我愿意相信
「消えた、消えたぞ!やっとだ!」
「炎帝魔祖がいなくなったってことは魔が消えるのか」
「いや、そうではないらしい」
「だが、良かった。あいつがいなくなれば、また元のように戻るだろう」
人々の歓喜の声が、世界に満ちる。
「それにしても、呆気ない終わり方だったな」
「柳氏の酋長が倒したらしい」
「流花永君が……?確か炎帝魔祖と同年の友ではなかったか」
「何言ってるんだ、あいつのせいで柳氏は焼き討ちにされたのだぞ?」
「恨んでいても致し方あるまい」
炎帝魔祖によって歪められた世界は、彼を憎み、恨み、彼の死を喜ぶ者達の声によって埋め尽くされていく。
誰一人として、彼の死を悼む者はいない。
誰もが、当然の報いだ、と死んだ彼を指さす。
死人となり、何も言えない彼を嘲笑う。
「……でも一度死んで、魔に堕ちて蘇ったんだろ?もしかしてまた蘇るんじゃ」
「いや大丈夫だろう、御三家の方々が何度探しても骸はおろか、彼の物は何一つ見つからなかったんだ。残ったのはおぞましい書物だけさ。」
「ならいいが……また蘇りでもしたら、それこそ災厄の再来だよ」
民の密かな不安は一年、また一年と時が経るうちに消えていく。
四季が巡るたびに、炎帝魔祖の本来の姿はおろか、彼が行った所業でさえも歪められていく。
1200年。
人にとっては長く、祓魔師にとっては短い時が神が瞬きをするような間に、過ぎ去っていった。
それだけ過ぎてしまえば、人々の間で炎帝魔祖など、神話にも近くなる。
誰も、彼が生き返るなど、蘇るなど、夢にも思わなくなる。
そして、今日も。
彼がいない世界で彼らの生活は平穏と安心をたたえ、変わらず営まれ続けていた。