3再びの告白
「急に呼び出してごめんね…」美咲は申し訳なさそうに目を伏せながら切り出した。夕暮れに染まる彼女の横顔は記憶の中と寸分違わない。俺は鼓動の速さを悟られないように、静かに息を整えようと努めた。頭では落ち着け、と自分に言い聞かせるが、実際には手の平に汗が滲んでいる。
「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」俺は可能な限り平静を装って答えた。声が震えていないか心配だったが、美咲は気づいていない様子だった。彼女は一度唇を結ぶと、意を決したように顔を上げる。潤んだ瞳がまっすぐ俺を捉え、その視線に射すくめられた。
「私…ずっとあなたに伝えたいことがあったの。」彼女の声はか細いが、はっきりとそう告げた。心臓が跳ねる。来る——分かっていた言葉が、改めて突きつけられようとしていた。美咲は拳をぎゅっと握り締め、小さく震えている。その姿から、どれだけの勇気を振り絞っているのかが痛いほど伝わってきた。
「…何?」俺は喉の渇きを感じながらも問い返す。聞かなくても分かっている。それでも、彼女自身の口からもう一度それを聞くことになるとは…。頭の片隅で不思議な感覚が渦巻いていた。これは二度目の同じ場面のはずなのに、初めて経験するかのような新鮮な緊張と期待がない交ぜになっている。
美咲は一瞬だけ瞳を閉じ、次に開いたとき、そこには決意が宿っていた。「私…ずっとあなたのことが好きでした。子供の頃から、ずっと。」言葉は感情に震え、だが一字一句はっきりと届いた。夕焼け空の下で、彼女の頬が茜色に染まる。長年胸に秘めていた想いを今、すべて打ち明けたのだ。
改めて告白を受け、俺の胸に熱いものが込み上げる。過去に一度聞いたはずの言葉。それなのに、どうしてこんなにも心が揺れるのか。美咲の瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。緊張と不安で泣き出しそうなのだろう。彼女はそれでも必死に微笑もうとしている。震える声で、「びっくり…したよね。ごめん…」と続けた。
俺は慌てて首を横に振った。「いや、謝ることなんてない。」声が掠れてしまい、思わず咳払いする。まさか再びこの瞬間が訪れるなんて、夢にも思わなかった。眼前の美咲は、俺の返事を今か今かと待っている。期待と不安が入り混じった表情——俺が一番見たくなかった、彼女を傷つけてしまうかもしれない表情だ。
(どうする? どう答えればいい?)頭の中で自問が渦巻く。本当は俺だって彼女が好きだった。今でも、その気持ちは消えてはいない。目の前で涙を浮かべる彼女を抱きしめ、「俺も同じ気持ちだ」と伝えたい衝動に駆られる。それがどれほど望んだ展開だったことか。長年後悔してきたことを、今ここでやり直せる。彼女の想いに応えれば、きっと美咲は喜んでくれるだろう。
だが——一方で、心の奥底から別の声が聞こえた。本当にそれでいいのか、と。もしかすると、俺はまた自分の気持ちばかり優先しようとしているのではないか。目の前の美咲の幸せを考えていると言えるのか。額に汗が滲む。人生でも指折りの決断を迫られているというのに、答えはまだ霧の中だった。
美咲は不安げに口元を噛みしめ、俯いている。彼女の肩がかすかに震えているのを見ると、胸が締め付けられる思いだった。どうにかしてこの不安を取り除いてやりたい。だけど、俺はこの後になんと答えるのか、自分自身定まらないままだった。