序章 我愿意相信
この世ならざるもの。
例えば、妖怪。
例えば、狂屍。
例えば、幽霊。
例えば、魔物。
彼らは人の国と一線を越えたもう一つの国――黄泉の国――にて、その肉体なき魂を輪廻させ、終わることのない生と死を繰り返す。
生死流転、六道輪廻。
人の言葉で言うならば、そうであろうか。
だが、この輪廻は、人が満天の星が瞬く夜空に月をその瞳で見いだすことができなくなった瞬間に、呆気なく崩れた。
魔
この世ならざるものたちのもう一つの姿のものたちの、台頭である。
月が空から姿を消したその瞬間、国中は邪気と呼ばれる陰の気であふれた。
陽の気は太陽が司る。
陰の気は月が、司る。
だが、月がいなくなった瞬間にその均衡は崩れ、肉体なきこの世ならざるものにまとわりついたかとおもうと、彼らに仮初めの肉体を与え、そうして魔へと堕とした。
地は洪水であふれかえり、空は炎で紅く染まる。
竜巻が起こり、雷が落ち、火山が噴火し灰色の雨が降り注ぐ。
魔の台頭は人々から生という生を奪い、輪廻の均衡を一気に崩した。
人は考える。
どうしたら生きられるだろうか、と。
魔は、どうしたらいなくなるだろうか、と。
元のように、どうしたら戻るのか、と。
そんな人の嘆きと、叫びに、ある五人の人間が立ち上がった。
――祓魔師――
今ではそう呼ばれる、常人が有さぬ、もう一つの眼を有する者達は、魔を祓い、封し、そうして国を安定に導いた。
皇帝直々の命により、魔討伐を命じられた祓魔師たちは今では優に三千人を超え、国の安寧を支えている。