おばあちゃんの手紙
「え!? 今なんて…あなた紹ちゃんのお孫さん? それじゃ、ゆりなちゃんってあなたのことだったの?」
原田さんはしばらく口をぽかんと開けていた。それから何かを思い出したように立ち上がると、「ちょっと待っていて頂戴」と言って部屋から出て行った。
しばらくすると、原田さんは小さな木箱を大事そうに抱えて戻ってきた。
「ここにはね、大切な人からの手紙を入れているの。紹ちゃんとはお互い結婚して離れてからも手紙のやり取りをしていたからたくさん手紙があるのよ。」
箱の中には、差出人が長谷川紹子と書かれた手紙がいくつか入っているのが見えた。
「村を離れたすぐは、それこそ頻繁にやりとりしていたんだけどね、子供が生まれてからはお互い忙しくなって、連絡を取ることはなくなったわ。でもね、ある時急に手紙が来たの。もう20年ぶりくらいのお手紙だったのよ。何の知らせだと思う?」
私が首を傾げていると、原田さんは「これよ」と言って一枚のはがきを見せてくれた。古くなった紙が茶色く色褪せていたけれど、ペンで書かれた文字ははっきりと読むことができた。
『千恵子ちゃん、覚えていますか。紹子です。
私に初孫ができました。ゆりなと言います。小さくて、本当にかわいい子です。
急にお手紙書いてごめんなさい。親友の千恵子ちゃんにどうしても知らせたかったの。年老いた私にも生きがいができました。
またお手紙出します。 -長谷川紹子』
「ゆりなさんのことが、本当にかわいかったようね。」
そう言うと、原田さんは私に別の手紙を差し出した。
『千恵子ちゃん、お元気ですか。
孫が3歳になりました。娘が入院しているので、私が代わりにお世話をしています。
ゆりなが寝る前のお話をねだるので、千恵子ちゃんと過ごした故郷の思い出話を聞かせてあげることにしました。
絵本を読んであげるよりも、こちらの方がよく聞いてくれるようです。
ゆりなに聞かせているうちに私もあの日々が懐かしくなってきました。
もうなくなってしまった故郷のことだから、私が生きているうちにできるだけゆりなに話しておこうと思っています。 ―長谷川紹子』