少年編2
春子が退院してしばらくしてから、隆司のお披露目ということでささやかながら自宅に親戚を呼んでパーティーを催した。
前田家にとって初めての我が子。
隆一は前田家の長男なのでその長男の隆司はいわゆる跡取りということで、このパーティーには一族郎党総出で、じいちゃんやばあちゃんにとっては初孫ということもあり、手狭な前田家には入りきらないほどの人数が集まった。
ここの家系は何か事あるごとに大袈裟なのである。
まあ、親戚一同が円満なことは良いことであるが。
そんな幸せで穏やかな環境の中、隆司は何不自由なく、すくすくと育っていった。
特に近所のおばちゃん連中には容姿が男の子にしてはどことなく女の子っぽいせいと、春子が自分の好みで赤や黄色などの可愛らしい子供服を着せていたためか、よく女の子に間違われた。
たまに近くの公園に遊びに行くと「まあ、かわいいー!女のお子さんですか?」と通りすがりの人に声をかけられる。
その度に、「いいえー、男の子なんですよー」と否定しながらも春子は何気に嬉しそうである。
自分のコーディネートした服が可愛らしくてそう思ってもらえたのだと勘違いしているのだ。
まあ、女の子が男の子に間違われる事を思えばこの度の春子の心情も表向きは正常なのかも知れないが。
こんな感じで何事もなく幸せで平穏な年月を重ねていた前田家にもある日、世間からすれば些細な事かも知れないが、重大な事件が起こる。
それは隆司が満3歳の時の夏で、その年一番の暑い日だった。