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♤第二話:王国軍の訓練が始まったが、いきなり身勝手な勇者との対決することになった。

 



 俺が王都エヴミナに到着して三日が経ったところで、王国軍兵士育成施設での訓練が始まった。当たり前だが、兵士は徴兵されてすぐに戦地へ向かうわけではない。

 この施設では、召集された訓練兵や志願兵が、王国軍としての基本的な能力や知識を学ぶ、つまり学校のような場所らしい。事前に受けた指示通り俺が演習場に向かうと、すでに三十人近い人数が集まっていた。

 

 「よし、ではこれより訓練を開始する」

 定刻になると、髭を生やした中年の教官らしき人物がそう合図した。最初の訓練ということで、まずは軽い自己紹介から始めるらしい。

 

 「まあ、じゃあ俺たちから自己紹介させてもらおうかな」

誰か最初に名乗りたい人物はいるかと彼が尋ねると、前の方で固まっていた四人の集団のうち一人の男がしゃべりだした。


 「まずは俺から。芝浦護、日本から転移してきた勇者です」

 彼がそう言うと、周りがざわざわと騒ぎ出した。転移魔法・・・正直神話レベルの話だと思っていたが、本当に存在したようだ。さらに、彼が自分に、炎・水・風・土・雷・光・闇の全属性に魔法適正があることを告げると、集まったメンバーがどっと沸く。

 

 「なんかむかつくな、あいつ」

 俺の隣でそう呟いたのは、スタンベック・ライリー。たまたま宿舎で同室だった、ルームメイトである。王都の生まれであるベックには、田舎生まれの俺はこの三日間いろいろ世話になった。基本的には良いやつなんだが。

 

 「なあセシル、俺もああいう髪型にしてみようかな。どう思う?」

 彼の珍しい髪型が気になったのか、ベックはそう俺に問う。



 「やめとくことをお勧めする。少なくともベック骨格には合わないと思う」

 「ちえ・・・」

 俺は半ば適当にそう答えた。というよりも、今は彼の髪型より、異世界から来たという勇者たちの方が気になってしまうからだ。

 

 「じゃあ、次は私だね・・・宮代ロロカです。私は攻撃魔法の適正は水と雷だけでしたが、回復魔法が使えるみたいです」

 自信満々なシバウラとは違って、彼女は少し照れ気味にそう話した。

 

 「組島七瀬・・・・剣道部だったから、剣術は得意です」

 「・・・それから、彼女は剣術系のスキルをほぼ習得している」

 クールなクミシマに代わって、教官がそう付け加えた。

 

 「そうして、最後に残ったのがこの俺、桐谷隼人。炎・雷のSランク魔法が使える最強の勇者だ」

 最後、ということは、やはり前の方で固まっていたあの四人が勇者ということだろう。続いて勇者たちの近くにいた男から順に自己紹介が再開されるが、皆やや控えめな感じである。

 四人の基本スペックはたしかにとんでもなく高く、現状でも王国軍でも上位五パーセントには入るだろう。そう考えると、当然と言えば当然の反応だ。

 そんな感じで、スムーズに話が進み、最後に俺の番がやってくる。

 

 「セシル・ハルガダナです。体術・剣術はそこそこ得意ですが、魔法七大属性に適性はありません」

 再び周りが騒ぎ始めたが、勇者のときのように良い驚かれ方ではないのはもちろんわかっている。

 というのも、ほとんどの人間は、七つのうちいずれかの一つの属性には適性を持って生まれてくる。そのため、一つも適性がないというのはむしろその方が珍しいのだ。



 「―――しかし、」

 俺が追加で説明をくわえようとすると、キリヤがそれを遮るようにして発言した。

 

 「よっしゃ、これでやっと全員終わったな。さっそく訓練開始ってことで・・・誰か俺の相手をしてくれよ」

 早く実践で魔法を試したいという感じに、彼は手首をくるくるとまわした。

 

 「おいちょっと待つんだ、ハヤト・キリヤ!まだ初日なんだ、いきなり危険な訓練は容認できない」

 「いいのか先生、俺は勇者だぜ?」

 「・・・!」


 これだけの能力を持っているのに人数自体は少ない、勇者というのは間違いなく希少な存在であることは確かだ。教官が戸惑うのも無理はないだろう、勇者の機嫌を損ねて敵側に寝返られでもしたら、それこそ大損害だ。

 逆にキリヤはそういった事情までよく理解しているらしい。数秒間考えたのち、教官は答えを出した。

 

 「わかった、誰か相手をしてくれる者、いないか?」

 「・・・・・」

 むろん、積極的に名乗り出るものなどいないだろう。そんな状況にしびれを切らしたのか、はたまた鼻からそのつもりだったのか、キリヤはある人物を指名した。

 

 「誰もいないんだったら、そこの・・・セシルとスタンベックだったっか?お前らが来てもいいんだぜ、俺たちのことが気に入らないんだろ?」

 (聞こえてたのか・・・)

 

 「やべえ、どうするよセシル・・・」

 ベックは不安そうに俺の方を見る。本人もまさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう、かなり焦った様子だ。


 (仕方ない)

 ベックには恩があるし、ここは俺が行くしかないか。

 

 「わかった、俺が相手するよ」

 「へえ、いい度胸だ」



 「先にさっきのことは謝っとく。別に悪意があったわけじゃないんだ」

 「いいさ別に」


 キリヤは完全に戦闘モードに入ってしまっているようだし、これ以上なにか言ってもしようがないだろう。そう判断した俺は、彼の前で攻撃に備えた。

 

 「よし、良いか?あくまで、模擬戦闘だからな。相手に致命傷を与えるような攻撃は・・・・っておい!」



 教官の話を最後まで聞き終わることなく、キリヤは俺の方へと飛び込んでくる。しかし、身体能力は高いようだが、体術自体は素人レベルのようだ。俺は飛んできた彼のパンチを軽くいなす。

 

 「へえ、武術ができるっていうのは本当みたいだな」

 体勢を立て直したキリヤは、にやっと不敵な笑みを浮かべると、魔法ができないと語った俺をあざ笑うかのように魔力を練り上げた。

 

 「いくぜ!炎魔法:グリッドフレア‼」


 俺の横を燃えるような熱風が吹き去る。円柱状の炎の柱が通った場所には、まさにどの場所とわかるように地面が黒く焦げつき、最終的にそれがたどり着いた壁もまた、真っ黒く染まっていた。 

 「っち、外したか」



 (・・・・これはどう考えてもやりすぎなんじゃ)

 

 横目に見る教官は唖然と状況を見守るだけで、止めに入ろうという様子はない。なるほど、俺一人失っても、勇者の機嫌取りを優先したか。

 



 「オラオラ、よそ見してんじゃねえよ‼」

 勇者は炎で器用に作り上げた巨大なハンマーを、こちらに向かって振り回す。

 

 (動きが単純で良かった)

 炎魔法の恐ろしいところは、技の効果範囲が広く、場合によってかすっただけでも致命傷になりうるということ。つまり、完全によけきらなければならない。

 

 「クソ、なんでだ。当たんねえ・・・」

 初めてキリヤの表情が曇った。初めはいい感じに負けてやろうとも思ったが、悪いが俺もこんなところで死ぬわけにはいかない。



 あまり長引かせても仕方がないので、俺は水平に振り出されたオレンジに燃え盛るハンマーをしゃがんでかわす。


 〈ブオオオオン〉と、熱風とともに、炎が揺れ動く音が空中で震える。

 続いて、すかさずキリヤの懐に潜り込むと、俺はこぶしを握って後ろに構えた。

 

 「おい、待てやめろ!」

 自分のおかれた窮地に気が付いたのか、キリヤは咄嗟にそう発した。



 (すまんな・・・)

 このまま気絶させる、そうすれば少し頭も冷えるだろう。

 

 「やめろおおおおおお」

 キリヤは構えなおしたハンマーを振り下ろすが、もう遅い。俺の攻撃の方が早・・・

 (・・・?)



 体が動かない。キリヤになにかされたようには感じなかったが、突然俺の体はピクリとも動かなくなった。そして、そのことに気が付いた次の瞬間、俺の頭に強い衝撃が走った。

 


 *


 

 「いやあ、さすがは勇者。素晴らしい能力ですな」

 二ホンからの転移者もいるという理由で、演習場に視察に来ていたグルンビオ少尉は純粋に思ったことをつぶやいた。

 隣で頬杖をつきながら観戦していたレニーノ・ビエラ中将も、興味深そうにしていたので、あるいは同じことを思っているのかと考えたが、違ったようだ。

 彼は嬉しそうに薄い笑みを浮かべると、自身の見解を述べた。

 

 「そうかな?彼は協調性に大きな問題を抱えているように見えるが」

 「いやあしかし、あの魔法は相当完成度が高いように見えました」



 「たしかに、魔法自体はなかなかだったが・・・結局、相手に当てられなければ意味はない」

 「ははは、仰る通りですね。最後も結局、肘打で相手をダウンさせるなんて、まあなんというか、もう少しかっこよく締めてもらいたかったところです」

 

 「ああ、それよりも俺が気になるのは、むしろ相手の方」


 「ああ、セシル・ハルガダナ・・でしたか?確かに体術は優れているようですが、彼は魔法が使えないとか・・・」

 「ああ、でも勇者に勝利した」




 「・・・勝利?中将、お言葉ですが気絶して地面に倒れているのは彼の方ですよ?」

 少尉のこの言葉を聞くと、ビエラまるで喜劇でも観賞しているかのように笑いだした。

 

 「あ、いやすまないね。そうだな、疑いようもなく、地に伏しているのは彼の方だ。俺も言い訳のようなことは好きではないから・・・その通り、彼の負けだ」

 「・・・はあ」



 途中から中将の言っていることがよくわからなくなったが、グルンビオはとりあえずそうあいまいに同調しておいた。なんといっても、王国軍最高の戦力のひとつである中将の言うことなのだから、なにかしらの深い考察があるのだろう。

 

 *

 


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