第3話 貴族連盟議会
ーザワザワ、ザワザワー
ここは帝都シルロードの某所にある豪奢な会議場ここで行われる会議はただ一つ、貴族連盟議会場、通称『貴連』。
センスねぇな。
カルジア帝国あるある、帝国民はセンスねェ。
嘘です。偏見です。
「師匠それ程国民が聞いてたら殺されますよ」
ードゴっー
殴られた。俺師匠なのに。
「ククク、あのガキはどうでしたか?ベージャヌ様」
あの変人の名前はジェフシカ。
昔『変人』と呼ばれていた俺でも引く程の変人。近づいてもロクなことはない。
よく「え?似た者同士だろ?」と言われるが見る目ねぇよな、そいつら。
今の俺は昔とだいぶ変わったってのに、未だにあいつらの俺への認識は昔の状態で止まってる。
「ああ、あの赤髪のガキか。
はっきり言ってつまらん。これと言った特殊能力もない。俺が動いてまで助ける価値はないぞ」
「クク、ですがブルースが気に入っていましたので」
「ブルースは強くなろうとしなかった。素質はあった。だが、中身が駄目だ。奴の言うことは参考程度にもなら ん」
そう、ブルース。確か今はウェーズリー家に使える執事、だったか。つまらん役職に就いたものだ。
惜しい者の未来が潰えたよ。
「それよりジェフシカ、ブルースの意見を推すのか?」
「ええ、兄弟子ですので」
「そう言えばお前も少しは義理人情を持ってたな」
忘れていた。こいつも昔は義理人情を持ってたな。昔は。
「ク、ひ、酷くーーーーーーー」
「師匠そろそろ時間です」
遮ってくれてありがとう。俺の使い魔。だが、
「ごめん、今日の議会の出席キャンセルしてくんない?」
「分かりました」
「理由だけ聞かせてもらってもよろしいですか?
せっかく席用意してくれたのに」
この和服の男はア・マトウ、甘い物好きだ。転生者らしい。知らんけど。
「ん〜、そーだね。強いて言うんならあれだね」
沈黙。
「ベージャヌ様」
「簡単さ、カミラって奴の実力が知れたから、わざわざそいつを助けるために政治の豚どもしかいない綺麗事だけ の会議に出席する意味がないってことだよ」
「しかし」
これには答える必要はない。
「と、言うわけで、使い魔くん、キャンセルぃ宜しく!」
強制力を働かせる。長い間生きてきたからね。俺は。
♦︎♦︎♦︎
「ケレム様、ベージャヌ名誉将軍、出席キャンセルでございます」
側近の騎士がケレムに伝えた。だが、その声は明らかに困惑だった。
「はん!やはりな、田舎者、過去の遺産をこの高貴なる会議に参加させるのはどうかと思って虫唾が走っていたが、治ったぞ」
ケレムは違った。
「いずれ儂がモハメドを殺害した暁にはベージャヌのハラワタを引きまわしてやろう!」
「ケ、ケレム様、それは流石に」
騎士は落ち着いてはいられない。何故なら、ベージャヌに宣戦布告すると言うことはベージャヌ配下の者たちと戦うことになる。1人で小国を滅ぼせる様な強者たちとーーーー。
「ケ、ケレム様、ご再考を」
「ふむ、儂も言いすぎた様だ。あとで考え直すとしよう」
「で、では」
「今ではない。何せ、もうじき会議が始まるからな」
ケレムの言う通り、もうじき会議が始まろうとしていた。大貴族、皇族、そして皇帝を集めた大会議が。
カミラの獲得した能力はそれだけおぞましいことなのだ。帝国500年の歴史に大きく穴を開ける様な。
♦︎♦︎♦︎
[貴族連盟議会 開始]
「まったく、ウェーズリー家め、最近力を増してきた無礼者だと思ったらその様だったな」
漆大王族のダイアモンド家当主、アルマゲドンが言った。
「しかし、御息女、とは、お家の未来に関わるぞ。デルタよ」
デルタとはウェーズリー家当主、つまりはカミラの父親だ。
「深謝します。アルマゲドン伯兼現帝国宰相よ。しかし、貴方様も先代の時代に問題事を起こしたかと」
「デルタ殿、その件は議会ではタブーだと思うぞ」
この声の主はモハメド、ケレムの異母兄、つまりはインスタ家の当主にして漆大王家筆頭、貴族連盟議会の議長を勤めており、ぶっちゃけ宰相のダイアモンド家よりも力があり王家で唯一私兵を持っている。
「おいたわしやウェーズリー家、取り潰し確定じゃの」
デズモン家の当主、チャールドだ。皇族の血、天地開闢時の五天帝の1人の血を引き継ぐ、血筋じゃ帝国一と言える。最近は優秀な人材が出てこないから衰退しているが。
「じゃが、そのカミラという小娘は、教養もあるし美人だと聞く。そうじゃね?デルタよ。ワシの息子をカミラと結婚させてくれるのならカミラの死刑反対に一票入れようではないか」
チャールズ最大の幸福はカミラ本人がこの場にいなかったことである。
「分かりましたぞ。チャールズ殿」
デルタは了承した。一応誤解を解いておくとデルタの心境は、
(テメェのバカ息子に嫁がせる気なんてさらさらなかったしウチの称号は『革命の一族』だからカミラ自身に選ばせるんだよ。後で破棄するしな)
と言う感じである。
神じゃないからその気持ちも読み取れないのが辛いところである。
「ん?抜け駆けはずるいぞよ。チャールズよ。我が家にはウェーズリー家の長女が欲しい。そうすれば考えてやろう」
「我が家には三男を、貴方の家にも悪い話ではないはずよ」
結局は自分の家のことしか考えないクズどもである。
だが、ここで意外な助け舟が来ることになる。それは、
「やかましいぞ。者ども!」
「静粛に。今は婚礼を決める場ではない」
第四皇子とモハメドである。
「「いいか?事は単純。ウェーズリー家はその領土に広大な経済圏を持つ。その経済圏は今や帝国の国内総生産の 5分の1を占める」」
そこまで行ってモハメドは話すのをやめた。第四皇子に花を持たせるためだ。
「その経済圏を失ったら、これより先の侵略戦争にとってどれだけの損傷になるかーーー」
「いくら陛下のご子息とはいえ、所詮は第四。口を出さないでもらえませぬかな?皇子よ」
貴族Bが言った。
「チッ」
モハメドの舌打ち。帝国あるある、漆大王族は口悪い。
「とにかくウェーズリー家の経済特区は我らデズモン家がもらいますぞ。何せ娘婿の家柄ですからな。我々は」
「おいテメェ、それはーーー」
「お待ちを、墾田永年私財法により、ウェーズリー家の領土は全て我らが皇族の物」
「お前は第二だから決定権はないだろ」
会議は踊るも一向に進む気配無し。
「もうこのままでは進まぬだろう。陛下、ご決断を」
そう言ったのは皇帝の側近。天を仰いで皇帝の判断で決めようとしたのだ。まあ、無理もないわな。
「フム、いまだに決まらぬか。ウザいぞ、者どもよ。はよ決めねば親衛軍を送るぞ」
ーザワザワ、ザワザワー
親衛軍、カルジア帝国の建国時、英雄戦争の時代に現皇帝の祖先を傍で支えた軍の末裔。
今やその実力は昔を見る目もないほど衰えたが、その名声は皇族の愛国教育によってなんとか保ってきた。
そのため一応は親衛軍は恐怖の象徴なのである。
「陛下、それは漆大王族への脅しと受け取りますぞ」
モハメド。通常ならこんな口を聞く事こそ万死、3回死刑に当たるのだがここは議会なので皇帝の権力は今絶賛弱体化中。
後、モハメドの言葉はあながち間違っていない。
何故なら帝国は他の国と違って国土の半分を漆大王族が統治しているからだ。
王侯貴族が皇帝と同等の権力を持つ、それが帝国の現状なのだった。
「フム、まあ、そうだろうな。許せ。帰るぞ、ゼロ」
ーコクー
無口の少女。それがゼロだ。年齢に合わず、実力は本物であり、皇帝の親衛軍軍長。
そこからも会議が続いたが、ここで皇帝の目を恐れていた貴族たちが、これで呪縛が無くなったとばかりにウェーズリー家への罵倒を始めた。
デルタは全て論破したが一様の議論で会議一日目を終えてしまった。
♦︎♦︎♦︎
「ベージャヌ様、ご再考を。まだ間に合います」
ア・マトウ、通称マトウはベージャヌを止める。
「クク、いんじゃない」
「そーだそーだ」
「ベージャヌ様、あなたが乗ったら説得力ゼロですよ」
「ごめんて」
「そもそも、ベージャヌ様、私が何を止めているのか分かりますか?」
「え?モンブランを買って欲しいから止めてるんでしょ?あいにくそんな金ないよ」
「違いますし、実際の目的はなんですか?わざわざ帝都まで来て」
マトウがしつこく聞いたら、ベージャヌも折れたのか、目的を話し始めた。
「俺はね、カミラってのを助けることにしたんだよ」
「「!」」
沈黙。
「ククク、クハハハッハハh、さすがはベージャヌ様、分かっておられる」
「アホ、カミラを助けたら親衛軍に追われるぞ。あいつら意外にも強いぞ。特に皇帝の護衛部隊が」
マトウは「ヤベェって」発言をしているが、ベージャヌは至って冷静だ。
「親衛軍自体は弱いし、唯一強いのはゼロだ。だがね、あいつが俺に勝てるわけがない。だから大丈夫だよ。多分」
「多分って言ってる時点であんたも不安でしょ。やめましょうよ!」
マトウのベージャヌに対する態度がどんどんいい加減になってゆく。
「じゃ、そゆことで、見張りぃ宜しくッ!」
ーフォンー
ベージャヌは魔力で作られた穴に入ってゆく。この穴は空間を超える効果がある。
ベージャヌが飛ぶ先はもちろん、
ーフォンー
カミラの捉えられている牢屋ーーーー。
「誰だ?お前は。侵入者か!?」
(違った)
飛んだのは牢屋管理棟。一番飛んではいけないところだ。
「間違いました。でわ」
ーフォンー
「誰だ、お前は」
(魔法陣?)
「答えろ」
(またヤバいところに飛んだかな?)
ベージャヌは声のする方を見てみた。そこにいるのは赤髪の豪華な学生服に身を包んだ少女。
ーニチァー
「みーつけた」
「〔魔法撃弾〕」
(魔法弾か、しかも初歩的の。まったくひねりのないつまらん魔法だ。だから、)
「【虚空之王】」
(異空間生成。こんな魔法、真正面から相殺する価値もない)
ベージャヌの目の前に空間が現れた。
魔法弾は全てその空間の中に入って行き、
「〔魔法撃弾〕」
カミラは諦めずに魔法弾を放ち続ける。
(まだ分からないのか?君の攻撃は無駄なんだよ。しかも、魔法弾の方向を変えて放つこともしないとは)
「〔爆発・大〕」
ひかる。決して色が入るわけのないベージャヌの異空間が。
異空間が破壊された。
(爆発、か。いんじゃない?って!?)
「待て、stop and stop.俺は別にお前を殺しに来たわけじゃない」
「信用できるわけないでしょ!だってあんたさぁ。あのニチァ、なんですか?」
「俺の癖!昔からの癖!君を助けにきたんだよ」
その言葉を言った瞬間、カミラの攻撃の手が止み、魔法陣が消える。
「てことは、家に帰してくれるんですか?」
「馬鹿か?お前は。こちとら貴族の豚どもの鼻を明かしたいからお前を連れ去るだけなんだよ。家に返すわけないし家があるとは限らないぞ」
沈黙。
「ん?ならこれからどうするんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。今から君には修行をつけることにしたんだ。ちょうど今住んでる帝国に飽きてきたからマトウが言ってた様に帝国ぶっ壊してよ」
(イカれてやがる)
カミラは思った。この場合は思わない方が異常だ。
♦︎♦︎♦︎
[議会 2日目]
「結局、とにかくカミラ・ウェーズリーを尋問すれば良いのでは」
会議に飽きた貴族の1人が言った。
「どうかね?デルタ君」
「ーーー、手荒な真似をしないのであれば」
「そこは心配しなくて良い。今や国士の中心にもいるウェーズリー家の御息女に手荒な真似をする奴などいない」
[牢屋]
「聞きましたか隊長?今回尋問するのは貴族の娘らしいです」
「チッ、一番やりにくいタイプだな」
「そっか、隊長は昔令嬢にいっぱいくわされてますしね」
「い、言うなぁ!」
「はいはい」
意味不明なやり取りをしている尋問部隊。この尋問部隊はカミラの牢屋の前に来て驚愕、実に痛烈な思いをすることになる。
[議会]
「た、大変です!」
「何じゃァ?やかましいぞい」
ちょうど暇だったケレムが一目散に聞いた。どれだけ暇だったのやら。
「牢屋につながれているカミラ、反逆者カミラが、居ません!」
「「「「「「「「な、何ぃ!!!!!」」」」」」」」
その場にいた全員があんぐり口を開けた。
「あ、有り得ぬ。牢屋には魔法相殺薬が塗ってあるんだぞ!ま、まさか!」
「いえ、牢屋に損傷は一つもありませんでした」
「ええい、牢屋の見張りは全員死刑じゃ!」
「か、かしこまりました!」
「た、大変です!」
「「今度は何じゃぁ!?」
「へ、陛下の親衛軍が、議会場の衛兵を倒し、占領しました!」
「「「「「「「「「「「なニィィぃぃ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
議会全ての者の声が響く。
ードドドドー
親衛軍が入ってきた。本来ならこれだけでも脅威なのだが、それだけでは恐怖は終わらないのだ。
「な、なんだ?急に背が寒くーーー、ッう!?」
貴族の1人が倒れた。その元凶は、
覇気、ジェフシカたち我が強いトリオを超える覇気を放つ存在。
そんな覇気を持つ者など、親衛軍の中ではただ1人、ゼロである。
「ゼ、ゼロ?」
モハメドがつぶやいた。と、ゼロの姿が消えた。
ーコクコクー
モハメドの近くにゼロが近づいて頷いた。瞬間移動である。
「クソ、消え失せろ!悪魔め!〔雷電〕!」
貴族の1人が魔法を放った。だが、
「我が殿は種族上悪魔ではない。貴様らからしたら悪魔かも、だがな」
あえて否定はしない系の部下が魔法を難なく防いだ。
ーチラチラー
ゼロが否定しない部下をチラチラ見た。自分の代弁をして欲しいのだ。
部下はすぐにその気持ちを読み取り代弁を始めた。
「全貴族たちよ。陛下が『テメェらは役に立たないからもういいや。議会は今日をもって閉鎖する』とのことだ。本来なら国家機密情報を持つ貴様らは即取り潰しなのだが、陛下の温情だ。今すぐこの場を立ち去り、二度とこの場に入るな!」