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怪談あ

作者: 若心日奈

東海地方の某高校に通うAさんの話。


ある日Aさんはバスターミナルのベンチに腰掛けてスマホをいじっていた。いつもなら人が結構いて立ったままバスを待たなくてはいけないが、今日は周りにバスを待つ人の姿はなかった。スマホいじってしばらくたった頃、パタパタという音が聞こえてきた。目線をあげるとパタパタとサンダルの音を響かせながら30代後半くらいの男がちょうどAさんの前を通りすぎるところだった。男は冬だというのにかなりの薄着で首には民族系のアクセサリーらしきものがいくつかぶら下がっていた。秋も後半のこの季節には随分と目立つ格好だ。男は別のバス乗り場へパタパタという音をたてながら去っていった。

Aさんの視線がまたスマホに戻り数分がたった。するとどこからかまたあのパタパタという音が聞こえてきた。目線を上げるとまたやはりあの男が先ほどと同じように向こうから歩いてくる。このバスターミナルは環状になっていて、同じ方向に歩いていけばもとの場所に戻ってくるような仕組みになっている。そのためAさんはその男が自分の乗るバスの乗り場を間違えて戻ってきたのだと思った。しかし、パタパタというサンダルの音は止まることはなく、その音はまた先程と同様、別の乗り場の方へ消えていった。乗るバスが分からなくて迷っているのだろうか。この時はまだそう思っていた。

そしてまた数分後。

パタパタパタパタ……

Aさんの耳にまたあの音が聞こえてくる。

やはりその足音は止まらない。

そしてまた足音がだんだんと遠のいていく。

そして数分後にまた……

ここでAさんはこの男は迷っているわけではないのだと気がついた。乗るバスが分からなくて迷っているなら立ち止まって掲示板や時刻表を見たりなんだりするはずだ。しかしこの男は先程から立ち止まったりする気配がない。ならば少し変わった人なのだろうか…そんなことを思っている内にAさんはさらにおかしなことに気づいた。

………ペースが速くなっている。

はじめのうちは、パタパタいう音が遠ざかっていってから数分後にまた音が聞こえてきた。しかし今は数十秒もないうちにまたパタパタという音が聞こえてくる。このバスターミナルを一周するには少なくとも数分はかかるはずだ。それなのに…

パタパタパタパタパタパタパタパタ………パタパタパタパタパタパタパタパタ……パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ…音の間はどんどん短くなっていく。

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

しまいには音は遠ざかることすらなくなった。

Aさんは得体の知れない恐怖にもう顔をあげることも出来ず、ただただ目を瞑るばかりだった。もし目を開けてしまえば、地面に落とした視界の隅を青いサンダルがありえないスピードで過ぎていくのを見てしまうから…

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ……………………………

……………どれくらい時間が経っただろうか。

ふと気がつくと音は止み、異様な静けさが訪れた。

Aさんが恐る恐る目を開けると辺りにはいつもと同じバスターミナルの光景が広がっているだけだった。

しばらくするとAさんの乗るバスが乗り場へ入ってきた。運転手さんの顔を見て安堵したAさんがバスに乗ろうとした時、Aさんの背後で音が…………………パタ。




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