捨てられた村
原田さんは懐かしむように故郷の村のこと話し始めた。
「私の故郷は山の中の不便な村だった。古い時代は稲作で栄えていたようだけどそれも続かなくてね、みんな少しずつ遠くの町へ引っ越して行ったの。
私の家族が村の最後の住民だった。でも、私がお嫁に行く時に家族みんなで町へ出て、それからは完全に捨てられた集落になってしまった。
40年くらい前かしら。気になって一度村に戻ってみたけれど、荒れた田と壊れかけた家が残っていただけだったわ。何だか悲しくなって、恐ろしくなって、それからは一度も戻っていないの。村へ続く山道も、今はもう塞がっているんじゃないかしら。」
半世紀以上も昔に捨てられた村。その風景が私の記憶の中にある…
だんだん頭が混乱してきて、私は何も言えなくなってしまった。
「村を捨てた私が言うのも変だけれど、この歳になって故郷のことが懐かしくなってね、思い出そうとしているの。でも、あの時代でしょ。写真なんか残っていないし、村を知っている人も今では私しかいないはずよ。小川さんは、他の人からこの村の話を聞いたり、誰かが描いた村の絵を見たりしたことがあるのかしら?」
しばらく考えたけれど、何も思い出せなかった。
「ごめんなさい、自分でもどうしてこの村のことを知っているのか分からないんです。でも、もう少しこの場所のことを教えてくれませんか? 何かを思い出せるかもしれないから。」
「そうね。じゃあ、あなたが絵に描いてくれたものをお話しようかしら。」