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魔王屋

作者: シャッフル

世界は、3つの国に分けられ、それぞれを3つの支配者によって統治されている


一つ、人間


身体的には実に脆弱だが、その結束力と統率力の高さにより繁栄している種族


一つ、魔王


その偉大な力により魔族を生み出し、文字通りにそれらの王として君臨している者


一つ、妖精


戦いを好まず、他の種族には干渉しない、自然と共に生きる種族


世界は、この3つの勢力の移り変わりにより、遠い過去から成り立っていた


ある時は、魔王は世界の支配を試み、一時的には支配に成功するものの、人間によって滅ぼされる


ある時は、人間の過度の繁栄により滅びかける星の救うため、妖精達が人間を断罪する


ある時は、妖精により、自然の暴走引き起こされた場合、魔王が出現し、妖精の自然調和を崩壊させる


無論、これ以外のケースも存在する


それに、概ね魔王対人間のケースが多く、妖精はその存在通り不干渉の立場を取る事が多い


基本的には妖精さん達は、武器や道具を作るのが仕事なのだ


しかし、大まかはこのような三角関係が世界の構造になる


ある一つの勢力が力を付けすぎた時、他の種族のより抑え付けられる


いつの世も魔王は存在し、勇者が現れ、妖精達の力を借りる


やや不安定ながら、この成り立ちは、今の今まで長い時間壊れてはいない


そりゃそうだ


勇者と魔王は、ずっと僕達が売ってきているんだから








『魔王屋』









王都アリティア


数千万の人間が暮らす世界統治国家


国の中央には高々と四つの塔の並ぶ城がそびえ立っている


その城をぐるりと囲むように街があり、国の形を作っていた


8年前に、勇者オズマ他、4人の英雄たちにより魔王ディアマトが倒され、人々はその平和の中で平穏に暮らしている


トルメニク通り


人々が行き交う、この国の主要道路


かつて、勇者オズマが凱旋を果たした通りでもある


未だに、オズマ人気は高く、あちこちで名物だなんだと、ふくよかな体格の商人達が、日々しのぎを削っている


ただ今は、生活に余裕が出てきたためか、もっと高級なドレスやアクセサリの店が増え、やや街の性質が変わりつつある


見れば、麗しいご婦人方がカフェで談笑し、ペットブームなのか小さめの犬を散歩に連れ立っている者もいる


少し前まで、繁盛していた武器屋防具屋の姿はもうない


これもまた、魔王が討たれた後のよくある風景だった


カランカラン


ドアを開けると、心地よくベルが鳴った


「戻ったよ。アリオス」


「ああ、おかえり。シグ」


そんな大通りに、僕らの店はある


名前は、とくにつけている訳じゃない


来店した人によって、それらの名前は変わってくるのだ


まぁ、多くの人にとってはただの雑貨屋


ここ最近は、やはり貴重な宝石やアクセサリをメインに販売している


その他もろもろ、特にご婦人方にお気に召していただく品々を中心に扱っている店だ


時々来る魔王候補、或いは勇者候補によって、魔王屋か勇者屋に変わるのだ


「いやぁ、今日も買うのに苦労したよ」


カウンターに紙袋を置いて、ケーキの白く四角い箱を取り出した


「またシルフのロールケーキか?お前ホント好きだな」


「いや!少し違うぞ?こいつは、毎週金曜日だけに、限定20個しか作られない幻のロールケーキなんだ!」


「幻って言っても、ただのケーキだろう?」


「ただの!?分かってないなぁ。アリオス~。このシルフの限定ケーキにはな?なんとあのエベルマータ山のベルベルの実が使われているんだ!」


エベルマータ山は、この世界の一番高い山で、ベルベルの実ってのは、その山にしかない高級フルーツだ


それを惜しげもなくたっぷりと使っている辺りがにくい


「そんな...ベルベルの実なんて大して珍しくもないだろう?もう魔王もいないんだし」


「そりゃそうだけど、最近ずっと食べてなかっただろう?つい口恋しくてさ」


箱を開けて、少しだけつまみ食い


うん、美味しい


「はぁ...まぁいい、少し早いがティータイムとしよう。用意してくる」


彼はアリオス


一緒にこの店を経営している仲間で、読書をこよなく愛する勤労青年だ


大抵の場合、商品の管理を担当していて、今みたいに家事全般もこなしてくれる執事みたいな奴だ


「そういえば、アレ、やっと戻ってきたぞ」


厨房の置くから顔を出し、アリオスが話し掛けてきた


「アレ?何のことだ?」


「闇の首飾り。さっき見たら元の場所に戻ってきてた」


「そうなんだ。今回は結構長かったね」


「ああ。よほど今回の使い手と相性が良かったんだろうな」


闇の首飾り


魔王ディアマトの力を封印した闇の石のはめ込んであるネックレスだ


そうこうしている内に、アリオスが厨房から戻ってくる


そして、カウンターにカップを二つ置いて、さっき買ってきたロールケーキも並べた


あまり店は広くないので、いつもここで、こうして食べている


「でもさアリオス?あの彼でよく68年と9ヶ月も持ったと思わないか?」


「まぁな。あれは、ただの食い意地の張ったデブだった」


今回の魔王ディアマト


その正体は、旅芸人一座のピエロだった


今思い出しても鼻で笑ってしまうが、彼は、一座から逃げ出してこの店に入ってきたのだ


しかも逃げ出した理由は、団長が楽しみにしていたクッキーをつまみ食いしてしまったから


あんなバカらしい魔王は初めてだった


「でも元々一番最初のディアマトだって、ピエロだったじゃないか。そういえば、あいつもデブだったろ?」


「そういえばそうだった。あれ?もしかして生まれ変わりだった?」


長い事生きていると、そんなこともたまにはある


「いや、そこまでは分からなかった。でも、もしそうだったら、あと最低100年は魔王に留まっただろ」


「かもな。ディアマトはもっと強かったし」


彼の魔族生成は実に見事だった


恐怖に怯えさせる姿のものから、人の姿を忠実に模したもの


さまざまな魔物を作り出していた


「なかでもあのサキュバス!あれはエロかった~...」


妖艶な微笑み


抜群のスタイル


頭から角が生えているのはご愛嬌だったけど、あのエロさは言葉では言い表せないほどだ


「...またそれか?あれは俺的には醜悪だ。人を誘惑し尽くす魔物なんて、その場しのぎに過ぎない」


「んだよ~。このムッツリ。戦略的には大成功な例だったじゃないか?」


各国の男どもは、延々と快楽地獄に飲まれていた


おかげで国の機能はマヒし、本当に後一歩で世界が滅びかけたのだ


「あの戦略に知性がない。もっとチェスのように、紳士的に、優雅に、かつ大胆な戦略を組むべきだ」


かつてアリオスも魔王だったことがある


その時は、1000年以上の時間を、暗闇で世界を支配し続けた


名前は漆黒の闇


その軍略、魔族合成、本人の力そのもの、どれをとっても歴代魔王の頂点をいくだろう


最期は、飽きたからって適当に勇者が現れたから、そいつに勝ちを譲っただけだ


この記録は、あれから5千年たった今でも、まだ破られてはいない


「でもお前って、本当につまんない奴だな~。ちょっとくらい、いいじゃんよ~」


ま、実際はアリオスの言うとおり、初の女の勇者リシェルが立ち上がり、ディアマトを倒している


リシェルは、類稀な美貌を兼ね備えた絶世の美少女だった


かつ、その流れるような剣捌きは、歴代の他の勇者と比べても一、二を争うほどだ


リシェルの仲間達も、これまた美しかったのは、永遠に留めておきたい記憶の一つだ


ただ、一つ残念だったのは...


リシェルとディアマトの最終決戦の際


何でも、無数のサキュバス達との、実に妖艶で酒池肉林的な光景が繰り広げられたとかられないとか


う~ん、その場に居合わせなかったのは、実に残念だ


「しかし...女の子同士か~...」


それ、いいよな~


まして、リシェルや、その仲間達のような美しい女の子達がなんて、想像しただけで興奮してしまう


いや、それならいっそ、また魔王になって、辺り中に女の子をはべらせてハーレム状態ウッハウハってのも...


「でへへ~...」


思いついたら、やりたくなってしまった


「...シグ...また下らない欲のために魔王になるとか言い出すなよ?」


「な!?失敬だなキミは」


図星だったので高飛車に出てみる


「............」


「うっ...」


アリオスの視線は、凍えるほど冷たかった


ちなみに、僕もまた魔王経験あり


名前はゾディアーク


世界を火の海に包み、全種族絶望の危機にまで追い込んだことがある


あの時は、少し調子に乗ってしまい、本来の自分の役目たる観察者の仕事をお座なりにしてしまっていた


おかげで、アリオスが勇者になって現れて、見事にズタボロにされてしまったわけだが


「はぁ...別に魔王になるのは構わんが、その間もちゃんと店の仕事は手伝えよな。一人じゃ本が読めない」


「うぐ...そ、それはどうなのよ」


お店の中で魔王が


(irassyaimase)


なんて牙剥き出しで応対されたら、それだけで客が全員失神するぞ?


きっと王都にも睨まれちゃうし


つか、お前の読書時間のために、魔王が店に出てこなきゃいけないのかよ


「嫌なら諦めろ。俺達がまた魔王になるのは、よほどの緊急時だけだ」


「それは、分かってるけどさ~。最近ろくな魔王も勇者もいないじゃん」


そうなのだ


ここ最近の連中と来た日には、頭も強さも、何かを成し遂げるという熱意すら欠けているのだ


おかげで、みんなして20年から30年程度の繁栄しかしない


すぐに勇者によって滅ぼされてしまうのだ


かといって勇者の方が優れているとはいえない


人格的にひねくれている奴が多いし、スタンドプレーが目立つし、とにかくわがままな傾向がある


にしては、実力が伴わない奴ばっかりなのだ


僕やアリオスが初めて勇者をやった時は、もっと熱意に溢れていたものだ


世界を守るために戦う


やっぱり男の子的に、そういうの憧れるじゃないか


なのに、最近の奴らときたら...ぐちぐち


「そろそろ、妖精達も怒り始める頃だな」


アリオスが平然とそう言う


「うわ...ゾッとしないな」


確かに、妖精さん達からは、もうちょっとマシな魔王や勇者を輩出してくれないと困るとの苦情を頂いている


妖精達からすれば、歴史に残るような武器が作れない、つまり技術が発展しないと我ら生命の進化が進まないという事なのだ


不干渉とは言ってはいるが、技術進歩には手を抜かないのが彼らだ


前にも怒り出したことがあり、ものの見事に自然のバランスが崩れて、その対処に100年ほどかかってしまった


あれは、魔王にならないといけないし、何より重労働だから、できればもうしたくない


「だったら、少し工夫するしかないな」


「工夫ってどんな?」


「さっきの占いによると、今日新しい魔王候補がくるらしい」


「あ、そうなの?」


ラッキーじゃん


「そいつには、二つの魔王アイテムに適応してもらう」


「二つも?そんなことできるのか?」


「ああ、ものによるが、『魔竜の壷』と『覇王の剣』 この二つなら相性は良さそうだ。他の組み合わせも試したし恐らく大丈夫だろう」


「へぇ。少しは魔王技術も進歩してるんだねぇ」


「ふん。俺はもう、魔王も勇者もゴメンなだけだ」


違いない


魔王になって世界を統べても滅ぼしても、別に面白くない


そもそも、魔王である以上、いつかは勇者に倒される宿命にある


これが魔王システムの基盤だ


勇者だってそうだ


英雄の剣とか盾とか、そういったマジックアイテムに選ばれたりするんだけど、基本はアイテム頼り


魔王の弱点、天敵となる武器とか使うんだけど、あれって実は寿命が減るんだよね


まぁ、観察者である僕達には関係ないけど


それに、魔王を倒したからといって、褒め称えられて銅像とか作られても、嬉しくないし


どうせなら、褒美としてお姫様と恋愛して、あ~んなことやこ~んなことがしたい


でも、王様達って何気にいつもお堅い人たちばかりなので、いざ、世界が救われたら、はいさようなら、なんてことは日常茶飯事だ


別に得する事なんて多くはない


名誉で腹は膨れないのだ


「ん?でもさ、アリオスって、お姫様と婚約してなかったっけ?」


「...急に何だよ」


「ほら、勇者として僕を倒した時...名前は...えりん、へれな。いや違うな...えっと...」


「...エレナだ」


「そうそうエレナ。彼女とはどうなったんだっけ。僕は滅ぼされちゃってたから、よく覚えてないんだよね~」


「...最期を看取ったよ...彼女は、最高の女性だった」


アリオスにしては珍しく、声が優しく、でもとても悲しそうだった


何気にいつも胸元にあるロケットをいじっている


「あ...そっか。ごめん」


「...ふん。お前のデリカシーのなさなんて今更だ。それより来たみたいだぞ」


「え?ホントか」


カランカラン


アリオスの言った通り、入り口のベルがなった


見ると、そこには一見気弱そうな少年がドアの隙間からこちらを覗いている


「いらっしゃいませ。魔王屋へようこそ」


さて、今度はどんな魔王になるのだろうか


世界を滅ぼすのか


世界を支配するのか


はたまた、時間の狭間にでも封じ込めるのだろうか


何にしても、また世界は動き出し、そして繰り返されていく


いずれ、この今のシステムを崩壊させる存在が現れるその日まで

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― 新着の感想 ―
[一言] シャッフルさんの世界観っていつも独特で面白いです。これからも頑張ってください。応援してます。
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