モブ以下じゃなかったの!?
「おっお父様あの⋯私、えっと⋯何故?」
しどろもどろの私に、これまた意気消沈して化石になっているお父様の代わりにお義母様が応えてくれた。
どうやら発端はあのアップルジュース事件のようだ。
あの件で王妃様と王太子の二人が何故か私を気に入ったみたい。
王妃様から再三お義母様にも話が来ていたけれど、お義母様もなんとかかんとか逃げていたらしい。
二人とも私が絶対に王家に嫁ぎたくない事を感じていたから拒否していたんだとか。
今までの王太子の婚約が決まらずに悶々としていた同年代の子息子女達に煮え湯を飲ましていたのが私だと知った。
真っ先にフィオナごめんなさいと心の中で詫びる。
フィオナは王太子を唐変木と言ったけれど今日から私も唐変木の仲間入りだ。
その後のお義母様の話しはなんにも入ってこなくてフラフラなりながらマルシェの部屋へ行った。
私の様子を見たマルシェは何かがあったと理解してハーブティーをキャリーに言い付けていた。
「マルシェ、ねぇマルシェ」
呼びかけながら私は涙を流していたようだ。
マルシェが驚いて固まっていた。
「何があったのですか?」
私の様相に只事ではないと感じたマルシェが声を震わせながら聞いてくる。
「おぅおぅこんこっ⋯こん」
余りのことに私も震えてうまく言葉にならない。
そこにキャリーがハーブティーを持ってきた、一口飲んで深呼吸を3回、大きく息を吸って~吐いて~そして最後に一回小さく深呼吸でなんとか落ち着かせてマルシェに向き合った。
「マルシェよぉく聞いてね、王太子の婚約者私に決まってしまったの」
「⋯⋯⋯⋯」
マルシェが固まってしまった。
えっ人間って瞬きしなくてもいいの?
微動だにしないって様子を初めて見ちゃった。
「マルシェマルシェお~い聞いてますかぁ」
マルシェの顔面に掌をひらひらさせて呼びかけるとやっとの事で瞬きをしてくれた。
「おねえさまが王太子の婚約者?」
「そうなっちゃったのどうしよう、ねぇマルシェ私が主人公って事になるの?」
「それは⋯⋯物語の通りならそうなるかもしれませんが、でも先ず婚約時期が全然違いますし、悪役令嬢《《予定》》の方の行動も謎ですし、それにですね、お姉様は公爵家の子息との交流も皆無でしょう」
言われてみれば立ち位置は主人公だけど、状況がまるで違うし、そもそも私はこの婚約は望んでいない。
「あっ!でもお姉様、主人公も最初は望んだ婚約ではなかったのです、長い年月で育んでいったのです。でも王太子様とお姉様にはその長い年月もありませんわ」
「そうよね、やっぱりどう考えても私は主人公の器ではないし、もう考えても話しの内容はまるで違うしモブ以下の私が婚約者なら、これはまた別の異世界の話なのかもしれないわね」
「あっ!その可能性は考えてなかったです。そうですよね偶々私が読んだWeb小説の登場人物が酷似していただけかもしれないですし」
私とマルシェの結論は結局なるようにしかならないからこのまま流されちゃおうって事で落ち着いた。
わからないことを色々と考えてもどうしょうもないし、そんな事で折角の青春を潰すのも馬鹿らしい。
私が今考えるべきは王妃教育の厳しさに自分が耐えられるかどうかという《《現実問題》》だ。
どんな教育が施されるのか?
そしてあの過保護にされてる王太子でこの国って大丈夫なのか?
それからもう一つ⋯⋯。
私はこのビックニュースをフィオナに黙っていられるのか!!
お口チャックお口チャックと言いながら眠りについたのでした。