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【短編】片思いの王子は婚約者に嫉妬してくれるのかを聞いてみたが玉砕した

作者: 宇水涼麻

「嫉妬は?」


「いたしません」


 舞台上に立つ綺羅びやかな容姿の青年がした質問を舞台下に立つ麗しい少女がきっぱりと否定した。

 青年は膝から崩れ落ち嘆いた。



〰️ 〰️ 〰️


 ここはとある国の貴族学園。講堂での生徒総会が開かれていた。会場を埋め尽くす椅子には制服を着た貴族子女たちが座っている。


「他にご意見はございますか?」


 生徒会役員から本学期の報告を生徒たちにされ、解散に向け司会者が会場に声をかけた。


 スッと手が上がる。


「ではどうぞ」


 眼鏡をかけた美男子が立ち上がった。


「この場を少々お借りする」


 そう言うと男子生徒二人と女子生徒一人が前に出てきた。ふと、たくましい体躯の男子生徒の一人が後ろを振り向き、戻ってくる。


「殿下。こちらへ」


 椅子に座っていた男子生徒に声をかけた。


「本当にやる気か?」


「今やらねば彼女の命に関わります」


「ふぅ……。わかったよ」


 舞台上に四人が並んだ。眼鏡の男子生徒を指名した生徒会長もそれに加わる。


「キャトリーナ!」


 最後に立ち上がった男子生徒が声を張り上げる。


「何事でございましょうか?」


 前から二番目の列に座っていた麗しい女子生徒が立ち上がった。

 その少女を指さして大声を出した。


「キャトリーナ! 君は俺とこの娘との間を疑い醜く嫉妬し、この娘を貶め苛めあげくには殺そうとしたそうだなっ!」


 舞台下の少女キャトリーナが目を細める。


「エリオット殿下。わたくしはそのようなことはいたしておりません」


 掌を前で組み背を正したキャトリーナは凛とした態度ではっきりと否定した。キャトリーナはエリオット『殿下』の婚約者である。


「嫉妬は?」


「いたしません」


「ちくしょー!!! やっぱりなぁ!」


 エリオットが膝を折り頭を抱えて蹲った。王子殿下のそのような態度に唖然とする一同。


「はぁ~~」


 エリオットは大きなため息を床に向かって吐き出してから勢いよく立ち上がり、後ろにいる四人と少し距離をとり対面する。


「はいっ! お前たちは王子の婚約者を愚弄した罪と冤罪をふっかけた罪で有罪」


 舞台袖から衛兵が出てきて四人の後ろ手を拘束した。


「エリー! これはどういうこと!?」


「チッ! リナは言ってくれないのに……」


 エリオットの小さな呟きは誰にも聞こえない。


「お前に愛称呼びを許した覚えはない。敬称も付けないとは不敬罪も追加な。お前さあ、二回しか話したことがないのによく愛称呼びが許されるって思えるな?」


 エリオットは眉を寄せて首を傾げる。


「そんな……」


 少女はウルッと涙を流した。それを見た三人の男子生徒がエリオットを睨む。


「お前たちのその姿勢は反逆罪な。いったいどこまで罪を重ねるんだ?」


 反逆罪と言われた三人は怯んだ。


「みんなは悪くないわっ!」


「コイツ。煩い」


 衛兵は直様少女にタオルを噛ませ頭の後ろで縛る。


「そもそもな、キャトリーナは嫉妬はしない。なぜなら、俺の片思いだから」


 三人は目を見開く。


「キャトリーナとは俺が無理矢理婚約したの。キャトリーナが卒業するまでにオッケーを貰えなかったら婚約を白紙にする条件で、な。

キャトリーナが王子妃教育を受けていないことをおかしいと思わなかったのか?

キャトリーナは公爵令嬢として完璧だから、婚姻してからでも教育は間に合うって理由もあるけど、さ」


「王妃教育が終わるまで両陛下に頑張ってもらえばいいし。その方がキャトリーナといられる時間が増えるし」


 後半はエリオットが一人でブツブツと言っているだけで周りには聞こえない。


 四人は舞台下のキャトリーナを見た。キャトリーナはニッコリと笑ってから着席した。


「おいっ! 見るなっ! 減るっ!」


 あまりの言い分にエリオットを見る四人。


「お前たちには何度も注意したよな。

婚約者を大事にしろ。

俺は王子なのだから側近となるなら、しっかり勉強しなくてはならないし、学生なりの仕事もしなくてはならないぞ。

生徒たちの模範たれ。

何度も何度も口を酸っぱくして言ったよな?」


 三人は目を泳がせた。


「それを無視して婚約破棄されるまでバカしやがってさぁ。お前たちは、その時に側近候補からも外れているからな」


「「「えっ!!?」」」


「当たり前だろう? 主たる俺の注意も聞けないような側近、使えないだろう?」


 三人は顔を青くする。


「ですが、殿下は我々の婚約破棄の後もご一緒されることも多く……」


「それは、俺の慈悲。どうにかお前たちを改心させたかったんだ。共にした時間は短くないからな。簡単には見捨てられなかったんだよ。

だから尚更煩く言ってきたろ?」


「「「殿下……」」」


「でも、その女を俺に絡ませた時点で八方からストップが出た。

そりゃそうだよな。その女がどこぞの刺客だったら、お前たちはどうするつもりだったんだ?」


 青ざめて少女を見やる三人。


「いやいや、結果的にただの男爵令嬢で、勉強が嫌いで、馴れ馴れしくて、図々しくて、勘違い甚だしくて、嘘つきで、身持ちが悪くて、媚売りが得意で、気持ち悪いだけの女だけど」


 会場からクスクスと笑い声が聞こえる。少女は目をギラつかせて何か喚こうとした。衛兵は少女を床に押さえつけた。

 エリオットはまるっと無視する。


「今日のこともさ、ずっと反対してきたろう? これをしなければ、内内で済ませるはずだったんだぞ。お前たちは自分たちの家族にも迷惑かけることになった。身内は可哀想に」


 エリオットが両手を上に向けて呆れのポーズをした。


「陛下とお前たちの家族が王城で待っている」


 エリオットが目配せすると衛兵たちは四人を連れて出ていった。

 入れ違いに教師たちが入ってくる。


「エリオット君!」


「学園長」


 生徒総会は生徒だけで行う行事なので、教師たちは数人しかその場におらず、口を挟めなかったので学園長を呼びに行ったのだ。


「お騒がせしました。私が指名した生徒会長が愚行の手引をして申し訳ありません」


 エリオットは王子としてではなく、生徒として学園長に頭を下げた。エリオットは去年の生徒会長で、自分の側近候補者を後継の生徒会長に指名したのだ。


「いや、あの頃はまともだったようですし、期待するなと言う方が無理でしょう」


「恐れ入ります」


「君たち、生徒会長がおらずとも卒業式の準備はできるのかね?」


 学園長が舞台上に残る生徒会役員たちに聞いた。


「「「「はいっ!」」」」


 生徒会役員たちは少し目を合わせた後、大きな声で返事をした。


「前回の経験がありますから、私も協力します。ご安心ください」


「エリオット君も卒業生の一人なのに悪いですね。でも、みんなの門出です。滞りなくやりたいものです」


「はい。学園長にも納得していただけるものにいたします」


 会場から拍手喝采が起こった。


〰️ 〰️ 〰️


 四人は翌日、王家の経営する鉱山に送られた。罪人というほど劣悪な環境ではないが、四人は寝食の保証だけで給料は向こう二十年払われないことになった。侮辱した王家公爵家への慰謝料に回される。

 王家から家族に罰を与えることはなかったが、醜聞が付き纏い厳しい立場になることは否めないであろう。


〰️ 〰️ 〰️


 卒業式を無事に終えた翌日、エリオットは公爵家を訪れた。


 メイドに案内されお茶の用意されている温室に行く。気がついたキャトリーナが立ち上がって挨拶のカーテシーをする。


 キャトリーナがカーテシーから直るとすでにエリオットはキャトリーナの前に跪いていた。


「キャトリーナ。私と結婚してください」


 真っ赤な薔薇の花束を差し出すエリオット。キャトリーナは優しい笑顔でそれを受け取った。


 花束をメイドに託して二人は腕を組んで公爵家の庭園の散歩に出る。


「リナ。あのさ……俺のことそろそろ愛称で呼んでくれないかな? エリーって……」


「嫌です」


「えっ!」


 隣を歩くキャトリーナを見たエリオットは今にも泣き出しそうな顔をした。


「うふふ」


 エリオットは笑顔のキャトリーナにキョトンとする。


「リオ様。これからもよろしくお願いいたしますわ」


 エリオットは顔を手で覆って蹲った。


「すごいっ! 可愛いっ! 幸せだぁ!」


 赤くなった耳までは隠せないエリオットにキャトリーナは幸せそうに微笑んだ。


 キャトリーナは三年も前からエリオットに『リナ』と愛称呼びを許している。その時点でキャトリーナの心は決まっていたのだ。王妃はそれを知った上で、学園生活を謳歌してくるようにとキャトリーナの王子妃教育をしなかった。


〰️ 〰️ 〰️


「嫉妬は?」


「(エリオット殿下を信じているので)いたしません」


〰️ 〰️ 〰️


 エリオットがそれに気が付く日が来ることはなさそうだ。


〜 fin 〜

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― 新着の感想 ―
婚約破棄(未遂)をしても信用しているから揺るがないって良いね!
[良い点] 語彙が消失し、足をバタバタすることしかできませんでした。 ひたすら「王子可愛い」で最後まで来て、エンディングに壮絶な爆弾を投下されたことによる落差が尊さに拍車をかけていた気がします… 尊…
[良い点] エリオット王子が可愛くて、そしてスッキリすることをズバッと口にしてくれて、わりと口が悪くて、何より一途で、とてもキュンとしました。 キャトリーナの王子への信頼感にも、胸が温まりました。 …
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