♤第七話:解放戦線“ベクラマ”との接触と、波乱の予兆。動き出す王国軍最高戦力
畑になりそうな土地を見つけた俺は、さっそく次の日に種や農業用品を求めて久々に町に降りた。種々の買い物を済ませた俺だったが、すぐには帰らず喫茶店のような場所で少し休憩をすることにした。と、いうのも、俺には少し目的があったのだ。暇そうな客に近づけば、ある人物たちについて尋ねまわった。
「銀髪の少女ォ?」
「ああ、もしくは長髪の男、それからベレー帽の女でもいい」
「あー・・・俺はみたことねえなぁ」
「そうか、すまない。ありがとう、おじさん」
―――解放戦線“ベクラマ”・・・やはりそう簡単に姿は見せないのだろうか?少なくとも王国軍には完全にマークされているだろうからな、ほかをあたるか。
俺が諦めて帰ろうとしたときだった。
(―――――あ!)
外を見覚えのある顔が通った。なるほど帽子を深くかぶってはいるが、日光を反射する白い肌は、さすがに隠せないか。俺は急いでレジにお代を置くと、店の外に走った。
「はあ、はあ・・・」
「なんだ、きみか」
彼女は俺がいきなり前に現れても、一切動じず、表情すら変えることはない。
「久しぶりだな、ホワイト・ピア・・・だったか」
「合ってるよ、で、なんの用かな」
「ああ、お前らの組織が掴んでる王国軍の情報・・・教えてくれないか?」
「ってことは、仲間になる気になったの?」
「・・・いいや、俺はまだ考え方を変えてはいない」
「へえ、それで、私が教えるとでも思ったの?」
彼女は一転して、退屈そうに腕を上空に伸ばした。
「利害はある程度、一致していると思うんだが」
「そうかもしれないね、でも、きみが一人で戦場に行って、いったいなにができるの?」
「少なくとも、犠牲を減らすことはできる」
「井の中の蛙って知ってる?相当自信があるようだけど、きみが死ぬよ」
「・・・・」
「だから、仲間にならないのなら、情報を教えることはできない。話がそれだけなら、私は帰るから」
「あ!っちょ、待て・・・」
俺は急いで彼女を追いかけたが、路地を曲がったところで、彼女は気配までが完全に消え去った。魔法だろうか。
「はあ・・・くそ・・・」
(・・・ん?)
もう少し辺りを探そうと振り返った俺は、洋服のポケットになにか入っていることに気が付いた。・・・メモ用紙のようだ。かなり荒くちぎられているようだが・・・内容を確認する。
「じゅうにがつ、じゅうにち、せんとれーね、たたかい」
なんだこれ?
十二月、十日、か?セントレーネ、戦い・・・!
ホワイト・ピアが書いてくれたのか?
・・・いや。俺は折れて隠れていた部分にも文字を見つける。
「まるこ・・・まるこ!」
俺は少し迷って、あの黒い円柱形の生物を思い出す。
(―――あいつか!)
助かった。これほど回りくどく教えるということは、虚偽の情報であることは考えずらい。つまり、二週間後の十二月十日、セントレーネという土地でなにか起こるということだ。
それが戦いなら・・・必ず食い止める。
*
同時刻:王都エヴミナ、王国軍本部
「調子はどう?」
「俺は順調です、ただ・・・」
初めて入った中将の部屋、グラディアーニェ中将の、のしかかるようなプレッシャーに緊張しながら、勇者シバウラは彼女の問いに答えた。
「ミヤダイ、ね・・・」
「はい、一か月前からずっとあの調子で」
「まあ、異世界から来たんだから。戸惑う気持ちもわかるけれど」
「・・・・」
勇者シバウラは同じように主張し、王国軍を追放された人物のことを思い浮かばせた。
「安心してほしい、勇者は丁重に扱うよ。ただ、今度の作戦には参加してもらう」
「⁉
本気ですか?彼女はまだ・・・」
「気持ちは分かるけど、彼女ほどの回復魔法は貴重です。前線に出れないのなら、後ろで衛生兵として活躍してもらうしかないね。それに、彼女につらい思いをさせたくないのなら、あなたが活躍して見せればいいでしょう?」
「・・・わかりました」
「―――良し。では準備を怠るないように。この度の作戦はおそらく“カラト”以上の激戦となるでしょう・・・そしてこの機に、必ず“解放戦線“を消滅させるのです」
*
俺がマルグリットたちの集落に来て、早くも二週間近くの月日が経った。
「・・・もうよさそうだな」
「・・・・・」
青紫にはれ上がっていた患部は、すっかり健康的な色に戻り、熱も帯びていない。総合的に俺がそう診断すると、マルグリットは不服そうにうつむいた。せっかく怪我が治ったというのに、なにが気に食わないというのだろう。
「失礼ですが、診断に過誤があるように思います・・・・腕、まだ痛みますから・・・・」
「ほーう?どんなふうに?」
「ふ、ふえっ?だからそれは、チクチクというか・・・ガンガンというか・・・」
明らかに焦ったように、彼女は目を泳がせる。ずっと続いている痛みです、とでも答えておけばいいのに、やっぱりお前、嘘は付けないタイプだよ。
「なんでそんな嘘をつく・・・こういう話題に関してふざけるのは良くないと思うが」
「だって・・・私の怪我が治ったら、あなたはどこかへ行ってしまうのでしょう?」
「―――!」
「この前、あなたとサランジェが話しているのを聞きました。せっかくこうして少し仲良くなれたのに・・・またまた私たちを置いて、どこかへ行ってしまうなんて、嫌なんです・・・!」
窓から差し込む夕日が、彼女の表情を赤く照らし上げる。真剣で悲愴な表情を浮かべ、大きなオレンジ色の水滴を目に浮かべている。
「はあ・・・早とちりしすぎだ。俺は今すぐここを出ようとは思ってない、みんなが良ければ、もう少しこの村で世話になるつもりだよ」
「え?で、でも、この前は―――!」
「あのときは、まだ先のことは考えられないって言ったんだ。でも、その後でもう少しこの辺りに居ようと決めた。チビたちや、ここにいる泣き虫も放っておけないからな」
「泣きむっ・・・!それ、まさか私のことですか⁉もとはと言えば、優柔不断なあなたが、回りくどい表現をしたせいで・・・」
背中から出現した彼女の羽は、もはや見慣れたものだ。しかしまあ、夕日に染まっていると、まるで本物の天使が舞い降りてきたんじゃないかと勘違いするくらいだ。少なくとも、外見だけはな。
「な、なんでしょうか?」
「いや、なんでも。手が治ったからには、明日からはしっかり農作業に参加してもらうって言おうと思って」
俺がそう言うと、彼女はどこか楽しそうに笑って頷いた。
*