おばあちゃんのお話
「紹ちゃんはあなたに故郷の話を聞かせてあげていたのね。それを、あなたはしっかりと覚えていた。」
「おばあちゃん…」
「そういえば、あなたのおばあちゃんはお話がとっても上手だったわ。雨が降って外で遊べない日は、決まって紹ちゃんのお話を聞いていたの。
紹ちゃんは人から聞いた昔話も、自分で考えた物語も、上手に話していた。私はいつも、その世界に引き込まれていたわ。紹ちゃんのお話を聞いている時はその物語の風景がはっきりと頭の中に浮かんで、自分がその物語の主人公になったような気分になった。
紹ちゃんはあの頃と全く変わっていなかったのね。あなたはあの頃の私と同じ、紹ちゃんのお話の虜にされていたのよ。」
「私、おばあちゃんのこと、もう忘れてしまったと思っていました。」
でも、ちゃんと覚えていた! なくしたと思っていたおばあちゃんの記憶、私の中にずっとあったんだ。
写真の中のおばあちゃんの顔を思い浮かべた時、ふと別のことが気になった。
「あの、原田さん。おばあちゃんは私が4歳の頃に…」
私が話し終えるよりも前に、原田さんは頷いていた。原田さんは全て知っているようだった。
「手紙が急に来なくなったから、私も気になって調べたのよ。私は10年前に子供の誘いでこの町に引っ越してきたんだけど、紹ちゃんとはすれ違いになってしまったわ…
だから、故郷の村のことを知っているのはもう私一人だけだと思っていたの。でも違ったわ。あなたが紹ちゃんの記憶を引き継いでくれていたのね。」
原田さんの笑顔を見て、私も嬉しくなった。