくよ」

「いやいや、ちゃんとお風呂入れれば生き返るかもよ?」

「フラグ折れたから?」

「そうそう」

「んなことあるかい!」

「あははははは」


 お茶を飲みながら、家族3人の初日の夜が更けていく。

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