故郷の思い出
原田さんは私が絵の右上に描いた茅葺屋根の家を指さした。
「ここは私のお友達の家。私の家はこれより少し棚田を上がった所にあるわ。この家の子は私の大親友で、歳も近かったから毎日のように一緒に遊んでいたの。その子とのことは今でもはっきりと覚えている。
少しだけ、私の思い出話をさせてちょうだいね。
その子とのことで一番思い出すのは、二人で町へ行こうとした時ね。狭い村の中だけでの暮らしに飽き飽きしちゃって、こっそり村を抜け出そうとしたの。何度か親に連れられて行ったことがあったから私たちは二人とも道を分かっているつもりだったのね。でも、山は深くて、山の中で迷子になってしまった。夕暮れが過ぎて夜が迫ってきたときは本当に恐ろしかったわ。
二人で泣いていたら村の男たちが見つけてくれて、何とか事なきを得たんだけど、当然お父さんたちにこっぴどく叱られたわ。それからしばらくは家から出してもらえなかったもの。」
初めて会った人の話なのに、何だか初めて聞いた気がしなかった。同じ話を前にも聞いたことがあるような、そんな感覚だった。
私はふと気になったことを聞いてみた。
「そのお友達の名前、何ですか?」
「名前? 竹田紹子ちゃんよ。私は紹ちゃんと呼んでいたわ。長谷川さんってとこにお嫁に行ったから、それからは長谷川紹子ちゃんね。」
長谷川紹子…。
「原田さん、長谷川紹子は、私のおばあちゃんです。」