原田さんの絵
原田さんは思い出したように明るい声で言った。
「私ね、故郷のことを少しでも残そうと思って、あの村の景色を絵に描いているのよ。私が覚えている分しか描けていないからあまり多くはないけれど、見てくれる?」
「もちろんです!ぜひ見せてください!」
原田さんはまた部屋を出ると、大きなスケッチブックを抱えて戻ってきた。
「実はね、まだ納得のいくものが描けなくて誰にも見せていないのよ。だからゆりなさんに見せるのが初めて。」
原田さんの絵を見た瞬間、私は息を吞んだ。
金色に色づいた稲穂。一面雪に覆われた棚田の風景。夏の夜に焚火を囲んで集まる村人たち…
この風景、全部知っている!
そう思った時、記憶の引き出しが一気に開いて、いつの頃か分からない記憶がよみがえってきた。
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『そうねー、じゃあ次は冬の話をしようかしら。』
おばあちゃんの優しい声が心の中で響いた。
『あの村の冬は厳しかったの。ある時は腰のあたりまで雪が積もったわ。』
『ユキだ!ユキだ!』
私の幼い声が聞こえてきた。
『そう、真っ白な雪よ。とっても寒くて春が恋しいんだけど、雪がやんですっきりと晴れた日には一面が白く輝いてきれいなの。ゆりちゃんにもいつか見せてあげたいわ。』
『ナツは? ばあば、ナツは何するの?』
『夏は楽しいことがたくさん! 無事全部の田んぼの田植えが終わったらね、村のみんなでお祭りをするの。お祭りに向けてみんなで神輿を作って、子供たちは踊りを練習したわ。
お祭りは夜まで続いてね、でもその日の終わりには作った神輿を燃やしちゃうの。炎を囲んでみんなで村に伝わる歌を歌うんだけど、歌いながら焚火を眺めていると楽しい時間が終わったようで、少しだけ悲しい気持ちになったわ。』
おばあちゃんは静かにその歌を歌った。それが子守歌のように心地よくて、いつのまにか私はおばあちゃんの横で深い眠りについていた…