強欲と異世界転生
それからというもの、俺の学校生活は劇的な変化を迎えることになる。
まずいじめの主犯の四人組だが、さすがに殺めることまではせず、しかし暫くの間は入院した。怪我の理由は身内の喧嘩と、そういうことになっている。懺悔を語らせ、その後に固く約束させた。そして俺の下から逃げること、それもさせないように誓わせる。あれほどにいじめられても、俺は健気に学校に通い続けたのだ。それを思えば、安易に逃げ出すことなんて絶対に許されざる行為である。
いじめが収まっても、俺に対してのクラスメイトの無視は続いていた。主犯からの余波を恐れて、誰も俺に関わろうとはしない。本来なら耐えられない状況だろうが、それを超える苦痛を味わってきたのだ。誰にも干渉されることはなく、今はとても気楽に感じている。
しかしそんな穏やかな日々は、彼らの退院と共に終わりを迎えることになる。
「退院できたんだぁ、良かったねぇ」
わらわらと集まるクラスの女子ども、退院した彼らを黄色い声で迎える。まるで示し合わせたかのように四人一緒の登校だが、事実示し合わせて来たのだろう。
「ああ……」
「まぁね……」
気のない返事を漏らして、そして彼らは各々の席へ。陰気な彼らを不思議に見つめるクラスメイト。そんな静まりかえる教室の中で、俺はそれとなく呟いた。
「いつもは早々に俺のところに来る癖にね、今日は挨拶もなしか」
いじめられっこだった俺の発言に、クラスメイトは疑問と呆れの視線を投げかける。しかしそれ以上に彼ら四人は、ぎくりと畏怖の眼差しを俺に向けた。
にやりと、悪意を孕んだ笑みを見せると、途端に四人は席を立ち、俺の足元に滑り込むように這いつくばると、土下座で許しを乞うたのだった。
それが、はじまりに言った劇的な変化で、穏やかな日々の終焉だ。以降俺は、何かと持て囃されることになる。無視を決め込んでいた連中も、見るなり即座に笑顔を張り付ける。そして主犯の四人組は、俺に忠実な奴隷となったのだった。
一度、ただの一度だけ。奴隷の一人が自暴自棄となり、現状から逃げ出すことを願ったのだろう。俺の後頭部を唐突にバッドで叩いたことがあった。それを皆が見ていたが、しかし俺の肉体は無敵なのだ。核爆弾に比べてしまえば、バッドの一撃などそよ風に等しい。叩いた本人はすぐにバッドを手放して、膝を落としては機械のようにごめんなさいと、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいと、授業が始まっても頑なに場を動こうとしなかった。
この瞬間、俺はこの世から何故いじめがなくならないのか。それを肌で理解できたしまった。支配欲とでも言おうか、この昂る感情は何物にも代えがたい。自分が強い立場にいると、自分の思うままに周りが動くと、それが安心で快感で――
だからこの世からチートだの最強だの、異世界転生というジャンルが、これほどまでに持て囃されるのだろう。それが弱い者いじめじゃないにしろ、根本的に人は、頂点や支配に憧れている。創作の主人公は正義かもしれないが、しかし見ている読者はそうとは限らない。数多の女を我が物とする、不道徳に喜びを感じる辺り、既に支配欲と悪徳に塗れている。本能がそれらを求めていて、なのだとしたら、いじめは絶対になくならない。
俺はそれに吞まれて良いのだろうか。これまではいじめられっこだった俺だが、この先の人生を思うがままに生きてしまえば、俺はいじめっこの側になってしまう。果たして俺は、この力をどのように使うべきなのだろうか。