5見えなかった想い
自分の愚かさに気づいた途端、止めどなく過去の記憶があふれ出した。
蓮はずっと俺のそばにいてくれた。口下手で素直じゃない俺に代わって、何度も言葉をくれた。だというのに、俺はその一つ一つに真っ直ぐ応えることができなかった。
高校生の頃――。
部活で落ち込んでいた俺を、蓮は無理やり夏祭りに連れ出してくれたことがあった。「たまには息抜きしろよ」って、俺の好きな焼きそばを二人で食べてさ。でも俺は「別に来たくなかったのに」とそっぽを向いて、本当は楽しかったくせに素直になれなかった。蓮は苦笑しながら「そうか?」って言ってたけど、あれだってきっと傷つけていたんだ。
大学に進学する直前――。
駅のホームで別れるとき、蓮は「遠くに行ってもお前は俺の親友だからな」って笑った。俺は照れ臭くて、「当たり前だ」なんて言葉を返すのが精一杯だった。本当は胸が熱くなって、ありがとうを言いたかったのに。
東京に出てから――。
蓮から時々電話やメッセージが来ていた。「新生活どうだ?」とか「たまには連絡しろよ」って。俺は「忙しい」「落ち着いたらな」と適当にはぐらかして、連絡をすることも無くなっていった。蓮はそれ以上強く誘ってくることはなくなり、次第に音沙汰も途絶えていった。
そうやって俺は、大切な絆を自分から手放してしまったんだ。
「……なんて最低なんだ、俺は。」
呟く声が震えた。蓮はあんなにまっすぐに友情を示してくれていたのに、俺はそれを当たり前のものだと信じ込んで甘えていた。何も言わなくたって通じているなんて、おごりもいいところだ。
胸の奥がずきずきと痛む。今になってはじめて、その痛みの理由が分かった。言えなかった言葉、言うべきだった言葉が、鋭い棘になって俺の心を刺しているのだ。
ありがとう。
ごめん。
また会おう。
それから――。
「蓮、お前は俺の大事な友だちだ。」
誰もいない廊下に、小さく声が響いた。言葉にしてみると、こんなにも簡単なことだったのか。
「……俺は、お前が友だちで、本当によかったんだよ。」
絞り出すように続けると、頬を熱いものが伝って落ちた。今さらどれだけ言葉にしたところで、現実の蓮には届かない。分かっている。だけど、まず自分自身がちゃんと認めなければならない気がした。蓮に伝えるべきだった、本当の気持ちを。
目頭を腕で拭い、深呼吸する。震える心を落ち着かせるように、何度も空気を肺に送り込んだ。
(もう同じ過ちは繰り返さない。)
強く心に誓う。感謝も愛情も、伝えなければ何も伝わらない。誰かに届かなければ、それは存在しないのと同じだ。俺はようやく、その当たり前の事実を理解した。
もし……もしまた蓮に会えるなら、今度こそ言おう。伝えよう。言葉に出すんだ。
「蓮……待ってろよ。」
自分に言い聞かせるように呟く。そして心の中で、はっきりと言葉にした。
――俺は、後悔しない人生を生きる。
その瞬間、目の前の風景がぐにゃりと歪んだ。