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暴走族を凝らしめてみた

 暴走族、別名はゴキブリだ。害虫であり何も生まない。ただ群れるのだけが得意で迷惑だけを提供する、まさにゴキブリ。犯罪と分かって暴走する、その極端に小さな脳みそも、虫けらとなんら変わりはないだろう。


「行ってくるよ。沙紗は先に帰ってて。群れてる内は強気だろうし、きっと絶対に暴れ出す。警察に来られるのも面倒だし、俺一人で片付けるよ」

「う、うん。分かったけど、でも気を付けてね」

「大丈夫大丈夫。やられはしないよ」

「それは分かってるよ。そうじゃなくて、やり過ぎの方」

「あは、そっちね。なるべくできる範囲でね。それじゃあ――」


 沙紗に別れを告げると、暴走族の下へ駆けていく。ある種これもスピード違反だが、道交法に駆け足の決まりなどありえない。そして後を付いて行っては、制裁に最適な場所を伺う。


 それにしてもこいつらは、一体何が目的なのだろう。公道で仲良く集まって、速度の限界を求めるだとか、そんなスリルもなくって。オカルト団体より意味不明で、子供よりも馬鹿げた、謎の集団行動心理。それでいて迷惑は掛けたいという、メンヘラ構ってちゃん顔負けの性質の悪さが備わっている。反社会を目指すなら、どこか無人の孤島にでも行け。


 そして遂にゴキブリの群れは、とある駐車場にバイクを止める。わらわらと集まって、武勇伝という名の犯罪歴でも語っているのだろうか。はっきり言って気が知れないが、今日はそんなお前らに、黒歴史をプレゼントしてやろう。


 彼らの命とも言えるバイク。それに近寄りぺたぺたと、無断で車体に触れはじめる。それだけでこの低能どもは、激怒するに違いない。俺の行動に気付くと、すくと立ち上がる金髪の女。ずかずかとこちらに歩み寄り、口汚い言葉を浴びせかけて――


「なんだお前、バイクに興味があるのかよ」

「え、え?」


 暴言を……暴力を……


「かっこいいだろ、あたしのバイク。お前、免許は持ってんのか?」

「い、いえ……持ってないです」

「なぁんだよ、無免で乗る訳にはいかねぇなぁ。だったらよ、あたしの後ろに乗ってみるかい?」


 立てた親指を背に向けて、優しく微笑むその女。首筋に覗くタトゥーに、無数のピアスが皮膚を貫く。形骸的な不良に見えるが……あれ、こいつ。良い奴なんじゃ――


 って、いけない。そんなことはありえないんだ。ヘルメットもしないでバイクに乗って、良い奴なんてことはありえない。速度も優に超過してたし、うるさく街中を走っていた。社会の底辺である暴走族に違いないんだ。


「あの、なんで暴走するんですか」

「んあ?」

「なんの意味もないじゃないですか。何か得られるものなんてありますか?」


 これを伝えれば、きっと態度は移り変わる。今みたいにして、仮初めの親しさで仲間を集めて、でも本当は乱暴な奴らなんだから。


「そうだな。でも、むしゃくしゃする時ってあるだろ。発散しようがないほどにイラつく時。走ってると心が落ち着くんだ。なんでかって言われても分からねぇけど、反抗期の頃のお前だってそうだったはずだ。感情なんてそんなもんだよ」

「で、でも……皆が迷惑してる」

「んまぁ、それを言われると弱っちまうが。でもここにいる奴らは、そんな皆ってのがいる社会から弾かれたんだ。片親だったり、義理だったり、飯もろくに食えない時代や、教師に見限られていじめられる。そんな少年時代を過ごしてきた。だからよ、社会に復讐したいのさ。やられっぱなしなんてさ、誰だって我慢ならねぇ」


 いじめられた復讐、それを社会に。俺は強大な力を持つが故に、このような道を辿ったが、しかし仮にそれが無かったら、一体どうなっていたのだろう。自殺を選ぶか、身を顧みずに復讐するか、黙ってそのまま耐えて生きるか、若しくは反社会的行動に至ってしまうか。


 あり得る、全然あり得る。あの時の荒んだ感情ならば、今こうしてこの女から勧めがあれば、確実にそれを受け入れて、暴走族に入っている。そこが例え犯罪の場でも、認めてくれる者を求めてしまう。彼らが抱えているのは孤独であり、得られるものは居場所なのだ。


「お前、暴走族には向いてなさそうだ。帰りな、ここにいていいことなんて何もないよ。家族が待ってるなら、居場所があるなら、あるべきところに帰りなって」


 そうして背を向け、仲間内へと帰っていく女。でも、駄目だよ。俺は引き返せない。これより全然軽微な人を、今まで裁いてきたのだから。人柄に当てられて押し黙るなんて、相手によって出し引きするなんて、そんなのはDQN共と同じで、正義などでは決してない。


 無意識の内に手が伸びて、俺はバイクを押していた。傾くバイクはドミノのように、次々と倒れていき、そして振り向く強面の面々。


「てめぇ、さっきから何してるかと思えば、何やったのか分かってんだろうな」


 立ち上がる男は図体もでかく、集団の中で中心に位置する。恐らく彼らの総長的な存在だろう。


「や、やめろって、武志(たけし)!」

「黙ってろ、宇宙(そら)。おいてめぇ、逃げられると思うなよ」


 言われなくても、逃げるつもりなんて毛頭ない。俺は使命から逃げてはいけないのだから。暴走族を粛清し、そして世界を変えてみせるんだ。


「社会悪どもめ、懺悔を吐くなら今の内だ!」

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