小さな社交界
夕食の時マルシェは大事を取って部屋で食事をする事になったみたい。
食堂へは来なかった。
そこで私はお父様に釘を刺される。
報復はお父様に任せとけ、手を出すな!だって。
まぁちょっと抗議をしたけれど、お父様は既に各所に抗議文は送ってたみたい。
お父様の早業に尊敬しちゃう。
だってお父様がこの話を聞いたのは1時間ほど前のはずだから。
食事の後マルシェの部屋に行くと、マルシェも食事を終えたところだった。
少し瘤が出来ていたからマルシェの侍女のキャリーが只管そこにタオルを宛てて冷やしている。
「キャリー腕は大丈夫なの?」
「エルファイア様、私は大丈夫でございます」
「皆で交代でするといいわ」
上げっぱなしのキャリーの腕を労ってからマルシェの瘤を確かめると少しだけ血が滲んでた。
唇を噛み締めて「災難だったわね」と言うとマルシェが頷いた。
「災難も災難、あの方小説の設定の性格とまるで違うのですけど、対処の仕様がありません。お姉様、私お姉様のクラスに行きたいですわ。どうにかなりませんでしょうか」
「クラス編成は学園の采配だから何とも言えないわね。夏季休暇後に期待するしかないのかしら?」
私達の通う学園は平民が一人も居ない。
完全に小さな社交界として機能する学園なのだ。
よく小説とかに出てくるような無礼講な学園ではない。
多少は融通の聞かせるところはある。
それが挨拶の件だ。
社交界での挨拶は身分の下の者が上の者に自分から声掛けなどは親しくなければ出来ない。
でも学園内だけはそこが少しだけ緩和される。
例えば「おはようございます!」と言いながら教室に入るとかは不敬に当たらない。
それと上の身分の者が下の者に理不尽な行為や言葉を発した場合も社交界では只管耐えなければならないけれど、学園では言い返しても不敬には当たらない。
まぁこれは言った言わないの水掛け論に発展するのが概ねだから、あまり皆する事はないのだと学園出身のお義母様に聞いた事がある。
でも今回のように衆人環視の中の出来事ならばマルシェの態度も学園内では不敬には当たらない。
だから今回の件はマルシェには全く非がない。
でも⋯面倒くさい学園だなぁと思っちゃう。
「お父様に仕返しは止められたわ」
残念そうに言う私に目を丸くしたマルシェは左右に頭を振って痛そうにしてる。
「あんな変な人にお姉様が付き合う必要はありません、ちょっとネジが3本程ぶっ飛んでいるみたいですもの」
マルシェが3本と言ったけどネジ自体がないんじゃないかと私が反論すると、やっとこマルシェが笑ってくれた。
朝からアンディ様とご一緒してご機嫌だったのに、酷い目にあったマルシェが痛々しくて可哀想だ。
それから私達はマルシェの記憶の中の学園で起こる事をもう一度精査していった。
設定が大幅に変わってしまってるし、登場人物の性格も小説とはだいぶ違うようだけど、起こるかもしれない出来事を頭に入れとくのは、自己防衛に繋がるはずだと私達は真剣に話した。
次の日自分に悲劇が起こるなんて思いもしていなかった。