非常識な面々
「皆、王家主催の夜会へようこそ。今日は大変喜ばしい報告がある。兼てより選定していた王太子であるリスキャリーの婚約者が決定した。皆次世代の王と王妃もよろしく頼む」
陛下の参加者への声掛けの後、リスキャリー様と私の入場の声が高らかに宰相より告げられた。
「行こう」
リスキャリー様から差し出された手にそっと重ねて一段一段階段を降りて行く。
貴族達からの「おおっ」という声が会場に響き、ドキドキの私は取り敢えず踏み外さないようにするのが精一杯だった。
会場の皆の眼差しが微笑ましいものや期待するもの羨望、そして憎々しげに射る様な目。
様々な目の中をダンスホールから3段程高い位置に設置された玉座と王妃の席の前に進む。
陛下がリスキャリー様の王妃様が私の背中に手を添えて皆の前に紹介します。
会場から拍手が鳴り響き感動で誇らしく思う反面、その一画が暗い雰囲気を醸し出しているのが見えてきます。
気付かないふりも大変だなと、だって目の前に居るんです。
貴方爵位から言ってもだいぶ後ろの方ですよね、マリエーヌは解るけど何故ピンクリボンまで⋯⋯。
そして彼女のリボン今日はなぜにそんなに大きいの?
隣のマリエーヌの顔くらいの大きさのリボン
アレ?何か脳裏を掠った。
でも直ぐに消えちゃいました。
貴方方に構う暇が今日はないのでスルーします。
今日は王家主催です、滅多な事はないと《《思いたい》》。
陛下と王妃様を挟んで左右に私とリスキャリー様が座ります。
貴族家、今日は特にデビュタント組から挨拶が始まります。
その数の多い事!
これだけで王族って大変と心の中で嘆きます。
挨拶が終わると陛下と王妃様のダンス、そしてリスキャリー様と私のダンスが始まります。
ダンス講師のミラー様を見かけました。
かおに《《しんぱい》》と書いてあります、大丈夫ですよミラー様!そんな面持ちで笑顔を向けた積もりだったけど尚更心配かけたようです。
サァーっと顔面が白くなりました。
えっと笑顔が引きつり気味だったかしら?
曲が始まりいつものように滑り出します。
順調に踊っていき気持ち良くなったところでターン、しまった!二回っ!と慌てそうになったのにリスキャリー様が素早くカバーして下さいました。
えっ!と思い目を合わせるとリスキャリー様もこちらを見つめています。
その後はお互いの目を合わせたまま最後まで踊りきりました。
その後はライアン様とフィオナ、サミエル様とアリシアの2組が踊り、あとは皆が混ざり始めます。
踊り終わって先程の椅子の所に行くと離れていた椅子は外され二人がけのローソファに早変わりしていました。
並んで座ったら飲み物が運ばれてきてシャンパンで乾杯しました。
「リスキャリー様フォローありがとうございました、勢い付き過ぎたみたいです」
「これからも私を頼ってくれ、エル」
二人の会話に花を咲かせながら皆のダンスを見ていると不意にタタタタと靴音が聞こえました。
結構楽団の音楽がホールに響いているのにも関わらずの音に驚いて、その方向を見やると途轍もなく嫌な予感がします。
「リスキャリー様、私と一曲お願い致します」
マリエーヌ様が腰を落とし手を差し出しながらダンスを懇願しました。
リスキャリー様が陛下の侍従を見ます、首を横に振るのが見えました。
「コルシェ侯爵令嬢、先日名呼びを控えるように言った私の言葉を軽んじているのか?」
「えっ?⋯あのいえそうではありません、申し訳ありません、ついうっかりと⋯」
「うっかりとは上位貴族では有り得ない事と承知して欲しい、そして君はまだファーストダンスを踊っていない。ファーストダンスは婚約者か親しい者と心得よ。お相手は断る」
きっぱりと言い切ったリスキャリー様は格好良くてポォーっとなったけど、マリエーヌ様がファーストダンスをリスキャリー様にお願いするという非常識な行いに、コルシェ侯爵はどうするつもりだろう。
この国では側妃様の公での夜会参加は認められていないので、マリエーヌ様の味方はきっとお父上だけだと思うのに、何故側にいないのかな?
でもその疑問は直ぐに解けました。
なんと側妃様がコルシェ侯爵にエスコートされ会場に入ってきたのです。
彼女の顔を見た瞬間に王妃様はお持ちになっていた扇をバキッと折っちゃいました。
あ~折角のデビュタント、そして婚約発表の場が非常識なコルシェ侯爵家にぶち壊されそうです。




