第8話 vsリントヴリム群 中編
今回はいつもよりも短くなってしまいました。
だけど、次でvsリントヴリムを終わらせます。
「一体何をするんだ?ガキ!」
「ガキとは失礼だろ」
(テメェはガキだろ。ルーカス)
そう言う声がどこからか聞こえてきたのか、ルーカスは急に真剣な顔つきになる。
ギャップの差が激しすぎるのである。
「とにかくですよ。さっき俺が言った様に今すぐ防御魔法を中断、俺の合図があったら必殺攻撃魔法を一斉射撃してください」
「…分かった。ヘコ族長からもお前の指示に従う様に言われている」
ルーカスは無言。だが、内心では、
(あの族長、用意周到すぎるだろ。この事態を予測していたのか!?)
決して違う。
「あー、そうそう。弓矢部隊もですよ。俺が合図するまで適当にリントヴリムの攻撃交わして、合図したら弓矢使ってください」
「相わかった」
そうしてルーカスは別に偉くもないのに、難なく指示を下すことに成功したのだった。
そうしてルーカスはリントヴリムの前に立った。
(いつも思ってたんだけどさ、どうしてリントヴリムはずっと待ってくれてるんだろうな?お人好しすぎでしょ)
ルーカスはそう思う。
通常ならリントヴリムを目の前にしたらビビり過ぎて何も考える事ができなく(思考停止)なるのだが、考え事をしている辺り、ルーカスは少なくとも自分がしくじって死ぬとは一欠片も思っていない様だ。
ルーカスは歩き始める。無防備。武器も持たずに。
周りの者たちは戸惑う。
ヘコ族長は「あのガキは前衛だ」と言っていたのに、その前衛が武器も何も持たず、無防備でリントヴリムに向かって逝くのだから。
リントヴリムはその現状に置いて、迷わずに火炎放射をした。
忘れられているかもしれないが、リントヴリムもドラゴンなのだ。リントヴリムはドラゴンの中でも下位の存在なので、常備と言っていい火炎放射を行う事ができる。
(んー〜。リントヴリムの攻撃を中和、しくじれないな。だからなるべくギリギリのタイミングで)
(あのガキ、前衛なんだよな?)
周りの者共通の疑問。だが、念の為、攻撃魔法の準備はしておく。
リントヴリムの炎がルーカスに直撃、する寸前までに来た。
(あのガキ、逝ったな。いや待て、エトルリア人1人の損失も軽く見てはいけないのだ。助けねば!)
兵士の1人が魔法攻撃を中断した。そして、ルーカスを守ろうと防御魔法を展開しようとした。
「何をしている!」
と、それを魔導士部隊の隊長が止めた。
「何故ですか?あのガキ、このままじゃ死にますぞ」
兵士の言うことには一理ある。確かに、1人の損失も軽く見てはいけないのだ。
では、どの様な理由で隊長は兵士を止めたのだろうか?それは、
「あのガキは確かにムカつく。だが、それが我らの為に命を張る仲間を信じぬ理由になるのかと言っておる!」
「!」
「仲間を信じろ!例えどれだけムカついても、共に苦難を共にした仲間なのだぞ!」
「ですがッ」
「どーせ我らは能力を所持しておらず、仮に倒せたとしても消耗してしまう。だからこそ、ムカつくやつでも信じろ!」
「っ!分かりました」
言っていることは全て同じ事なのだが、存亡に関わる場合はどんな言葉でも響く。その事が証明されたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「【無限破綻】!」
ルーカスに火炎放射が降り注ぐ。
だが、ルーカスに向かうはずの炎が、消えた。
リントヴリムは戸惑う。
(いや、別に難しいことをしてるわけじゃない。唯、魔法に絶対的な権限を当てて、魔法そのものの数列を一部だけ破壊、それで魔法として行使する事が出来なくなった。それだけだ)
だが、【無限破綻】は魔素の消費が他の能力と比べて大きく、『無限』とあるのに長時間利用できない。しかし、
(うまく使うことさえ出来れば、奴の攻撃は俺には効くことは絶対にない!)
ルーカスは駆け出した。
戸惑うルントヴリム向かって。
勢いよく。
(もし今のでリントヴリムがこの現象に適応してしまったら近づくチャンスは二度と訪れない。
だから、今のうちに、なるべく、近く!)
しかし、近づいても何も攻撃手段のないルーカスは一体何をするのか?
もし見境なく近づいたのなら、それは正しく犬死にである。
(攻撃なんかはしない。ただ、俺の読みが正しいのなら、リントヴリムはなんかしらの『加護』が付与されてい る。だからあんなにも魔法を通さないのだ。『加護』さえ突破すれば、後は集中攻撃で!)
ードッー
ルーカスが地面を力強く踏みつける。
その目の前にはリントヴリム。何やら不穏な笑みを浮かべている。
「【無限破綻】!」
決まった。
(これで防御を失ったリントヴリンに後は、集中攻撃をするだけで詰みだ)
(なんだ?全く手応えがない?どうして?もしかして、単純に鉄壁なのか!?)
「見切ったぞ」と言うかの様にリントヴリムが烈火の如く尾を叩きつけてくる。
(マズイ。尾の攻撃は絶対魔法じゃないから【無限破綻】で防げない。
だが、俺は死なないぞ。何故ならカミラ様の加護があるからな)
そんなものはない。
ルーカス唯一の幸運は、最後に幸せな有りもしない物を見ながら死ねること。
不運なのは、そもそも論としてドラゴンは種族上、上位に位置する存在であるため、魔法を使わなくても十分強かったことである。
(やはりな。カミラ様の加護のお陰で俺はいまだに死んでいない)
誓ってでもカミラの加護ではないが、ルーカスは死んでいない。それは何故か?
【無限破綻】それは魔法、能力の法則を破壊し、無効化するもの。
そこで、ルーカスは一つ仮定を立てた。それは、
そして、もし、リントヴリム自体が魔法の存在だったら?
「屁理屈だ」と言うかもしれない。だが、意外にもリントヴリムは人造魔獣なので魔法で作られている可能性は否定できない。
忘れているかもしれないが、この世界はカミラの前世と違って、何かを開発する時には文明のリキ(科学)を使う事はないのだ。
さらに、結論から言うとルーカスの仮定は正しい。
つまり、リントヴリムに烈火の如く尾で殴られる、と言うこと自体がルーカスの戦闘狂的な妄想でしか無いのである。
(都合良すぎじゃね?)
「ほ、本当に倒した…」
兵士の1人の口から咄嗟に出た言葉がそれだった。
そして、その言葉は一つ出たらドミノ倒しの様に最後になるまで続いてゆく。
「本当に倒した!?」 「本当に倒した!」 「本当に倒した」 「本当に倒した」
その場にいた全員が呆気に取られていた。
結局リントヴリム集中攻撃は要らなかった。
その時間は長く続く事はなく、すぐ様メナス集落、『リントヴリム完全攻略本部』へと報告されるのであった。
♦︎♦︎♦︎
「「「「ぃッ、良ぉぉぉぉし!」」」」
『リントヴリム完全攻略本部』にいた全員がガッツポーズをした。
「な、尚、リントヴリムを倒したのはあの偉そうなガキだそうです」
「「「「!」」」」
沈黙が広がった。あのガキ(ルーカス)は前衛であり、リントヴリムを倒すのは後衛である魔導士部隊か弓矢部隊のどちらかだと思っていたのだ。
「や、やりおった。ルーカスが、やりおったぞぉぉぉ!」
やっと指導部たちに名前で呼ばれたルーカス。素晴らしいことなのだが、本人からしたらなんかフクザツだろう。
だが、浮かれる間もない。直ぐに次の行動に移す。
「至急ルーカスだけをこちらに戻せ。次のリントヴリムが来た時の為、待機させる」
だが、指示を下された部下は動かない。
「なんだ?何故命令に従わぬ!」
半ば怒ってるよね?すると部下が思い出した様に言った。
「言い忘れていたんですが、そのルーカス《ガキ》なんですが、丁度私が空間転移で此方に来る時に着いてきておりまして、『リントヴリムぶっ殺す!』と息巻いております」
「な、何ぃ!?」
指揮官が顔色を変えた。それはそのはず。
「どうしてだ。どうしてまだ20年も生きていない様なガキが空間転移の様な高等魔法を使える?」
カミラがさりげなく使える様になっていて感覚が麻痺していたのだが、指揮官が言う様に、空間転移は高等魔法。カルジア学園でも3年生で習い、完璧に使える様になるには10年かかると言われているのだ。
それを、あの歳の、ガキが、使える様になるとは。
「ま、まさか!『神』の加護か!」
指揮官が閃いた様に言った。
断じて違う。馬鹿である。
「成程!」
それに納得する者も大概な馬鹿である。
「確かに、そう言う事ならば全ての辻褄が合う」
合うわけねぇだろ。逆に今ので合う筈だった辻褄が乱れたよ。
「しかし、これでーーー」
「ああ、あと5体だ」
「意外にーーー」
その場に居た1人が言った。
「意外にではない。ぶっちゃけルーカスさえいればそれで良い気がする」
ルーカスを酷使しようとする大人たち。
エトルリア人存亡に関わる事なので法律(虐待)には当たらない。
「大変です。ヴァルド集落にリントヴリム3体が出現しました!」
(3体、か。コイツらを殺したら残り2体)
「急報!リントヴリム2体がマナス集落に出現しました!」
ーザワザワ、ザワザワー
「ど、どうしますか?司令官殿」
リントヴリム5体が一斉に出現。この時、その場にいた幹部たちは思った。
もしかしたら1体めのリントヴリムはエトルリア人の手札を見るための生贄だったのではないかと。
その様に考えてしまった幹部たちの思考は一旦停止した。
そして、今対処に頭を悩ましているのは司令官のみ。司令官は考えた末に、決断を下した。
「面倒だ。もうこの際メナス集落に全て集めて一気に片付ける」
「「「!」」」
司令官の言葉に皆耳を疑った。だが、『リントヴリム完全攻略計画を考えたのは全てこの司令官であるため、皆司令官を信じた。
(案外コイツらもちょろいんだな)
これが司令官が思った言葉である。
「今、このメナス集落以外に人はいない。だからリントヴリム群は必ず人の反応のあるメナス集落へとやってく る。そこを、予め《あらかじめ》仕掛けて置いた狩場に奴ら《リントヴリム》を陥れて、総戦力で、
これを潰す」
「「「!」」」
「何をしている?急げ!」
司令官が大きな声で言った。
幹部たちが慌ただしく動き始めた。
vsリントヴリム 決着の時 近し
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