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第5話 魔女の家2

第5話 魔女の家2

 グレンはトントントンと階段を降り、台所へと向かう。

 

「寅吉さん、きがえてきました」

「にゃ、じゃあその鍋に水を半分位まで入れてくれ」

「はい」


 まだ陽はまだ昇り始めたばかりで、朝の優しい光が窓から差し込んでくる。

 窓にはガラスがはまり、まだ朝方は肌寒い気温の季節だが、身体を凍させるような隙間風は入ってこない。


「このいえは、ぜんぜんさむくなくていいですね」

「んなー、そうだな。俺が寒いの苦手だからな。クレアと厳重に防寒してるんだ。それこそ遺跡の技術や魔法を組み合わせて、なるべく快適に過ごせるようにしてるんだ」


 鍋に水を張り、両手でえっちらおっちら運ぶグレン。


「ここに置いてくれ」

「はい」


 寅吉に指定された場所に鍋を置き、寅吉の指先が鍋の置かれた台に触れる。


(にくきゅうかわいい……)


 寅吉の猫よりは大きな手を見ながら、グレンはそんあことを考えていた。

 その指先に光が灯り、台に魔法陣が浮かび上がる。


「お湯を沸かしている間に他の料理を作ろうか」

「――はい」

「まだ、魔道コンロに慣れないか?」

「はい……すごいなーっておもって」

 

 グレンが見惚れていたのは、寅吉が操作していた魔道コンロだ。

 グレンの村では薪を使って竈門で煮炊きするのが当たり前だった。


「やってみるか?」

「……いいんですか?」

「魔力を使えないと反応しないからな、まあ試してみろ」


 グレンはそっと魔道コンロに指先を近付け、なぞってみる。

 指先から何かが流れ出していく感じがする。

 ブオンと魔道コンロが音を立て、火力を表す表示が増えていく。

 

「わっ」

「お、動かせたな。何も訓練してないのに魔力を使うことができるのか……凄いな……」


 寅吉は感心しながら火力を元に戻し、グレンをマジマジと観察する。


(元々魔力の適正が高いのか……恐らく内包する魔力も多いのだろう。クレアに詳しく調べてもらうか)


 見つめてくる寅吉に若干緊張しながらグレンが口を開く。

 

「このみずがでてくるやつは、ぼくでもつかえるんですよね」


 グレンが指差す先には水道の蛇口があった。


「水道か。まあ本当の水道って訳じゃないんだけどね。これは地下に掘った井戸から魔力を使って吸い上げているんだ。まあグレンが使えるように改良してあるけどね。本当は水を生み出す魔道具なんかもあるんだが、あれだと水の味が違うんだよな……やはりミネラルなんかが含まれてないと駄目なんだ。純水な水は味がしないのが良くない。それに料理によっては軟水や硬水を使い分けないといけない時もある。実に奥深い。因みに、隣の蛇口はお湯黙せるが今回は出汁を水から取りたいから無しだ」

「そうなんですか?」

 

 グレンに難しい話は分からなかったが、寅吉の拘りは伝わってきた。

 そもそもこんな魔道具は見たことがない代物だ。

 存在自体は両親の会話等から聞いことがあったが、実物をみるのは初めてだ。

 毎朝村の井戸に行き、桶に水を汲み、家の水瓶に運ぶ。

 グレンの朝の大事な仕事だった。

 それが当たり前だったし、大変でもあった。

 使ってみるとどうだろう、なんと素晴らしいものなのだと感動したものだ。


「まずはこの昆布と煮干しを水に入れて、ゆっくりとお湯にしていく。これが中々良い出汁がでるんだ」

「こんぶ?にぼし?カチカチですね」

「にゃ、昆布は海藻を乾燥させたものだし、煮干しは小魚を乾燥させたものだからな。他にも鰹という魚を燻して乾燥させて作る鰹節なんて物もある。これらは皆料理の基本となる出汁を取るためのものだ」


 寅吉は魔道コンロの火加減を調節しながら色々な出汁の取り方を説明しだす。

 昆布を入れ、煮干しは頭と腹を取りながら入れていく。


「この頭と腹は苦味になるからな、ちゃんと取ると良い出汁が出る。ハムっ、うむ美味い」


 寅吉は取り外した煮干しの頭と腹をガリガリと食べながら説明を続ける。

 スープなど野菜を煮込んで塩で味付けした物しかしらない。良くて村の猟師が取ってきてくれた獣の肉の欠片が入るくらいだ。

 あるいは、少し行った所にある海で取れる魚や貝があればご馳走だ。

 こんな丁寧に料理とするところは見たことがない。

 

「グレン、外の畑から野菜を取ってきてくれ。そうだな……出てすぐの所に白くて太い根の野菜と、隣に緑色の葉っぱの野菜が植えてある。それを取ってきてくれ」

「はい」


 台所を出て、靴を履いて玄関の扉を開ける。

 眩しい朝の光がグレンの顔を射す。

 綺麗に整えられた庭、花が咲き、小道が作られている。

 美しい庭を横目に家の裏手に回り込む、 広々とした畑が広がり、見たこともない野菜が育てられている。

 今はまだ冬の終わり、春の始まりの季節だが、どうやって育てているのか様々な種類の野菜が実り、葉を伸ばしていた。


「このしろくて、ふといやつかな?」


 青々と茂った葉っぱを両手で持ち、腰を入れて引っ張る。


「――っわ」


 勢いよくズボりと抜けて思わず尻餅をつくグレン。


「よっと、つぎは」


 立ち上がり、ズボンの土を払いながら隣に植えられた緑色の葉物野菜を幾つか抜き取る。


 両手で野菜を抱えながら落とさないように家に戻る。


「あのおふろもすごいよな……」


 家の裏てにある離れと言っていい場所にお風呂専用の小屋があった。

 いやこやと言っていいのか分からないレベルの代物だ。

 何せ、脱衣所から休憩スペースまであるのだ、

 休憩スペースには何故か冷えた牛乳が置いてあり、風呂上がりに飲めるようになっている。


「きょうも、はいっていいのかな?」


 この家に来てから毎日お風呂に入っている。

 それこそ村の生活では考えられない話だ。

 汲んだ水で体を拭くのが精々で、夏等は川で水浴びができればいい方だ。


「あっ、はやくもどらないと」

 

 そんなことを考えながら風呂場を眺めていると、手にした野菜に気が付き、グレンは家へと急いで戻って行った。


 ◆◆◆


「さて、日も暮れてきたしそろそろ戻ろうか」

「にゃ、そうだな。でもどうするクレア?もう此処は樹海に沈んじゃったし、もう発掘するの大変になるよ?」

「そうだね。ちょっと流儀に反するけど、貴重な遺産を失うわけにはいかないからね。一気にやっちゃいますか」


 クレアと寅吉はお互いにお目当ての本を見つけてそろそろ帰ろうかとしていたが、都市遺跡の貴重な遺産を捨ておくのは勿体無いと、クレアが何かするという。


「こんなにたくさん、もってかえれるんですか?」

「まあ見ててよ、面白いもの見せてあげるから。ちょっと大規模だから杖の力を借りようかな」

「にゃ、グレンはこっちに来てなさい」


 グレンは寅吉の側で遠巻きにクレアを見つめていると、クレアは手にした杖を天に掲げて呟く。


選択(セレクト)――無――」


 先程は緑色に輝いた杖の先端の宝玉が黒い色に変わる。

 全てを吸い込むような黒。

 周囲に浮いている宝玉が四方に飛び散っていき、目に見える範囲から消えてしまう。


「んなー、クレア?全部いくの?」

「うん、もうね、やるなら全部。対象は私、寅吉あとグレンの思考でいいか?」

「にゃ、構わないよ。グレン、ちょっとお前の思考をクレアに預けるけどいいか?」


 グレンはいきなり思考を預けろと言われても何のことか分からず、黙って頷くことしかできなかった。


「了解!それじゃ、いっくよー。収納!」


 足元に巨大な魔法陣の一旦が展開されていく。

 巨大すぎて足元で光っている光の帯と謎の幾何学模様しか見て取ることができないくらいだ。


「えっ、えっ」

「まあじっとしてろ、害はないから」


 寅吉に言われるまま、じっと幻想的な光景を見つめるグレン。

 魔法陣が完成したのか、より一層輝きが増す。

 その瞬間、棚や地面に落ちた本や様々な遺産が宙に浮き、魔法陣の中へと沈んでいく。


「すごい!なんですかこれ!?すごい!!ぼくも、しりたい!やってみたい!ぜんぶしりたいです!!!」


 グレンは興奮しながらピョンピョンとその場で飛び跳ね、寅吉とクレアを交互に見ている。

 その時、今ままで魔法陣の中に沈んで行かなかった書棚やその他の物達まで全てが宙に浮きだし、魔法陣の中へと沈みはじめた。


「にゃにゃ!クレア!どうゆうことだ!?術式の対象が拡大してるぞ!」

「――グレンの思考だ。グレンが全部欲しがってる。幼さ故だろうが、この遺跡全てのものに興味を示している……ふふ、まったく強欲だね。でも将来有望かも、何せ無限の知識欲だよ!きっとすごい男のになるよ!」

「えっ?ぼく、なにかやっちゃった?」


 グレンが興奮から一転して、心配そうに寅吉とクレアを見やる。


「問題ないよ!君の望み通り、全部持っていこう」

「にゃはは!後の整理整頓が大変そうだな!グレン、手伝ってもらうからな」

「――はいっ!」


 訳は分からないが問題はないようだ。

 暫し興奮冷めやらう様子で目の前の光景を眺めていると、やがて全ての収納が完了しなのか、魔法陣が輝きを無くして消えていく。


「ふうー中々大量だったよ。森の力も借りちゃった」

「んなー、どこまで範囲設定してたの?」

「んーこの都市遺跡全域?」

「にゃ!やりすぎだ……」

「あははーまさかこんなことになるなんてねー。やればできるもんだね」


 何やら大変なことになっているようだが、クレアも寅吉もそんなに深刻にしていないように見える。

 グレンは興奮から醒め、冷静に考えながらもホッと肩をなで降ろす。


「さて、じゃあ帰ろうか。もう月が出て来ちゃう時間だ」

「本当だ、今夜は三日月と満月だったかな?」


 空を見上げるクレアと寅吉につられて、グレンも暗くなった空を見上げる。

 空には三日月が浮かび、此処から見えなが地平線にはそろそろ満月が浮かんできてるのだろう。

 双子の月が出会うまでにはまだ時間があるが、それでももう夕方を過ぎた頃合いだ。


「さぁ帰ろー帰ろーもう面倒くさいから一気に帰ろうー」

「にゃ、じゃあ空から帰る?」

「そうだねー、グレンもいるし、早くお風呂に入りたいしね」

「おふろ?」


 もはや驚かないあが空を飛んで帰るらしい。

 そのことよりも、お風呂なるものに興味を示すグレン。


「そうだよ、お風呂知ってる?温かいお湯に浸かるんだよ。これがまた気持ちいいんだよねー」

「にゃー、俺も好きだ」

「寅吉は猫の癖にお風呂好きだよね。あの拘りようは凄いよ。グレンあとで楽しみにしておくといいよ。凄いものが見られるから」

「にゃ、期待していいぞ」


 そう話なが、クレアは3人を魔法で宙に浮かせ、天井の穴から舞い上がる。

 眼科には樹海に没した都市遺跡が夕陽に照らされてキラキラと輝いていた。

 聖樹が光り輝き、幻想的な景色を織り成している。

 まるでこの世のものとは思えぬ光景にグレンは今日何度目か分からない驚嘆の声をあげる。


「わー、きれいだ……」

「よし、じゃあ家まで一っ飛びだ!」


 森の魔女一行は樹海海の上を流れる流れ星のように飛び去っていった。

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